錯覚を認識する

2017年11月15日

　朝露に濡れた対象志向性としての蝶を見ていた。
　いささかモノローグ的な概観かも知れないが、
　最初のシャッターを切ろう。
　息を詰めるかのような途切れ途切れの言葉で、
　銀色の稜線。色と光の境界面を、屈折せずになめらかに、
　隠蔽された対話の中を本質的なイメージで行き来する蝶だ。

　僕の横を駆け抜けてゆくジャージ姿の男。
　カフス・ボタンを外すように空を見上げた僕に、
　ハレーションが来る、
　赤やオレンジから黄色く弱くなっていく太陽の柔く屈折する秋の光。

　ムラサキシジミの食樹であるアカガシが見える。
　秋になると増えてくると言うが、僕は一度もその姿を見たことがない。
　南方系のアオスジアゲハを見る十月もいい。

　四分の三拍子で打たれるカスタネットのようなボレロ。
　ミストラルや、ダウンバーストのことを考える。

　―――火の鳥のイメージをマルチプロセシングするみたいに、
　靴底の泥の汚れを見ながら、蘇生するな、でも投与する、
　ああ、と僕は思う。
　この泥には甲虫がいる、と―――。

　その連想で、
　ある時期、興味を持って石のことを調べていたことを思い出した。
　こめかみがぴきぴきする、嫌な日だ。頭が異様に冴える、
　でもそれがどうしてパソコンの前ではないのか、
　どうしていま詩を書いていないのかとうなだれる。
　火成岩、堆積岩、変成岩。
　金属も石から出来ているということや、
　カメラや望遠鏡のレンズにも使われる蛍石は、　　
　不純物の作用から紫外線を当てると光る性質があるというように･･。
　、、、、　、、、、、、、、、、、、
　たとえば、樹木の根の生長と分布特性。
　　　　　　　　うす
　でも、いまは、漓い･･。
　空の面積へ。
　タクシーのサイドミラーが掠め取ったような僕の視界。

　ファサードの奥の電球のように、
　恣しいままに美しい景色―――。
　景色がぼうっと霧にかかったように引いていく、
　むらさきつゆくさに、誤差や対立や亀裂はない。
　赤い川茱萸に、奇跡や救済や信仰というものはない。
　忘れていたような羽音がするだけだ。
　透明なプリズムの変容･･。

　―――飽和する自意識を解体する前に、
　思いがけず会えるという、匂いがする。
　効率的な鉄道システムのように、輪郭が薄く硬く感じられる、森の匂い。

　そしてどうしてかふと、２００１年宇宙の旅を観たくなる･･。
　ダンサー・イン・ザ・ダークもいいかも知れない。
　メメント。いや、フォレスト・ガンプもいいかも知れない。

　何度も観ると俗物根性丸出しに見えてくるレオンも、
　ローマの休日だというような意味合いで･･。

　秋は、色を何段階も濃くする、モーメントが限りなくゼロに近くなった、
　季節の錘のような作用だと僕には思われる。
　水面の景色の映り込みで、池の印象を深めるみたいに、
　蝶も空の横断歩道に消えてゆ―――く･･。

　誰もいない。
　時々僕は誰もいない場所を、
　階段の前を通る時に見えた鏡みたいにチラッと眇眼しながら、

　―――しながら、いま、カプリコーンのことを考えている･･。
　違う、星座のことじゃない、あのお菓子のことだ。

　カプリコーンは、糖分の催促だと信じたい。
　体力の消耗の激しいアイスホッケーならいざ知らず、
　痩せた数学者ならいざ知らず、
　あれだね。
　
　でもどうして時々、コーラを飲みたくなるんだろう、と、
　文明研究家に是非ともご教授ねがいたい気分で。

　そういえばこの前、謎の音の振動に襲われた。
　音の振動は、部屋を地震のように揺さぶり、僕の身体を通過した。
　神の声が聞こえた以来の不思議な体験だが、
　いやいや、考えてみると、僕は気付いていないだけで、
　不思議なことをたくさん経験しているのかも知れない。

　僕らしい人生の考察だ、いいね、とはにかもうか。
　どこかピントがずれたまま、冷蔵庫の上に電子レンジを載せる。

　そして―――だ。
　垂直の光が落ちてくる場所で、奇妙な紋様の光を見ている。
　はかりしれない沈黙と死臭を孕んだ微生物の屍のようなパターン、
　とでも訳すべきだろう―――か･･。

　街には原色のネオンが満ち始める架空線、
　呪文や催眠術が無限に分岐していく、整理されない記憶の塊、
　何度も何度も、同じフレーズの言葉が繰り返される、

　前にこれと同じようなもの見たことがなかっただろうか？

　
　

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最終更新日 2017年11月16日 00時41分43秒