花火1 R18 
本作品は性的表現を含みます。18歳未満の方はご退出ください。

「死」を決意した少女と、
「死」を宣告された老人。
ふたりの旅の行き着く先は――?


 連載・遅すぎた花火   第1章 

少女が忽然と姿を消した。
同じアパートに住む
60代の男も、姿を消した。
60代男、少女を連れ去りか――と、
メディアは一斉に報じた。
しかし、その数日後……。





 不明女子中学生、無事救出。
 連れ回しの65歳男、すでに死亡


 TVに流されたテロップを見て、上村里美が「エーッ!?」と声を挙げた。

 「マジッすか? 65歳? エーッ!?」

 宇田敏明の頭には、すぐに翌週の車内吊りに打ち込む見出しが浮かんだ。

 本誌独占入手
 歳の差51の逃避行。
 240時間の明かされなかった真実


 いや、それとも、読者の興味は、65歳の男の素顔に向けられるだろうか?
 だとしたら、50も年下の女子中学生を連れ回した初老の男の「ゆがんだ愛」に焦点を当てたほうが、雑誌は売れるかもしれない。

 仰天スクープ
 51歳年下の女子中学生を連れ回した
 65歳・孤独な老人の「ゆがんだ性」


 どちらにしても、それは、TVで流される第一報を受けて、宇田の頭に浮かんだ推定稿にすぎない。いくら二流週刊誌とはいえ、「裏」を取らない憶測だけの記事を流すわけにはいかない。
 宇田は上村に命じて、女子中学生の周辺取材に当たらせ、自分は、65歳の男のほうを当たってみることにした。

       

 《娘が家を出たまま、帰って来ない。
 何か、事件に巻き込まれたのではないか?》

 母親が警察に捜索願いを出したのが、10日前だった。
 それだけなら、この年頃の少女にありがちな単なる家出かもしれない。
 しかし、母親の次のひと言で、にわかに「事件性」が疑われた。

 《実は、娘に何かと近寄っては声をかけてくる男がいた。
 同じアパートに住む60過ぎの男だが、
 その男も、娘が姿を消して以来、姿が見えなくなった》

 捜査員が、男の家を捜索すると、部屋はもぬけの殻だった。
 ひとり暮らしの男にしては、きちんと片づけられた部屋。しかし、毎日使うはずの洗面道具や歯ブラシなどが見当たらない。電気器具のコンセントもすべて抜き取られ、ブレーカーも落としてあった。
 その様子から、男がしばらく部屋に帰らないつもりらしいことが、想像された。
 何よりも捜査員が注目したのは、部屋の畳の上に無造作に投げ出されたままの携帯電話だった。
 ピンクのボディの携帯には、ビーズを連ねたストラップがついており、その先には、小さなクマのぬいぐるみがぶら下げてあった。
 携帯は、娘の母親・八潮香奈によって、娘の持ち物であることが確認された。
 娘は、男によって監禁され、連れ去られた可能性がきわめて高い。
 所轄の青江南警察署は、当初は極秘に捜査を進めていたが、捜索願受理から4日経っても、娘とその同行者と見られる男の行方はさっぱりつかめなかった。このままでは、最悪の事態も懸念される――ということから、異例の公開捜査に踏み切ることになり、同時に捜査本部を設置して、近隣の県警にも協力を求めることになった。

       

 女子中学生が行方不明。
 同じアパートの男が同行か?


 ニュースは、早速、その日の夕方のニュースで流され、女子中学生・八潮唯美の実名と顔写真、さらに、当日着ていたと思われる服装などが、全国に公開された。
 八潮唯美は、野性的な顔立ちの少女だった。南の太陽が似合いそうな浅黒い肌。大きく見開かれた黒い瞳に、ハッキリと描かれた意志の強そうな眉。どらかと言うと濃い顔立ちで、見ようによっては、美少女とも言えた。
 失踪当時の服装は、ゆるキャラがプリントされたTシャツに、ハーフ丈のカーキ色のショートパンツ。ピンク色のがま口形のショルダー・ポーチを持っていたと言う。
 同行していると思われる男については、似顔絵だけが公開され、実名は伏せられた。きわめて疑わしい状況とはいえ、犯行を裏付ける証拠は何もなかった。「指名手配」とするだけの確証が、警察にもなかった。

 「同行か?」と疑問符付きで報じられた公開捜査のニュースだったが、ワイドショーなどでの取り上げ方は、ほぼ、断定に近かった。
 コメンテーターの中には、「暴行目的の誘拐ということも考えられるのではないか」と、あからさまに口にする者もいた。
 翌日になると、TVの論調は、さらに下品さを増した。
 どこで調べたのか、男が生活保護受給者であることを嗅ぎつけて、「生活保護男、15歳女子中学生を誘拐」などと報道する局も現れた。
 中には、「まったく、こういう男のために、国民の貴重な税金が使われているのかと思うと、腹が立ちますよ」とコメンテータに語らせる局もあった。

  ニュース番組には、娘の母親も登場した。
 飲食店に勤務しているという娘の母親・香奈は、少しハデな感じのする、小太りの女だった。

 「人の子をさらっていくなんて、そんな男、死刑にでもなんでもしたらいいんですよ」

 TVカメラに向かってがなり立てる声が、ドスの利いたダミ声だった。
 しかし――と、宇田は思った。
 この母親、娘の安否が心配ではないのだろうか?

       

 公開捜査から1週間後、事件は、思いもしない形で決着がついた。
 「手配の女子中学生に似た女の子がいる」という一般市民からの通報で、警察官が駆けつけると、女の子がひとり、隣県内を流れる川の護岸に茫然と座り込んで、川面を見つめている姿が発見された。
 服装は失踪した当時とほとんど変わらなかったが、Tシャツだけは、黄色のロゴ入りのものに着替えられていた。
 「八潮唯美さんですか?」と警察官が尋ねると、女の子は黙ってうなずいた。
 「キミ、ひとりかい? 一緒にいたおじさんは?」と訊くと、女の子は、ゆっくりと、手を川にかかる橋の下に向けた。
 警察官が行ってみると、男がひとり、橋げたのコンクリートに寄り掛かったまま、目を閉じていた。

 「オイ、キミ!」

 警察官が肩に手をかけると、男の体はそのまま、横に崩れ落ちた。
 男は、すでに死んでいた。
 特に目立った外傷などはなく、地面には、若干の嘔吐物の跡があった。検視の結果、「病死」の可能性が高かったが、注目された事件でもあったため、念のためということで行政解剖に回された。死因は、「脳内出血」による「病死」だった。

 TVニュースは、繰り返し、ブルーシートで隠された男の死亡現場と、女性警察官に抱きかかえられるように、警察署内に移送される少女の姿を放映した。

 意外な結末。
 少女、無事救出。
 連れ去り男は、病死!


 「救出」の一報を受けて記者会見に臨んだ母親・八潮香奈は、居並ぶ報道カメラを前に、こう口を開いた。

 「あんな男にのこのこくっついていって、まったく、メイワクをおかけしました。娘には、厳しく言って聞かせますので……」

 娘の救出を喜んでいる――という母親の姿ではなかった。
 会見に詰めかけた報道陣の間に、ざわめきが起こった。
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