事実は小説よりも。 【大学編②】

友人の曇った表情を見て、なんとなく悟ってしまった。

多分、彼にはつきあっている人がいるのだろうと。間違っていなかった。梨花いわく、ひと月ほど前からその人にはいつも一緒の女の子がいるとのこと。彼女も同じサークルらしい。「私さ、」梨花は言った。「Yと〇〇くんのことをずっと聞いてたから、正直信じられなかったよ。まさか他の子と。」とため息をついた。私は、そうだねと言った。でも、仕方ないんだよ。その人が誰とつきあおうが、私に何を言う資格があるのだろう。


別れる前、梨花は言ってくれた。「Yの純粋さと、透き通った心を大切にしてくれる人を見つけてね」悲しいはずなのに、嬉しかった。ありがとう。


その日はアルバイトだった。よりによってその人と一緒のシフト。

梨花から聞いたことは本当だろうけれど、やっぱり本人に本当のところを聞きたいと思った。私は私で、この思いを終着させる必要があったわけだ。だけど、何て聞けばいいのだろう?『彼女出来たんだよね。』って?無理!言えるわけがない。『最近大学でどんな感じ?』却下!今更、不自然すぎる。『そういえば梨花から聞いたんだけどさ~。』ダメだ、噂話みたいで気が引ける。


頭の中で忙しくシミュレーションしていた時、その人が話しかけてきた。Yちゃんの出発って7月だよね、と。私はそうだと答えた。そこから留学先の大学の話しになって、自然な流れでバイト仲間との話になった。私は言った。「仲良くなれたのに、みんなに会えなくなるのが寂しいな。」彼は出発前に送別会をしようと言った。私は礼を伝えて、えーいもういいや!とばかりにこんなことを尋ねたのだ。


「リムルにとって私は、どんな存在?」


他人が聞けば意味不明、何の脈絡もない質問だった。言葉を発した直後に猛烈に後悔したけど、返事への好奇心の方が勝っていた。虚を突かれたのか、一瞬その人は言葉を失ったけれど、やがて私にまっすぐに向き直って答えた。


「一生の、大事な、ともだち。」


そっか、ありがとうと私は笑顔で答えた。そのまま仕事を終えユニフォームを脱いでサヨナラを言ってコンビニを後にした。外は雨が降っていたことと、雨のお陰で止まらない涙が目立たなくてちょうどいいやって思いながら帰ったことを、その人は知るよしもないだろう。7年分の涙だった。



ひと月後、私は機上の人となった。夢に見たアメリカでの留学生活が始まるのだ。出発前にたくさんの友人たちからもらった色紙や手紙がスーツケースに入れてある。ともすれば臆病になる気持ちに勇気をくれる宝物たちだ。何通かは手元のバッグに忍ばせてあった。


その中の一通を開いてみる。出発の直前にその人から送られてきた、久しぶりの手紙。


『‥送別会ができて良かった。アメリカで頑張って。俺も負けないように日本で頑張るから。そういや最後に店にあいさつに来てくれた日、会えなくて残念だった。Yちゃんがバッサリ髪を切ったと店長が大騒ぎしてた。月9の女優さんみたいですげー綺麗だった、てさ。見逃した!!帰ってきたら必ず連絡して。元気で。』


静かな飛行機の中でクスッと笑う。

私たちはようやくともだちになれたのだろうか。




そして、再会したのは3年後。


(了)

Be ambitious, dear friends.

現役英語講師の頭の中。