(もうすぐ、うふふ、入江くんと一緒に)


そう思うと

琴子は、どうしても頬が緩み


ついついスキップを踏んで歩いてしまうのだ


琴子は手のひらを広げては覗いては


相好を崩し、又握りしめた


誰かに、いや、


友達と言う友達に


言いたくてたまんない状態だ。


そう、それは昨日の夜のこと


          ※                ※               ※



「じゃあ、おじさん、帰ります」


直樹は帰り際に重雄に声をかけた


「お~直樹君・・・気をつけて、な」


「お邪魔しました」直樹は頭を軽く下げると


寒そうに襟を少し立て琴子の目線を移した


「じゃあ・・・」


「うん」


スニーカーを履く直樹に続き


琴子は赤いミュールに足を通し


見送ろうと後ろ手に玄関を閉めた


点滅する街路灯


「そうだ、琴子これ」


直樹がポケットからつまみ上げるように何か


取り出し、琴子の目先に差し出した


「え、なに」


鳥目の琴子には


一瞬何かわからなかった


え・・これ・・・


「入江くん・・・これって」


「鍵」ニヤリと笑った


「も、もう、鍵はわかるよ~これって、あの」


琴子の嬉しそうな顔を前に


一層口角を少し上げ


「ああ、もう、契約したから、前下宿していた


アパートの・・・5階502号だ。


家具つきだし いつでも使えるぞ」


「今日からでも一緒に寝れるしな」


(ね、寝るぅ~~~~・・・


そ、そんなこと出来るわけ・・・


なぃ・・・ある・・きゃ~~でも何も)


琴子は首を激しく振った


「どうした琴子」


「何も、ないよ。何も、もう~~」


そう言いながらも嬉しさは隠せずもらった鍵を


食い入るように見つめる琴子だ


その鍵には直樹には似合わない可愛らしい


キーホルダーがつけられて


「こ、これが私達の部屋の鍵・・・」


笑みを隠すように済ました顔の直樹に


「ね、入江くん・・・ありがとう・・・」


顔をくしゃくしゃにして両手で握りしめた


喜んでいた琴子だがだが、すぐに眉尻を寄せて


「でもでも、おばさま、入江くんの家にって


もう、用意してるのに・・・いいの?」


と心配そうに訴えると


「最初からアパート借りるって言ってるのに


お袋が勝手に騒いでるだけだから


放っておけばいいさ」淡々と返してくる


「でも、ホントにいいの?」


心配そうに直樹を見上げ


「ああ、大丈夫だ、俺から話しておくから」


「おばさまに謝らなくちゃあ」


琴子の手のひらで温められた鍵を


何度も何度触れては眺めた


可愛らしい犬のキーホルダー


「ね、キーホルダーも入江くんが付けてくれたの」


「ああ、その辺にあったキーホルダーだから」


(そうなんだ・・・


入江くんの好みじゃあないものね


でもでも・・・嬉しい~~)


日に日に同棲の日が近づいていく