Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/2(日)会田莉凡・上村文乃・須関裕子/高度で的確な技巧とフレッシュで瑞々しい表現力で魅せるチャイコフスキーのトリオ

2017年07月02日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
Trio Concert 会田莉凡・上村文乃・須関裕子

2017年7月2日(日)14:30〜 ソフィアザール・サロン 自由席 正面1列中央 3,000円
ヴァイオリン:会田莉凡
チェロ:上村文乃
ピアノ:須関裕子
【曲目】
ラヴェル:ツィガーヌ(会田/須関)
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31(須関)
レスピーギ:アダージョと変奏(上村/須関)
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50「偉大な芸術家の思い出に」(会田/上村/須関)
《アンコール》
 チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50「偉大な芸術家の思い出に」第2楽章より「ワルツ」

 先週に引き続き、東京・駒込にあるソフィアザール・サロンとコンサート・アドヴァイザーの塩島璋子さんの共同企画による「Trio Cocert」を聴く。出演は、ヴァイオリンが会田莉凡さん、チェロが上村文乃さん、ピアノが須関裕子さんの3人で、一期一会のトリオを結成する。とはいっても3人とも桐朋学園大学の出身で、互いによく知っている間柄なのだが、3人が一緒に演奏することはほとんど不可能に近い。現在3人とも多方面で活躍中であり、莉凡さんと須関さんは国内で相当数の演奏会をこなしている人気者だし、上村さんも演奏活動を行いながら現在もスイスに留学中ということもあって、この3人が一同に会してコンサートを行うというのは、スケジュールの上でかなり難しいことなのである。ちょうど、まさにこの日しかないという日に(しかも日曜日に!!)、奇跡のようなコンサートが実現したわけだ。私としても3人とも顔見知りでもあることだし、このトリオを聴かないという選択肢は考えられなかった。早い時期からこの日は他の予定は入れずに、楽しみにしていたものである。
 主催者である塩島さんによると、このトリオ・コンサートの趣旨は、年に1回、将来を嘱望される若手の演奏家によるピアノ・トリオのコンサートを開き、そこでは必ずチャイコフスキーの「偉大な芸術家の思い出に」を演奏するのだそうだ。そして今年は本当に素晴らしい3人が集まり、ソフィアザール・サロンという小さな空間で、考えようによっては、ものすごく贅沢なコンサートが実現したことになる。そういったわけだから今日のコンサートはかなりの人気となり、40〜50名のサロンに60名が詰め込まれることになった。本当にギッシリいっぱいである。私はけっこう早めに会場に着き、3番目に並んだ。おかげで正面の最前列の席を確保することができたが、ステージのないサロンゆえに、ちょうど目の前に位置する上村さんのチェロとの距離は1メートル。手の届きそうな距離感から聞こえて来る楽器の生々しい音は、サロン音楽の醍醐味であろう。

 プログラムの前半は、まず莉凡さんと須関さんでラヴェルの「ツィガーヌ」。莉凡さんの言によれば、「最初に弾くような曲じゃない」とのこと。確かに、むしろヴァイオリン・リサイタルでは最後に演奏するタイプの、難度の高い重い曲だ。曲の中程までヴァイオリンのソロが続く。残響が短いホールでは実力がはっきりと出てしまうところだが、やはり大小様々な会場で豊富な演奏経験を持つ莉凡さんだけあって、たっぷりと楽器を鳴らし(ここが技巧的に素晴らしいところ)、豊かな音色と音量で、聴く側にインパクトを届ける。抜群に正確な音程と超絶的な技巧もお見事である。須関さんのピアノも、おそらくは合わせの時間もかなり限られていたと思われるが、ヴァイオリンにピタリと寄り添い、絶妙なリズム感とテンポ感で、支えていく。ヴァイオリニストの意志がピアノを弾いているような、そんな雰囲気すら感じられるような一体感がある。


 2曲目は、須関さんのピアノ・ソロでショパンの「スケルツォ 第2番」。先ほどの「伴奏」とは全然違って、今度は須関さんのソリストとしての顔が姿を現す。より自由度が高く、大胆な解釈が加わり、大きく歌う旋律、激しく情熱的に叩き出されるリズム、中間部の夢見心地のようなロマンティックな表現。そして澄んだ音色。それでも全体を包む柔らかさと優しさは須関さんの持ち味である。


 3曲目は、上村さんのチェロと須関さんのピアノで、レスピーギの「アダージョと変奏」。レスピーギ(1879〜1936)はイタリアの作曲家で、オペラ、バレエ、声楽・合唱、管弦楽、室内楽など、多彩な作品を数多く残しているが、有名な交響詩「ローマ三部作」が演奏されるくらいで、他の曲を聴く機会は滅多にない。「アダージョと変奏」は独奏チェロと管弦楽のための協奏曲的な作品で、チェロの世界ではよく知られている。今日はそのピアノ伴奏版である。イタリアの音楽らしい、息の長い主題が歌謡的で美しい。やがて技巧性を伴い変奏が繰り返されていく。
 上村さんの演奏は、基本的には陽性で明るい音色を持ち、比較的メリハリを効かせた押し出しを見せる。強く押し出す部分から弱音の繊細な歌わせ方まで、表現の幅が広い。多様な表現が魅力である。今日は文字通りの目の前で、弦の振動するエネルギーを直接肌で感じることができる距離感で聴いたので、その魅力も倍増するかのようだ。
 実はこの日は大きなトラブルがあって大変だった。ゲネプロを終えたところでチェロが壊れて演奏不能になってしまい、八方手を尽くして、楽器屋さんからチェロを借りてきたのである。開演前に私たちが並んでいるところを上村さんが慌てて楽器を持って出かけて行った。戻って来たのは開演後だったので、この演奏は借りてきた楽器でのぶっつけ本番だった。そんなトラブルがあっても、きちんとした素晴らしい演奏を聴かせてくれたので、上村さんのプロ魂にBrava!!を贈ろう。


 プログラムの後半はいよいよ、チャイコフスキーの「ピアノ三重奏曲 『偉大な芸術家の思い出に』」である。50分近い大曲でもあり、演奏の難易度も高いためか、そう度々聴く曲でもないと思うが、ピアノ三重奏曲の中では、ロマン派のピークをなす曲に位置付けられよう。室内楽をあまり積極的に聴く方ではない私としては過去、2012年に川久保賜紀さん、遠藤真理さん、三浦友理枝さんのトリオや、2015年に神尾真由子さん、ジャン・ワンさん、キム・ソヌクさんのトリオで聴いたことがあるくらいである。
 ここで初めて3人が揃い、トリオとなった。莉凡さんのヴァイオリンは、音の立ち上がりがクッキリしていてメリハリがあり、ダイナミックレンジも広いのでスケール感もある。押し出しが強い。上村さんのチェロはタッチは明瞭で鮮やか。クッキリはしているが、尖ってはいなく、基本的に明るめの音色で大らかなイメージだ。今日は楽器のせいで音がやや薄く感じたのが非常に残念。須関さんのピアノは、このような室内楽の時はポジションをやや控え目にして、他の人に見事に寄り添う。付いていくのではなく、優れたテンポ感で一体化させる。音は無色透明で他の楽器の色を映し出す鏡になる。
 第1楽章は古典的なソナタ形式で20分くらいの長さ。室内楽でこの長さは、下手な演奏だとまずは退屈してしまうことになるが、今日の3人は違っていた。チェロとヴァイオリンが掛け合うように第1主題を提示やがてピアノに移る。3者が均等な割合で、音楽が構成されてる。このことは同時に演奏者間に力量の違いがあってはならないことでもある。その点でも今日の3人は実にバランス感覚に優れている。互いの音楽性をよく理解しているからこそできる自由な表現の発露と、引き際の巧さが、音楽全体を非常に活き活きと輝かせているようだ。哀愁を帯びた抒情的な曲想についても、否定的な感情ではなく、前向きの明るさが感じられるのは、3人の個性によるものだろう。
 第2楽章は主題と変奏。穏やかで親しみやすい主題が提示された後、様々に姿を変えて11回変奏される。とくにここではピアノのパートが高度に技巧的になる。そこは須関さんの聴かせ所で、決して前面にしゃしゃり出てくるような強さは見せないが、あくまで透明感のある澄んだ音色で煌めくような、映像的とも言うべき美しさを発揮する。そこにヴァイオリンとチェロが絡みついていく。二人のタイミングが良いので、音楽の流れが非常にスムーズ。そのため音楽が重くなることがなく、全体的に生命力のある瑞々しさに彩られている。変奏には、ワルツが出て来たり、フーガが出て来たり、マズルカが出て来たりと、鮮やかに曲想を変えるが、それぞれはある程度独立していて、分かりやすい。
 第2楽章の最終変奏が壮大でコーダと合わせて第3楽章の役割を担う形になっている。曲想は一段と明るさを増し、陽性で軽快に音楽が弾む。3人の技巧が冴えを見せるのと同時に、リズム感のよい見事なアンサンブルを聴かせる。コーダに入ると短調に転じ、第1楽章の主題が戻ってきて、葬送行進曲風に曲を閉じる。悲しみを誘うような抑えた演奏が消え入るように。ピアニッシモも美しい。

 最終的に感じられたことは、3人の安定的な技巧と瑞々しい表現力が、聴いていて心地よく、素晴らしい音楽空間を作り上げていたこと。目の前で直接発せられる3人の楽器の生々しい音が、自分の頭の中で響き合いブレンドされる感覚だ。響いた音を聴いているのとは違う。演奏家との距離感が極端に短く、また響きがタイトなサロン音楽では、まさに実力が一切のフィルターなしに丸見えになってしまうからだ。それでもこの3人の音楽は、私の頭の中で豊かに響き合っていた。ヴァイオリンとチェロとピアノがそれぞれ独立していてクッキリと明瞭に分離して聞こえるのに、頭の中でハーモニーが形成されひとつの音楽にまとまっていくのである。これは、他ではなかなか経験できない貴重な体験となった。

 アンコールは、「偉大な芸術家の思い出に」の第2楽章より、第6変奏の「ワルツ」。やはり演奏会は明るく締めくくるのが良い。


 終演後は、会場の椅子をかたづけて、出演者を囲んでの懇親会となった。今日は人気者の3人だから懇親会参加者も多く、賑わいを見せた。後はタイミングをみて、お決まりの記念撮影タイム。楽しい時間がゆるゆると進んでいく。
 さて、今日のこの贅沢なトリオ・コンサートには、チェロの藤原真理先生が聴きにいらしていたり、また若手同世代のヴァイオリニスト、城戸かれんさんと福田玲紗さんが来ていた。楽器を持ってきて、と言われていたようで、その場でアフターコンサート(次回の予告のようなもの)となった。内容は以下の通り。いずれもぶっつけ本番らしい。また何でも弾いてしまう須関さんもお見事である。

【アフターコンサート1】
ヴァイオリン:城戸かれん
ヴァイオリン:会田莉凡
ピアノ:須関裕子
【曲目】
ショスタコーヴィチ:2つのヴァイオリンとピアノのための5つの小品 より 第3曲「エレジー」・第5曲「ポルカ」

【アフターコンサート2】
ヴァイオリン:福田玲紗
ピアノ:須関裕子
【曲目】
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35 より 第2楽章(ピアノ伴奏版)

 このソフィアサール・サロンでの来年のトリオ・コンサートで「偉大な芸術家の思い出に」を演奏するのは、ヴァイオリンは城戸さんに決まった(らしい)。日程などの詳細はもちろん未定なので、関心のある方は情報チェックを怠らないように、とのことである。
 また、福田さんは、この後7段25日にソフィアサール・サロンでピアノの宇佐見元大さんとのデュオ・コンサートが予定されていて、そこではチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲全楽章を、ピアノ伴奏で演奏するとのことである。


左端が城戸かれんさん、右端が福田玲紗さん

 いやはや、真夏の暑い日であったが、大変盛りだくさんのイベントであった。今日の3人、ヴァイオリンの会田莉凡さん、チェロの上村文乃さん、ピアノの須関裕子さんは、若手とはいいつつも、すでにプロの演奏家であり、それぞれの活躍の場を広げつつある。将来有望の皆さんにBravo!!を贈ろう。

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