脳動静脈奇形の話 2 | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

前回から書き始めている脳動静脈奇形の話ですが、

今回からは治療の話について書いていきたいと思います。

 

ただ、これも、脳動脈瘤の話と似ているのですが、

出血を起こしてしまった場合と、

いわゆる未破裂の、未出血の場合で異なってきます。

 

前回のお話しの流れで、なんとなく想像はつくと思うのですが、

当然、出血を起こした場合は治療の適応と考えられることがほとんどです。

 

これは出血後の1年の再出血率が高いというデータに基づいておりますし、

まあ、普通に考えれば、命に係わるような出血を一度でも起こした脳動静脈奇形をそのまま残しておこうと思う人はあまりおりません。

 

出血を起こした場合は、

治療が行えるのであれば治療したいと思うのが普通のように思います。

 

よって、出血を起こしたAVMは原則治療適応と考えられています。

 

では、一方で未破裂の場合はどうかというと、

近年発表されたARUBAという名称の研究が出て以来、やや未破裂の状態での治療が行いにくくなった感があります。

 

まあ、これは治療群の成績が無治療群に対して悪かったからなのです。

無治療群の自然経過はこれまで考えられていた、年間3%程度とほぼ近い結果でした。

約3年(33.3か月)の期間での死亡もしくは脳卒中の発生率が、無治療群では10.1%だったのです。

 

だいたい、年間3%強程度ですから、これまで言われてきた数字と近いですよね。

 

一方で、この研究での治療群の3年間での死亡もしくは脳卒中発生率は、

30.7%でした。

 

つまり、治療群で3倍以上、悪い結果だったのです。

 

この結果が出て以来、

未出血のAVMについてなかなか治療を行おうという雰囲気は弱まりました。

3倍も悪かったとなると、そうなって当然ですよね。

 

おそらく、世界的に未破裂のAVMの治療は減ったのではないかと思います。

 

ただ、この結果、鵜呑みにしていいのかと言うとそうでもありません。

研究内容に多くの問題があったため、このARUBAに対しては本当に多くの批判的な論文が出ています。

 

あんまり細かいこと書いてもしかたないですが、その内容は、

そもそも1例1例がケースバイケースのAVMにおいてこういった研究をやること自体が間違っているというような根本的なものから、

治療方針が全く統一されていなかったこと、

最も根治率の高い手術治療がほとんど行われておらず、ほとんどが放射線治療単独か血管内治療単独だったこと、

などです。

 

個人的には治療内容が偏っていたことが最も問題のような気がします。

というのも、放射線治療単独はまだしも、

血管内治療単独というのはあまり根治的ではないんですね。

 

実際、この研究では114人がAVM に対して治療をうけているのですが、

31人が放射線治療単独、30人が血管内治療による塞栓単独、で、この2つが過半数占めるんですね。

手術単独は5人で、

塞栓+手術がスタンダードとは思うのですが、これはわずか12人だけです。

 

というわけで、

治療法も様々あるので、次回は具体的に治療方法について書いていきたいと思います。

 

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