隠微-19 | タイトルのないミステリー

タイトルのないミステリー

おもにミステリー小説を書いています。
完成しました作品は電子書籍及び製本化している物があります。
出版化されました本は販売元との契約によりやむを得ずこちらでの公開不可能になる場合がありますのでご了承ください。
小説紹介HP→https://mio-r.amebaownd.com/

 店に入って席に案内されて匡史と向かい合わせに座る。きっと周りの者はカップルだと思っているだろうなどと思ってしまう。

「葬儀に来ていたよね」

「あ、ええ。そりゃ、最近会っていたのですもの」

「だよね、でももし、同窓会に来ていなかったら来なかった?」

「あ、それは…」

どうしただろうと考える。でも同窓会に行っていなかったらKEIが佳苗だときっと気付かなかったように思う。否、知っていたとしてもおそらく行かなかったであろう。

「多分、行かなかったかも。卒業してから全然会ってなかったし」

「同窓会ずっと来ていなかったものね」

「ええ…」

「ずっと来なかった同窓会に来た理由(わけ)は?何か特別な理由でもあったの?」

「特にそう言うわけじゃないけれど、最近、和喜ちゃんの夢をよく見たから」

「和喜の?」

「ええ」

「ふーん、そうなんだ」

匡史はちょっと不思議そうな顔で瞳子を見て頷く。少し、佳苗が瞳子を見ていた時の表情と似ていると思った。

「でも、嫌な思い出多いでしょう?」

匡史の言葉に瞳子は高校時代を振り返る。確かに和喜が死んだ後の学校生活は楽しいと思えるものではなかった。それでもそれまではそんなに悪い物でもなかった。特に仲の悪かった者もいなかったし、何より、和喜と過ごした高校生活は本当に楽しかった。

「悪い思い出ばかりでもないわ」

「そうか、君がそう思っているなら良かったよ」

「中野君も私が和喜ちゃんを突き落としたと思っていたの?」

「警察が現場の状況を調べてそうじゃないと決断したのなら君は何もしていないという事だよ」

「でも、疑っていた?」

「正直、分からなかったよ。そんな事ないと思う気持ちと、でも、もしかしてという気持ちが入り混じっていた」

「そう…まあ、あの状況ならきっと誰でもそう思うわよね」

「君を庇ってあげられなかった。僕も和喜が死んで、何でこんな事になったのかっていう思いでいっぱいいっぱいだったんだと思う」

「仕方ないわよね、私達まだ高校生だったのだもの。まだそんなにキャパ広くないものね」

「でも、君は学校を休まなかった。意外と強いんだなと思ったよ」

「登校途中で何度も引き返したい思いに駆られたことはあるわ。でも、ここで負けたら本当に和喜ちゃんを殺したのは私だとみんなに思われると思った。何もしていないなら逃げちゃいけないって」

「やっぱり強いね。もし僕が君の立場だったらそう思えたかどうか、自暴自棄になってぐれていたかも」

「期間が短かったというのもあるかも。卒業まで半年ほどだったから。それ以上あったら持たなかったかも」

「そうかな、それでも君はやっぱり負けなかったんじゃないかと思う」

これは褒められているのだろうか、匡史に言われるとなんだか素直に受け取れる。

「そんなに強くないわよ、買い被らないで」

「いや、本当にそう思うよ。高校時代は気付かなかったけれど下村ってちょっと不思議な雰囲気持っているよね」

「不思議って?」

「心が読めない」

真面目な顔をしてそんな事を言う匡史に瞳子はちょっと吹き出しそうになった。

「何エスパーみたいな事言っているの、変なの。人の心なんて誰にも分からないわよ」

そう、だから今もって和喜が何故飛び降りたのかも分からないのだ。その前までは普通に喋っていた筈なのに。普通?そう思ったところで何かが引っ掛かった。そうだ、その直前まで瞳子は和喜と一緒にいたのだ。あの時は一体、どんな会話をしていたのだろ。和喜が何かを喋っていた事は覚えている。だが何を言っていたのかずっと思い出せないままなのだ。あの後、高熱を出して寝込んだせいで記憶が曖昧になっているのだろうと当時、医者に言われたが今もってそれは思い出せないままだ。もし、それが思い出せたら何かが分かるかもしれないのに。

「どうしたの?」

急に黙り込んだ瞳子に匡史が声を掛ける。

「私、和喜ちゃんが飛び降りた時、一緒にいた」

「それは、みんな知っているよ」

「でも何を喋っていたかずっと思い出せないままなの。きっと大事な事の筈なのに」

「全然、思い出せないの?」

「和喜ちゃんがこっちを見て笑っていた事は覚えているのに」

「和喜は笑っていたの?」

「ええ、笑いながら落ちて行ったの」

「君と何かあった?」

「分からない…」

瞳子は頭を抱えるようにして考える。何かあったのだろうか、瞳子の放った言葉で和喜は飛び降りたのだろうか。もしそうだったのならやはり瞳子が和喜を殺したのも同然なのではないか。あの日、屋上で何があったのか。そうだ、あの時、警察でも散々そんな事を聞かれた。でも瞳子は何も答えられなかった。恍けているのではないかと思っている人物も少なからずいた。あの時の事が鮮明に蘇る。家に帰ると母までもがどこか怯えたような表情で瞳子を見ていた。誰も信じてくれない――そんな孤独感をどうやってやり過ごしたのだっただろう。ただ、時が流れるのを待っていたのか。