Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/6(土)オペラ・ブーフ「青ひげ」/珍しいオッフェンバックの喜歌劇を菊地美奈・及川尚志らが活き活きと好演

2016年02月06日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
東京オペラ・プロデュース 第97回定期公演
オペラ・ブーフ「青ひげ」Opéra-Bouffe "Barbe-Bleue"

(オッフェンバック作曲/全3幕/歌唱=フランス語、台詞=日本語上演/字幕付)

2016年2月6日(土)15:00~ なかのZERO 大ホール SS席 1階 5列(最前列)17番 12,000円
指 揮:飯坂 純
管弦楽:東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団
合 唱:東京オペラ・プロデュース合唱団
演 出:島田道生
美 術:土屋茂昭
照 明:成瀬一裕
衣 装:清水祟子
【出演】
青ひげ公:及川尚志(テノール)
ブロット:菊地美奈(ソプラノ)
ポポラーニ:佐藤泰弘(バス)
ボベーシュ王:石川誠二(テノール)
クレマンティーヌ王妃:羽山弘子(ソプラノ)
フルーレット(エルミア王女):岩崎由美恵(ソプラノ)
羊飼い(サフィール王子):新津耕平(テノール)
オスカル伯爵:羽山晃生(バリトン)
エロイーズ:小野さおり(ソプラノ)
エレオノール:別府美沙子(ソプラノ)
イゾール:沖 藍子(ソプラノ)
ロザリンド:溝呂木さをり(メゾ・ソプラノ)
ブランシュ:中野優子(メゾ・ソプラノ)
廷臣アルバレス:白井和之(バリトン)

 「青ひげ」というのはフランスのシャルル・ペローの童話作品のひとつで、後に似たような話がグリム童話にも収録されたが第2版以降は削除されている。「青ひげ」はとても不気味な人物である。何人もの妻を殺していて、彼に新たに嫁いだ女性がその事実を知ってしまい、殺されそうになったところを兄弟に助けられ、青ひげは滅ぼされるという話である。15世紀、百年戦争でジャンヌ・ダルクに協力したことで知られるジル・ド・レの晩年の姿がモデルになっているとも言われるが定説ではない。西洋ではよく知られた物語なのであろうが、日本ではそれほど馴染みのある物語ではないと思われる。
 この「青ひげ」は題材としては面白いので、多くの作曲家や脚本家がオペラ化している。中でも有名なのは、デュカスの『アリアーヌと青ひげ』(1907年)とバルトークの『青ひげ公の城』(1918年)であろう。『アリアーヌと青ひげ』の日本初演は2008年、パリ国立オペラの初来日公演のこと。私はオーチャードホールでの公演を観に行った。以来、日本で上演されてはいないと思う。その時のパリ国立オペラの来日演目には『青ひげ公の城』も含まれていた、バルトークの方は比較的人気もあり、しばしば上演されている。
 「青ひげ」を題材とした物語をオペラにすれば、その内容はホラー&サスペンス的な色彩の強い作品になるはずであり、上記のデュカスもバルトークもそのような作品に仕上げている。
 ところが、本日の『青ひげ』は、それらよりも半世紀ほど前の1866年に初演された、オッフェンバックの喜歌劇である。恐ろしい殺人鬼の「青ひげ」がどうしたら喜劇になるのか。脚本もさることながら、物語の設定をどのように組み立てるのか、興味津々といったところだ。
 喜歌劇といっても、普通そう訳されるオペレッタとはちょっと違い、オペラ・ブーフ(Opéra-Bouffe)というカテゴリに属するのだそうだ。これは初演された当時(第2帝政時代)のパリではオペラ上演に対して様々な規制があり、細かく分類されていたことによるらしい。つまりその当時はオペレッタとオペラ・ブーフは異なるカテゴリだったらしいのだが、現代からみた分類では「オペレッタ」といっても良さそうな内容である。全3幕で、その内第2幕は2場に分かれている。上演時間は正味およそ2時間半。2度の休憩を含めると、15時開演で終演は18時10分・・・・オペレッタにしては大作だ。
 
 ストーリーを概観してみよう。
 第1幕は「早朝のとある農村の広場」。羊飼いに扮したサフィール王子は、花売り娘フルーレットとラブラブの関係なのに、そこに割ってはいるのが自由奔放な村娘のブロット。二人はプロットが苦手だ。そこに青ひげ公の家来の錬金術師ボボラーニが青ひげの6番目の花嫁候補を探しにやって来る。青ひげの過去の5人の妻は、皆短い期間に突然死してしまっているという。同時に隣国のボベーシュ王の家臣オスカル伯爵が現れ、こちらは世継ぎ問題のゴタゴタで幼いときに籠に乗せられて川に流されて捨てられた王女を探しに来たという。ポポラーニとオスカルは旧友であった。ポポラーニは大勢の村娘たちの中から抽選で早嫁候補を選ぶことにしたら、当選したのはプロットだった。一方、オスカルは抽選の時に使ったフルーレットの籠が王家のものだと気づき、フルーレットが成長したエルミア王女であることをつきとめる。突然王女だと分かったフルーレットは輿に乗せられて宮殿に向かった。また、村にやって来た青ひげ公は6番目の花嫁に決まったブロットに冠を授与して自らの城に向かった。
 第2幕第1場は「ボベーシュ王の城」。ボベーシュ王はとても嫉妬深く、クレマンティーヌ王妃と廷臣アルバレスが話をしているのを見ただけで不貞の疑いをかけ、オスカル伯爵にアルバレスを処刑するように命ずる。オスカルはすでに5人を同罪で死刑にしているので抵抗するが、王はかまわず処刑を命令する。今晩、娘のエルミア王女と隣国の王子が政略結婚することになっており、見知らぬ王子との結婚を嫌がって王女が暴れているところに、隣国の王子が到着。なんとそれは羊飼いの青年だった。二人は大喜びで無事結婚することになった。そこへ青ひげ公が新しい妻ブロットを連れて表敬訪問してくる。ところが、青ひげ公はエルミア王女に一目惚れしてしまい、相変わらず自由奔放なブロットは追いかけ回していた羊飼いの青年が王子になっているのを見て、思わず抱きついてキスしてしまう。
 第2幕第2場は「ポポラーニの研究室」。青ひげ公はエルミア王女と結婚したくなったので、邪魔になったブロットの毒殺をポポラーニに命じる。実は過去の5人の妻たちもポポラーニが毒殺してきたのだ。ポポラーニがうまく騙して毒薬をプロットに飲ませると、すぐに死んでしまった。青ひげ公が満足して立ち去ると、ポポラーニはプロットに電気ショックをかける。そうするとプロットは息を吹き返した。実はポポラーニの毒薬は死んだように見せる麻酔薬で、過去の5人の妻たちも実は同様に生きていたのである。5つの部屋から現れたのは、エロイーズ、エレオノール、イゾール、ロザリンド、ブランシュ。ポポラーニはプロットと5人の妻たちに協力して青ひげ公に復讐しようと誘いかける。
 第3幕は再び「ボベーシュ王の城」。サフィール王子とエルミア王女の結婚式が執り行われているところへ、青ひげ公が乱入してきて、妻プロットが不慮の死を遂げたので、かわりにエルミア王女と結婚したいと脅し迫る。城の周囲は青ひげ公の軍隊に取り囲まれていた。サフィール王子は負けまいと、青ひげ公に1対1の決闘を申し込むがあっさり負けて倒れてしまう。今度は無理矢理、青ひげ公とエルミア王女の結婚式が執り行われることになった。そこにポポラーニがマスクで顔を隠した旅芸人の一行を連れてきて座興の占いを行う。彼らは青ひげ公に殺された5人の妻たちとブロット、それにボベーシュ王に殺された5人の廷臣と気絶していただけのサフィール王子が変装していたのである。プロットは占いのフリをして、青ひげ公とボベーシュ王の悪事を暴き立てる。一行12人が変装を取ると全員が死んだはずの人たちで、青ひげ公とボベーシュ王に迫ると、二人は悔い改めることに。かくして、5人の妻たちと5人の廷臣たち、サフィール王子とエルミア王女、そして元の鞘に戻って青ひげ公とプロットという、7組のカップルが出来上がって、めでたしめでたしとなる。

 オペレッタとしては典型的な物語展開。結局ひとりも被害者はいなくなり、悪者は改悛してハッピーエンドなのである。やれやれ。「青ひげ」の不気味な物語が見事にドタバタ喜劇に変わっているではないか。台本は『天国と地獄』も手がけたリュドヴィク・アレヴィとパロディや皮肉も得意としていたアンリ・メイヤック。この二人とオッフェンバックの組み合わせで、後にヒット作を次々とものにしていくのである。
 今回の上演では、台本はほぼ原作通りだったようである。歌唱の部分はすべてフランス語で歌われ(日本語字幕付き)、台詞の部分は日本語で、多少のアレンジとアドリブが加わっているのはオペレッタならではの軽妙なところだ。出演者の皆さんの台詞が大変聞き取りやすかったこともあり(もっとも最前列だから当たり前かも)、500円の有料プログラムは購入したものの、あらすじなどはまったく読まずに本編に臨んだ割りには、ストーリーしほぼ完全に把握でき、楽しむことができた。

 歌手陣では、ブロット役の菊地美奈さんが予想通りの実力を発揮。奔放でワガママ、自由闊達でコワイもの知らずの元気娘役は、美奈さんのキャラにもピッタリ合うし、肩肘張ったところのない自然体の歌唱力・演技力は、昨年2015年9月、オペラ・デビュー20周年を記念して『メリー・ウィドウ』を成功させただけの貫禄と圧倒的な存在感を見せていた。声質は素直で聴きやすく、パンチがあって突き抜けるチカラがある。また身体を張った喜劇的な演技は、見ているだけで可笑しくて笑いを誘う。今や美奈さんは日本の「オペレッタの女王」だといえそうだ。
 他には、青ひげ公役の及川尚志さんが存在感を発揮していた。悪役なのにトボケていて喜劇的な設定になっていたが、テノールなので『サロメ』のヘロデ王を喜劇的にした感じ。役柄はふざけていても、歌唱にチカラがあるとステージがグッと引き締まる。
 ボボラーニ役の佐藤泰弘さんもよく響くバスを聴かせていた。安定した音程と豊かな声量、押し出しの強い声質で、隙のない歌唱である。
 その他の人たちも東京オペラ・プロデュースのメンバーが多く、平均的にレベルの高い歌唱と演技で、質感の高い上演になっていたと思う。

 演出面はというと、フランス語歌唱に日本語台詞を採用したのが良かった。主に台詞による進行でストーリーがよく分かったし、歌唱は理屈抜きで原語の方が言葉の抑揚などの面からも良いに決まっている。また日本語の歌唱は、オペラの発声方法だと意外に聴き取りにくいものなので、原語歌唱に日本語字幕付きの方がかえって理解しやすくなるという側面もあるといえる。
 ある意味でオーソドックスな演出ともいえそうだが、登場人物たちの喜劇的な動きが自然体で楽しかった。舞台装置は簡素なものだが、美術デザインには人間味があって好感が持てた。一方、衣装は中世~近世のヨーロッパの王朝風のものを揃え、質感が高い。舞台装置は簡略に、衣装は豪華に、というのは最近のオペラ界の中心的な傾向でもある。

 演奏面では、飯田 純さんの指揮により、東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団がピットに入った。このオーケストラについてはまったく知らないので何ともいえないが、けっこう上手かったと思う。管楽器が全般的に音が良く、また弦とのバランスも良かった。フランス風の鮮やかな色彩感とまではいかなかったが、オペレッタの演奏としては完全に及第点だといえる。ひとつだけ気になったのは打楽器。小太鼓やグロッケンシュピールなどが遅れ気味に感じられ、音楽の流れを悪くしているようだった。ステージ上の歌唱や踊りと打楽器のリズムがズレ気味になり、歌手の皆さんは指揮者を見て一所懸命合わせていた。ちょっとアブナイ部分もあった。こういうオペレッタなどでは、打楽器はむしろ突っ込み気味に演奏すると疾走感が出て来て、テンポ感が活き活きとしてくる。ちょっと律儀すぎたようであった。

 オペラ・ブーフ『青ひげ』。あらすじも読まずに、あえてぶっつけ本番の鑑賞をしてみた。ストーリーがどのように展開していくのか、落としどころは?? などと考えながら観ていたわけだが、とても分かりやすかったし、十分に楽しむことができた。上演の質も高かったと思う。東京オペラ・プロデュースは、こうしたレアなオペラを積極的に採り上げて上演している貴重な存在だ。本日の公演は満席にはなってなく、2階には空席が目立った。いかに低価格での提供とはいえ、作品自体が珍しいものだと、興行的には難しいものがあるのだろう。主催者側としては苦労も多かろうと思うが、これからも珍しいオペラやオペレッタを紹介していただきたいと思う。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。


★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの筆者がお勧めするコンサートのご案内です。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓




コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クラシック音楽/コンサート会... | トップ | 2/11(水・祝)南大沢コミュニ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

劇場でオペラ鑑賞」カテゴリの最新記事