Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/26(金)桐朋学園作曲科「作品展」/音大生たちが創る現代のクラシック音楽を素晴らしい演奏で

2015年06月26日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
桐朋学園 音楽部門 作曲科による 第37回「作品展」

2015年6月26日(金)19:00~ 東京オペラシティ・リサイタルホール 自由席 1列センター 1,000円

 きっかけはこうである。去る5月13日に「東京文化会館モーニングコンサート」で田原綾子さんのヴィオラ・リサイタルを聴かせていただいた際に、アンコールで演奏されたのが成田為三の有名な歌曲「浜辺の歌」のヴィオラ・ヴァージョンだった。編曲したのは桐朋学園大学4年生の森 円花さん。田原さんの自慢の友達なのだという。その編曲がとても素敵だったので、是非また聴きたいと思っていたところ、田原さんが本日のコンサートを紹介してくれたので、迷わず聴くことにしたのである。森さんの作曲した作品が初演されるとのことで、演奏するメンバーの中には田原さんも含まれているという次第。
 というわけなので、森さんの作品を聴いてみたいというところから、「作品展」を聴くことになった。現代音楽も嫌いではないので、時々は聴くようにしている。古典派やロマン派の音楽を聴いてばかりいると、時折、調和が破壊されたような音楽を聴いてリフレッシュしたくなる。しかも音大の作曲科の学生さんたちの作品ともなれば、フレッシュな感性に興味津々といったところだ。

 それでは演奏順に見ていくことにしよう。

●伊藤栄乃(いとうはるの):「Trio pour Flute, violoncelle et piano」
  フルート:黒田静葉 チェロ:濱田 遥 ピアノ:邵 旻霄(シャオ・ミンシャオ)
 フルートとチェロとピアノの三重奏曲。3つの楽器に人格が与えられているようなシチュエーションで、それぞれが対話したり葛藤したり、溶け合ったりする。旋律楽器のフルートが鮮やかな存在感を描き出している。チェロは低音側からフルートを支える感じ。ピアノは煌びやかで美しい。いくつかの楽章に分かれていて、音楽的には純音楽の構成だ。3者の役割分担とバランスもうまく取れており、アンサンブルも しっかりと構成されていて安定感がある。普通の意味で、聴きやすい曲である。

●向井 響(むかいひびき):「enCapsulation; corDa for piano solo」
  ピアノ:山西 遼
 ピアノの独奏曲。標題の「enCapsulation」はカプセル化という意味だそうで、向井さんの自作の解説は、難解で意味がよく解らない(自分の頭が硬いのかなぁ)。解説に書かれていた概念が曲の中でどのように具体化しているのかが解らないのである。ただし曲の方は聴いている分には超絶技巧的でインパクトも強い。複雑な対位法で書かれているらしく、論理性が強いのは、聴いていてもなんとなく解る。標題がこの曲を理解するのを難しくしているような気がするのだが・・・・。

●濱島祐貴(はまじまゆうき):「祈り、歪める時に・・・ ~ヴァイオリン・ソロのための~」
  ヴァイオリン:入江真歩
 ヴァイオリンの独奏曲。こちらも濱島さんの解説が難解で・・・・。聴いた上では、ヴァイオリンという楽器の持つ表現力の可能性に、ある種の客観性を持ってアプローチしているような。演奏技巧はかなり超絶的で、様々な奏法を駆使している。ここでも標題の「祈り、歪める時に・・・」が難解さを増長されてしまう。「祈り」は聴いていても解るような気がするが、「歪める時」って何だろう・・・。入江さんの演奏を聴いたのは初めてだが、素晴らしい技巧の持ち主であることは確かだ。極めて先鋭的でアグレッシブな演奏に聞こえたが、そういう曲だからなのかは、今のところ判断できない。

●森 円花(もりまどか):「弦楽六重奏曲」
  第1ヴァイオリン:毛利文香 第2ヴァイオリン:上野明子 第1ヴィオラ:田原綾子
  第2ヴィオラ:鈴木慧悟 第1チェロ:森田啓佑 第2チェロ:水野優也 指揮:熊倉 優
 本日お目当ての曲は、弦楽六重奏。ソロの2曲の後で聴く六重奏は、ダイナミックレンジが大きくなり、豊かな響きをもたらす。弱音のトレモロで始まり、不安感や焦燥感をかき立てるような曲想の中、はじめはチェロがトレモロから抜け出し、やがてヴィオラ、ヴァイオリンが旋律の断片のようなものを解き放つように弾く。6名のアンサンブルがピタリと集まってくると強烈な不協和音を発生させ、個々のパートがバラけていくと旋律の断片に分かれていく。ヴァイオリンもヴィオラも超絶的な技巧を駆使しつつ、それが重なったり離れたりしながらアンサンブルを構成していく辺りは、作曲技法もスゴイが演奏技術もかなりのものだ。先日、エリザベート王妃国際音楽コンクール6位入賞のニュースをもたらした毛利文香さんを聴くのも初めてだったが、このような抽象的な表現の曲の中で、豊かな音色で存在感を発揮していた。対向位置にいる田原さんとの色彩的な対比も鮮やかである。
 森さんの解説はごく短く、「それぞれの楽器の特性を最大限活かす」とある通り、この曲は標題のない純音楽。ナルホド、音楽で何かを表現しているのではなく、音楽そのものが抽象化された表現になるのだ。森さんは昨年2014年の第83回日本音楽コンクールの作曲部門で2位を受賞した俊英である。

 後半は編成が大きい曲が並ぶ。といってもオーケストラのように多様になるのではなく、5~7名のアンサンブルだが、共通するのは打楽器群の豊富なところだ。また複雑な打楽器群をコントロールできるように、いずれも指揮者を置いている。

●関向弥生(せきむかいやよい):「双炎 ~2群のアンサンブルのための~」
  第1ヴァイオリン:桐原宗生 第2ヴァイオリン:長山恵理子 ホルン:平本 彩
  ブァゴット:木村卓巳 ピアノ:山西 遼 打楽器:正富明日香 指揮:榊 真由
 これくらいの多様な編成になって打楽器が加わると、いかにも「現代音楽」といった様相になる。標題に「双炎 ~2群のアンサンブルのための~」とあるように、第1ヴァイオリンとホルンとピアノのグループと、第2ヴァイオリンとファゴットと打楽器(シロフォンなど)のグループが左右に分かれて配置されている。それぞれのグルーブの緊密なまとまりをを見せると言うまでには至らないが、2つのグループは明らかに対比される位置関係にあり、2つの炎のように燃え上がったり、揺らめいたり、大きく膨らんで互いに混ざったりと、様々な変化を見せる。

●芳澤 奏(よしざわかな):「Another tone for Violin, 2Harps and 2Percussions」
  ヴァイオリン:大内 遥 ハープ:下野由貴 ハープ:吉田瑳矩果
  打楽器:金子泰士 打楽器:森村奏子 指揮:榊 真由
 3つの楽章から成る曲。標題にあるように、とくに打楽器の多彩な音の可能性を追求した作品である。多種の打楽器群を使い分けて、第1楽章は主に木質系打楽器、第2楽章は金属系打楽器、第3楽章は皮膜系打楽器が活躍する。打楽器群は名前の知らないものが多かった。2名の打楽器奏者は左右に分かれ、対向する概念のように色々な打楽器を使い分けている。2台のハープも対比される扱いになっていて、張ってある弦の面を叩いたりと、変わった扱い方もされていた。第3楽章の打楽器群はティンパニや大太鼓、ボンゴ、コンガなどが派手に打ち鳴らされ、小さなホールが大音量で満たされた。

●熊倉 優(くまくらまさる):「それでも私は・・・」
  クラリネット:加藤亜希子 ファゴット:木村卓巳 チェロ:松本亜優 打楽器:山中佑美
  ハープ:吉田瑳矩果 ピアノ:中迫 研 指揮:榊 真由
 とくに抽象度の高い、観念的な曲になっている。熊倉さんによる解説も哲学的で難解。遅いテンポで大太鼓が不規則な打ち鳴らされ、その爆音の間を他の楽器が互いに関係性を持たないように埋めていく。ピアノやハープが分散和音を刻んだり、クラリネット、ファゴットやチェロが旋律の断片を描き出したりもする。後半はリズム感が変わり、テンポがやや速くなった。色々な音が並べられたり転んだり、といったイメージで、最後まで混沌とした抽象の世界が続いた。

 こうして編成も異なる7曲を聴き終えてみると、人間の探求心というものには果てがないのだなぁと思う。クラシック音楽という分野の中の「現代音楽」は、音楽の世界では必然であって、次々と積極的に作られているわけだが、これが聴く側の論理をどれほど反映しているのかと問えば、答えは・・・・・・。現に今日のリサイタルホールも半分程度の入りであった。
 作曲家が作品を作り、演奏家がそれを音に変えて、聴く者の心に響いて初めて、音楽は成り立つものだと日頃から考えているが、今日はまさにその3者が一同に会したコンサートである。聴いた私たちは幸せであったと思うが、今日聴きに来なかった人に、これらの曲を聴く機会はどれくらい訪れるだろうか。とくに後半の3曲は特殊な編成となっているため、演奏すること自体が難しそうだ。様々な楽器のフリーな演奏家がたくさんいる音楽大学という特殊な環境の中で、学生の作曲家が自由な発想と飽くなき探求心で創り上げたこれらの作品。その出来映えはそれぞれに素晴らしく、作曲者の才能にBravo!を送りたい。しかし全体の印象として感じたことだが、発想力・理論性・作曲技法・表現力などには優れていて発揮度は強いのだがやや一方通行になっているのでは。作曲者の側に、聴く者に伝えたいという意志が強く、聴く側がもう一度聴きたい、別の曲も聴いてみたいと思えるような、つまり聴く側の論理をある程度反映させることも、音楽を作る上で必要なのではないか・・・・。あくまで素人の印象にすぎないが。

 終演後には田原さんにお会いして森さんを紹介していただいた。いかにも上品な美人女子大生といった雰囲気の方だが、こういう人のアタマの中はどうなっているのだろうか、そちらの方が興味深い(失礼)。どのような発想であのような曲想が生まれてくるのか。論理性と創造性がどう結びついていくのか。五線譜に向かって、アタマの中で不協和音を響かせることができるのだろうか(打楽器は想像しやすいと思うが、和声は難しい)。私のような凡人には想像もできない「創造力」があるのだろう。機会があったら、是非いろいろと取材(?)して、お話しを聞かせていただきたいと思う。

画像は、左が作曲科の森円花さん、右がヴィオラの田原綾子さん。


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