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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/17(日)読響みなとみらい名曲/夏の風物詩「三大交響曲」/川瀬賢太郎のエネルギッシュな指揮に読響も熱演

2014年08月20日 01時10分56秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団/第73回みなとみらいホリデー名曲シリーズ《三大交響曲》

2014年8月17日(日)14:00~ 横浜みなとみらいホール S席 1階 C2列 14番 4,125円
指 揮: 川瀬賢太郎  
管弦楽: 読売日本交響楽団
【曲目】
シューベルト: 交響曲 第7番 ロ短調 D759「未完成」
ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
ドヴォルザーク: 交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」

 夏休みシーズンは首都圏でもコンサートが非常に少なく、とくに在京のオーケストラは7月末から8月上旬にかけての「フェスタサミーミューザ川崎」が終わってしまうと、ほとんど夏期休暇になってしまう。そんな中で読売日本交響楽団だけは例年、8月にも横浜みなとみらいホールで定期シリーズがある。これは《三大交響曲》と《三大協奏曲》を毎年交互にプログラムに載せるもので、サントリーホールで毎年開催する「読響サマーフェスティバル」で演奏される《三大交響曲》と《三大協奏曲》のいずれかが、8月の「みなとみらいホリデー名曲シリーズ」にも登場するというカタチになっているのだ。
 例年、コンサート日照りのこの時期、思いっきりの名曲コンサートで思いっきりマンネリはあるが、砂漠の中のオアシスのごとく、これを聴かなければ干からびてしまいそう。だからけっこう楽しみにしているのだ。昨年はちょうど同じ8月17日に《三大協奏曲》を聴いた。今年は《三大交響曲》の年に当たり、指揮者に選ばれたのは若手の川瀬賢太郎さんである。
 実は川瀬さんの演奏を聴くのは初めて。この誰でも知っている三大交響曲をどのように料理するのか、何か新機軸を打ち出してくるのか、興味津々であった。

 1曲目は「未完成」。名曲には違いないが、実は私はあまりこの曲が好きではない。というよりは、シューベルトの交響曲はどれを聴いてもあまり馴染めないのだ。理由は色々あるが、主には主題がしつこく繰り返されることや冗長なところなどが、どうも好みに合わないようなのである。短い歌曲はあんなにも凝縮された感じがするのに、交響曲はなぜあれほど長いのだろう。そこがよく分からないのだ。
 「未完成」がなぜ未完成のまま終わってしまったのかは様々な憶測があるが、もっともらしい理由のひとつに、第1楽章も第2楽章も3拍子で書かれているため、さらに第3楽章の舞曲(メヌエットかスケルツォ)も3拍子が続くことに抵抗があったのではないか、というのがある。確かにそれもあるが、私はこの曲の長さが気になるのだ。第2楽章までで25分も費やす。スコアには1822年とあり、ベートーヴェンの第九交響曲が初演されたのが1824年のことだから、シューベルトが「未完成」を完成させていたら、その時点で世界で最長の交響曲になっていたと思われる。シューベルト自身も長くなってしまったことで行き詰まってしまったのではないだろうか。また「未完成」が後に《三大交響曲》に数えられるほどの人気曲になったのも、第2楽章までしかないのに、この時代の交響曲1曲分の分量を備えているからだと思われる。
 さて能書きはともかく、初めて聴く川瀬さんと読響の演奏は、期待していた以上に素敵なもので、好きになれないと言いつつも良い曲であることは改めて実感させられた。
 第1楽章は比較的ゆっくりとしたテンポでじわじわと押し寄せてくるような感じであった。低弦の序奏(動機)からソナタ形式の第1主題は、じっくり構えて徐々に盛り上げて行く感じ。質感の高いホルンの長く伸ばす美しい音色に導かれる、チェロ→ヴァイオリンと続く第2主題が優雅に響く。川瀬さんの音楽作りはオーソドツクスかもしれないが、ロマンティックな味わいが深く、若さによる瑞々しさとじっくり構えた落ち着きがあり、なかなか素敵だった。展開部も性急にならずに、むしろ風格も備わった堂々とした佇まい。再現部ではまた優雅さを取り戻していた。
 第2楽章は緩徐楽章だが3/8拍子であるため舞曲楽章の雰囲気も持ち合わせている。川瀬さんの演奏は、主題の打ち出し方は優雅でロマンティックでありながら古典的な造形もしっかりと保っている。またその雰囲気を読響が実に優しい音色で描き出していて、いつもの荒っぽさがない。全体的に抑制的で、木管も金管も音量を控え目にして良い味を出していた。

 続いて「運命」。数多あるクラシック音楽の管弦楽曲の中でも一番好きな曲である。それだけに思い入れもあるし、年に数回は聴く機会があるものの、自分にとって完璧と思える演奏に巡り会えることはなかなかないものだ。昨年の11月にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演で、クリスティアン・ティーレマンさんの指揮で聴いているし、今年の5月には小林研一郎さんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏でも聴いている。川瀬さんと比較するには、あまりにも大物過ぎる。だがしかし、今日の演奏は負けず劣らずの素晴らしい演奏だったと思えるのである。
 さすがに「未完成」に比べると、一段と生命力が漲る演奏に変わってくる。第1楽章は、冒頭の動機の提示から、テンポ感よく、造形もしっかりしている。スタンダードな演奏には違いないが、フレーズの切れ目に時折微妙な間合いを入れ単調にさせていないのは上手いところだ。力強い押し出しと推進力を感じさせる演奏ではないが、全体的には若々しいイメージが溢れているのに、ちょっと抑えめなところがあり、弦、木管、金管、打のバランスを絶妙に整えていた。わずかに打(ティンパニ)が強く感じられたが、それがかえって若々しいイメージを創り出していたのだろう。
 第2楽章は、主題の提示はやや早めのテンポだろうか、快調なペースで歌わせていくが、やはりフレーズの切れ目で微妙に揺らぐテンポがアクセントになっていて、うまい語り口になっていた。クライマックスでティンパニを強めに叩かせるのも良い感じだ。晴れやかな金管と暖かみのある木管で、この楽章をロマン派音楽のように彩っていた。
 第3楽章のスケルツォは、主題を吹くホルンが艶のある音色といい力感といい、素晴らしい。中間部の低弦から始まるフガートは中間的なテンポ設定で、早過ぎも遅過ぎもせず、しっかりとした造形を打ち出し、むしろ老練な感じさえ見せる上手さだ。読響のアンサンブルが常に抑制的で乱れず、指揮者の音楽を見事に体現しているようであった。
 第4楽章は当然フルパワーになるが、しっかりした造形は失われなかった。むしろそこに活きの良い推進力が加わる。トロンボーンを含む金管群の晴れやかな咆哮は、音色からして「歓喜」に溢れ、陽光が眩しく輝くように清々しさを覚えた。主題提示部のリピートも当然のように行われ、どうだ! といわんばかり。読響の最大の魅力である馬力のある演奏が轟いたが、弦が頑張っていて金管とのバランスを均整の取れたものとし、迫力のあるサウンドの中にあって素晴らしい造形美を描き出していた。コーダに入ってからのピッコロも抑えが効いていて飛び出さない。全体のまとまりがもの凄く良いのである。美しい造形を若々しく表現し、堂々たるフィナーレ。あっぱれ、Vravo!である。ちょっと強めだが爽やかな一陣の風が吹き抜けたような、「運命」であった。

 後半は「新世界から」。こちらも超人気曲で演奏機会が多いものだから、年に数回は必ず「聴かされる」ことになる。昨年の11月には、イルジー・ビエロフラーヴェクさんの指揮するチェコ・フィルハーモニー管弦楽団(ご本家という感じ)の来日公演で聴いているし、今年の1月には大友直人さんの指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団の演奏でも聴いた。こちらも川瀬さんと比較するには大物揃いだ。しかも偶然とはいえ、昨日(8月16日)NHKのEテレ「らららクラシック」で第2楽章を中心に「新世界から」を採り上げていた。さてさて・・・・。
 第1楽章。静かな序奏でまずホルンが質感の高い音を出す。第1主題の提示でも今日のホルンは本当に素晴らしい。第2主題の木管も抑え気味に良い味を出している。展開部になるとオーケストラの機能性が十分に活かされ、読響らしい思い切りの良いサウンドが鳴り響くが、今日は不思議と荒々しさがない。思いの外抒情的で緻密な音色なのである。ヴィオラとチェロが頑張っていて、弦楽のバランスも良い。それにしてもヴィオラ首席の鈴木康浩さんはあれほど楽しそうに演奏しているのだろう。今日は1階2列目のコンサートマスター正面のいつもの席で聴いていたのだが、鈴木さんのヴィオラの音がとてもよく聞こえたのも印象に残った。
 第2楽章はコールアングレに尽きるが、序奏もとてもキレイだった。例の「家路」の主題は、コールアングレをやや控え目に、というよりは伴奏の弦楽をちょっと厚めにして、見渡す限りの草原を穏やかに吹き抜ける風のように、遠くから聞こえてくる感じがとても素敵であった。
 途中でちょっとしたハプニングがあった。第1ヴァイオリンの2列目、コンサートマスターの後ろで弾いていた荒川以津美さんのヴァイオリンの弦がプツンと音を立てて切れたのである。楽器を前列にひとつずつ繰り上げて持ち替えていき、最後列の人が舞台袖に引っ込み弦を張り替えてきて、第3楽章から元に戻った。目の前でヴァイオリンのリレーを見ていて、ちょっと聴く方が疎かになってしまった(失礼)。そういえば、ステージ上に予備の楽器を用意しているのはNHK交響楽団くらいのものだ。
 第3楽章から、いよいよチカラが漲ってくる。強奏時の瞬発力の強さは読響ならではで、急にダイナミックレンジが広くなり、音楽が立体的に聞こえてくる感じがする。それにしても、川瀬さんの演奏は、元気いっぱいで、瑞々しい魅力でいっぱいだ。両手を大きく振り回し、全身を使ってダイナミックにオーケストラをドライブしていく。時々ジャンプするのは師匠にあたる広上淳一さん譲りのパフォーマンスか(?)。なかなかカッコイイではないか。
 間をおかずに第4楽章に突入する。金管群が水を得た魚のように活き活きとした音色で吠える。推進力がぐっと盛り上がり、弦楽セクションのノリも良い。よく聴いていると、非常なダイナミックな演奏を展開しているのだが、アンサンブルが実にしっかりしているということに気がついた。とくに各パートの音量のバランスが良い。オーボエやクラリネットが聞こえなくなることもないし、フルートが飛び出してしまうこともない。ホルンとトロンボーンは両サイドでバランス良く吹いているし、トランペットも飛び出さずにいるのにしっかりと聞こえる。ティンパニは普段は弱めにアクセントを付けているのに、ここぞという時はドーンと出てくる。終盤からコーダにかけての全合奏でも、その迫力あるサウンドの割りにはものすごくバランスが良いのである。このようなオーケストラ・コントロールが細かくなされていることは、当然といえば当然なのだろうが、「新世界から」のような名曲だと中堅どころの指揮者たちはオーケストラ任せに流しているように聞こえることがしばしばある。その点、川瀬さんの指揮では隅々まで心配りをしていて、しかも見るからに一所懸命の指揮ぶりであって、読響のメンバーたちも一緒になって盛り上がっていた。そんな印象の演奏であった。

 今日の読響は、とてもノリの良い演奏をしていた。指揮者の川瀬さんの一所懸命さに触発されたようである。音楽のもつ本質的な楽しさが溢れ、全身全霊を傾けての指揮に持てるポテンシャルを見事に発揮していたオーケストラ。夏休み中の「お祭り」的な位置づけの《三大交響曲》で、正直に言えばこれほど素晴らしい演奏を聴かせてもらえるとは思っていなかった。初めて聴いた川瀬さんであったが、またまた目の離せない若手指揮者がひとり増えたようだ。今後の活動にも注目していかなければならないだろう。

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【お勧めCDのご紹介】
 今回は指揮者の川瀬賢太郎さんでも読売日本交響楽団でもなく、いわゆる《三大交響曲》の名盤をご紹介します。すべて20世紀のLPレコード時代のものですが、名演奏だからこそ現在まで名盤として売り継がれてきたのでしょう。現代の若い指揮者の演奏とはかなりイメージが違うかもしれませんね。
(1)シューベルト: 交響曲 第8番 ロ短調「未完成」& 第3番
 カルロス・クライバー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 「未完成」が交響曲第8番となっているのが時代ですね。
シューベルト:交響曲第8番「未完成」&第3番
シューベルト,クライバー(カルロス),ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ユニバーサル ミュージック クラシック

(2)ベートーヴェン: 交響曲第4番&第5番「運命」
 サー・ゲオルグ・ショルティ指揮/シカゴ交響楽団
 独断で選んだ「運命」は堅牢な構造感と圧倒的な大音量で感動間違いなし(?)。
ベートーヴェン:交響曲第4番&第5番「運命」
ショルティ(サー・ゲオルグ),ベートーヴェン,シカゴ交響楽団
ユニバーサル ミュージック クラシック

(3)ドヴォルザーク: 交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」
 ヴァーツラフ・ノイマン指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
 やはりドヴォルザークといえばノイマン&チェコ・フィルでしょうね。ご本家っていう感じです。
ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団,ノイマン(ヴァーツラフ),ドヴォルザーク
日本コロムビア


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