「こ、琴子、お前こんなの見て・・・あっはっは~、笑いが止まら・・・」



「ち、違うったら・・・も、もう・・・馬鹿ぁ~」


無理やり直樹から取り去ると


琴子の慌てようがいかにも愛しく直樹は眺めた


琴子は後ろ手にDVDを隠して後ずさりすると


ゴツンとベッドの端に琴子の背が当たった


直樹がわざと取り返そうと近づくき、琴子の手首を握った


息がお互い当たるほど近づき


一瞬の静寂が訪れた



しなやかに琴子の髪が揺れ


二人の心臓の音が聞こえそうなぐらい高鳴った


琴子の瞳が大きく開き


息を止めてしまうほど琴子は固まった


入江くんの香り


首筋から入江くんの匂い


直樹のくちびるが近づきギュッと目を閉じた


ふっと思い出す光景


高校の卒業の時に・・・


あの時は舞い上がって・・・


とんとんと足音が聞こえ


慌てて離れベッドの横に並んで座り込んだ


「入江くん・・・ほんとに私でいいの」


「何言ってるんだ今更。俺たちはもう婚約したんだぞ」


「だって・・・」契約で・・・そう聞けない琴子だ



最初は契約でも、育め(はぐくめ)ばいいでしょ。そう里美やじん子に言われたことを


思い出しながら、言葉を濁してしまう


「琴子、お前は俺が好きなんだろ」


「うん」


「お前が金之助にプロ・・・」


部屋の外で様子をうかがっていたのかすぐに入らなかった重雄が


ようやくノックと共にドアが開けた


「琴子、これ」そそくさとお茶を渡すと直樹に声をかけてすぐに出ていった


重雄らしく昆布が添えられた渋めの緑茶


「入江くんとこみたいにコーヒーじゃないけど・・・どうぞ」


少し口を潤すと琴子が思い出したように


「ね、金ちゃんがプロって・・・??」


直樹は笑うだけで何も言わず


「それより、お袋わざわざ俺に届けさせて、琴子とこれを見ろって言うことなんだろ」


「ち、違う、私だけで、いいの」



「お前一人で見るのか」直樹は口角をあげると


「ま、いいか、一緒に住んだらどうせ、見なくても実践だからな」


「じ、実践・・・そんなことしない・・・ん・・・する・・・も、もう~~」


「ま、別に今でもいいけど・・・な」



不意に塞がれ


不思議な感覚に囚われた


もがく琴子の力が抜け、直樹が唇を離した


体中が熱い


ぼーっとする私の耳元で入江くんが聞いたことのないトーンで囁いた


「同棲楽しみだな」


え・・・ほんとに・・・契約でも・・・私でも



も、もしかして、身体が魅力的・・・


それとも、私の魅力がわかった???



契約だから、しかたなくじゃないの??


私の魅力に気が付いたの


うふふ・・・あ~~して、こ~~して


変にくちびるを奪われて強気の琴子だ


それとも、ただの女好きを入江くん隠してたの


まさか・・・


「おい、琴子、琴子・・・変なこと考えてるんじゃないだろうな」


ぼんやりと放心しているような琴子の額を人差し指ではじいた


「え・・・な、なんでもない」


激しく首を振った