市川準「あしたの私のつくり方」成海璃子前田敦子
目黒にて。「-犬童一心監督企画-目黒シネマ名作チョイスVol.13 市川準監督特集2015 市川準と女優たち」特集。07年、日活。
当時ともに14歳だという、成海璃子と前田敦子の、ダブル主演。このふたりが、小学生高学年から、中学、高校一年くらいまでを演じる。
なかなか面白い。
小学生には、ちょっと大人びている感じがするが、実際にませた小学生高学年女子は存在するし、時々街の小学生が眼に入ると、ランドセルを取ったら、小柄な大人女子とほとんど変わらない子も存在するわけで。
いや、意識的に見ているヘンタイさんじゃありませんよ(笑)と、一応エクスキューズを入れないと。偶然目に入ると、ですからね、今は、なにを言われるか、ワカラナイ(笑)。
成海璃子と前田敦子の、存在感、演技力の確かさ。
市川準監督特集2015 『市川準と女優たち』 予告編
目黒シネマは、母体が大蔵映画ということで、こういう映像素材はお手の物か。デジタル時代ならでは、の、名画座でも、予告編が、出来る。面白い。
あしたの私のつくり方 大人になった今でも、歩み続ける「私」への道 <目黒シネマHPより>
【物語】 仲間外れにされないよう自分を偽り、周りに合わせることで自分を守ろうとする少女たちの葛藤を描いた青春ドラマ。悩み傷つきながらも“本当の自分”を模索する少女たちの心情をみずみずしいタッチで描きだす。 市川準監督、最後の商業映画。
【出演】 成海璃子 前田敦子【2007年/97分/35mmフィルム】
★ 第2回フランスKINOTAYO映画祭国際グランプリ
とはいえ、このふたりの女優の資質は、大違い。
成海璃子は、ナチュラル系。あまり、作りこまない。だから、多用される食事シーンで、食べ物を口に入れ、咀嚼するシーンでは、超不細工顔になる。ここは、子供そのものである。
子役時代の本間千代子も、ほかのシーンではかわいいのに、食事シーンでモノを食うさまは「獣の顔」になっていて、びっくりするのだが、この種のシーンで「演技指導」すると、全体が崩れてしまう、という配慮か。
逆にマエアツは、すべての演技を作りこむ。演技巧者と、いっていい。ただ、14歳ゆえに、すべてをコントロールは、出来ない。
だから、なんでもないシーン、制服を脱ぐ、とか、成海璃子からの封書を見るときとか、いや、デートの時とかでも、本来過剰な感情があってはならない、何気ないショットでも、演技を作りこむから、常に不要なサスペンスを、画面に導入してしまう。
一般に言われるように、スクリーンはTVと違って大きいので、ちょっとの瞬きでも、意味を持ってしまう、といわれるが、そういうことだ(ただし、最近のTVは大型化して、この種の定説は当てはまらないかもしれないが)。
すべてを作りこむが、統御できないマエアツ演技が、成海璃子に比べて、劣る、というような印象の感想が、ネット上に散見されるのは、そういうことかもしれない。
ただし、最近のマエアツ映画を見るに、マエアツの演技統括力はきわめて高度になり、演技派の道を歩みつつあるのは、たいへんうれしい。
あしたの私のつくり方 予告編
とはいえ、本作の「ぬるさ」は、いかんともしがたい。
原作が当時流行のケータイ小説なのか、ラノベなのか、いちいち軽い。
本作のストーリーは、成海璃子が、クラスでハブられている、いじめられっ子の前田敦子に、ケータイのメールでアドヴァイスするというものだが、その内容が、あるブログからのまとめを勝手にコピペすると、
最初に奇数人のグループを見つけて合流する
帰り道、歩くときはさりげなくみんなの中央をキープ
朝は早めに登校して授業前の教室でクラスメイトとおしゃべりをする
お弁当には友だちと分けられるおかずを入れてもらう
クラスで人気のある子と同じクラブに入ること
好きなお笑いコンビのネタを真似して教室で披露
ピンクのネイルを使った「恋が叶うおまじない」をクラスに流行らせる
カラオケに誘われたらなにがあっても行くこと。密室だから友情を深めるのに欠かせない場所
盛り上げたい時は替え歌カラオケがいい。元の歌詞を生かすのがポイント
確かに「女子高生あるある」かもしれないが、こんなにチャらい映画が、市川準の「事実上の遺作」って(笑)。どうした、市川準。
◎追記◎つまり、生涯大人向けの映画を作っていて、それは子供が主役でも、変わらなかった市川が、事実上の遺作で、なんと、どう見ても、児童映画を作ってしまった不思議。
ということで、今回目黒シネマが、この二本をカップリングしてくれたおかげで、あることに気づいた。
★市川準「BU・SU」87年、デヴュー作。富田靖子と広岡由里子が同級生。
★市川準「あしたの私のつくり方」07年、事実上の遺作。成海璃子と前田敦子が、元同級生。
この20年のときを隔てた、デヴュー作と遺作に、共通点は、多い。
1 十代少女の、一種のアイドル映画であり、
2 根暗な転校生が、新しいクラスに転入することから物語が転がりだし、
3 いじめが多発するクラスで、いかに生き延びるか、というテーマを持ち、
4 どちらも創業記念祭での活動が、重要視され、
5 最後は、何とか、ハッピーエンド。
もともとCMディレクターとして頭角を現し、映画デヴュー、しかもデヴュー作「BU・SU」は、大林宣彦の代打だというが、市川準こそは、裏・大林宣彦なのか。
後年、なんとなくアート系の印象が強い市川だが、元アイドル小泉今日子を起用したり、「つぐみ」は牧瀬里穂だったりして、実はアイドル映画への目配せも強い。
なお、本作のクレジットを見ると、前田敦子以外のAKB48メンバーが大量出演。ほとんどがセリフなしか、一言二言の「その他大勢」だが、見ている間は気がつかず。ファンにとっては、お宝探しかもしれない。
成海璃子の両親役はダブル石原の、良純&真理子。特に、石原真理子が、フツーに演技しているだけで、サスペンスでサスペンスで(笑)。
あしたの私のつくり方
★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。
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by mukashinoeiga | 2015-11-24 13:21 | 旧作日本映画感想文 | Comments(2)
ご指摘の「会社物語」など、数々の激渋・大人好みの映画を作り続けた、子供が主役でも大人テイストの市川準が、なぜか遺作の本作でトチ狂った(笑)印象があります。これはこの記事に貼り付けた、監督インタヴューのなかで、本人が、初めてデジタルキャメラで撮った、とても新鮮だった、といっていますが、そのことと関係があるのでしょうか(笑)。
それにしても、女子には女子の、男子にはうかがい知れない(笑)フクザツな付き合いが、あるのですね。うーん。 昔の映画