Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/18(水)アフタヌーン/林美智子&大萩康司デュオ/武満歌曲を現代編曲&日本の歌曲を加登昌則編曲で

2015年11月18日 17時00分00秒 | クラシックコンサート
アフタヌーン・コンサート・シリーズ 2015-2016後期 Vol.1
林 美智子&大萩康司 デュオ・リサイタル


2015年11月18日(水)13:30~ 東京オペラシテイコンサートホール 指定 1階 2列 15番 4,500円(会員割引)
メゾ・ソプラノ:林 美智子
ギター:大萩康司*
【曲目】
<第1部>
ビゼー:歌劇『カルメン』より「ハバネラ」
ドリーブ:「カディスの娘たち」
タレガ:アルハンブラの思い出*
武満 徹:「すべては薄明の中で」より第1楽章*
武満 徹:小さな空(編曲:野平一郎)
武満 徹:小さな部屋で(編曲:北爪道夫)
武満 徹:○と△の歌(編曲:鈴木一郎)
武満 徹:うたうだけ(編曲:武満 徹)
武満 徹:翼(編曲:福田進一)
<第2部>
三善晃:エピターズ*
ブローウェル:11月のある日*
加藤昌則編:「想い出のの秋の道」~メドレー
      この道(作詞:北原白秋/作曲:山田耕筰)
      里の秋(作詞:斎藤信夫/作曲:海沼 實)
      小さい秋(作詞:サトウハチロー/作曲:中田喜直)
      赤とんぼ(作詞:三木露風/作曲:山田耕筰)
加藤昌則:旅のこころ(作詞:高田敏子)
加藤昌則:木馬(作詞:高田敏子/新作初演)
《アンコール》
 武満 徹:めぐり逢い(編曲:渡辺香津美)
 *ギター・ソロ

 東京オペラシティコンサートホールで開催される「アフタヌーン・コンサート・シリーズ」は、その名の通り平日の午後に開催される。主催はJAPAN ARTS。なかなか素敵な企画のコンサートが開かれるのだが、何しろ平日の午後、13:30開演で休憩を挟んで2時間というフル・スケールのコンサートなので、仕事のある人はなかなか聴きに行くことができない。よって客層も普段とは少々異なり、リタイア組と主婦層が中心のようである(咳やイビキ、買い物袋のガサガサが多い・・・・かなり多い!)。
 過去にこのシリーズを聴いたのは一度だけ、2012年2月に「美しき女神たちの饗演!」と題した川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオである。仕事を抜け出してでも聴きたい(聴かなければならない)という時だけ、禁断のコンサートに足を踏み入れてしまうのだ。ちなみにその時も今日と同じ席、2列のセンターであった。つまりは発売日にちゃんとチケットを確保しているということになる。

 最近比較的聴く機会が増えた来たギター。今日は大萩康司さんとメゾ・ソプラノの林美智子さんの共演である。ギターというとけっこう短絡的に「=スペイン」や「=情熱的」が想起されて、今日もコンサートも「艶やかな瞬間(とき)~日本の心・スペインの情熱」とという副題が付けられていたが、実際にはタレガの「アルハンブラの思い出」だけがスペインの曲であって、しかも情熱的とは言い難い静かな曲である。ビゼーの「ハバネラ」やドリーブの「カディスの娘たち」はスペインを描いたフランスの曲だ。そしてブローウェルはキューバの作曲家である。その他のプログラムはすべて日本人による曲。ギターの独奏曲や歌曲の伴奏にギターが使われているからといって、スペイン風でも情熱的でもない。大萩さんによる実際のギター演奏は、スペイン風味などまったくなく、むしろ研ぎ澄まされた鋭敏な感性で描かれる現代音楽としてのギター作品となっていて、逆にギターの持つ多国籍性、あるいは現代性を如実に表現することになった。「ギター=スペイン=情熱的」という図式を離れて、ギターの持つ多様な可能性の示唆に富んでいて、素晴らしいコンサートになった。もちろんコチラとしてはいつものように林さんのメゾ・ソプラノが聴きたくて、午後のサボタージュを決行したわけだが、新しい発見のあるコンサートは実に楽しいものである。


 前半はまずご挨拶といった感じで、『カルメン』より「ハバネラ」から。伴奏が音量の小さいギターに変わることで、林さんの歌唱もやや抑えめ。澄んだ音響の東京オペラシティコンサートホールではあまり声を張らなくても声は通ると思われる。しかし、私は2列目の目の前で聴いているので何も問題はないが、奥行きの長いシューボックス型のこのホールで、後方の席でどのように聞こえただろうかがちょっと心配。
 続くドリーブの「カディスの娘たち」では、フラメンコ風のギター乗せて林さんの張りのある声が響いた。4日前に日生劇場で『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィーラを歌ったばかりなので、声はよく出ているようだ。
 続いて大萩さんのギター・ソロを2曲。有名な「アルハンブラの想い出」は定番中の定番だが、聴き慣れているようで、やはり演奏者によって解釈も表現もかなり違う。大萩さんの演奏は、端正な佇まいで、トレモロによる主旋律を品良く歌わせて行く。アルハンブラ宮殿の旅の想い出に感傷的になる情感が滲み出てくるようなイメージである。
 さてここからが武満徹さんの世界へと誘われることになる。東京オペラシティコンサートホールはの「タケミツメモリアル」の別称もある縁のホール。まずはギターの独奏曲で、「すべては薄明の中で」より第1楽章。曲はイギリスの大ギター奏者ジュリアン・ブリームからの委嘱により作曲された1987年の作品である。現代風の研ぎ澄まされた感性が息づく、武満さんならではの曲だ。ギターという楽器の持つラテン系の暑苦しさを消し去り、6弦が生み出す不協和音や無調の不安定感、ハーモニクスの倍音の響きかがとてもクールに感じられる。色彩的には無彩色のイメージ、視覚的には乳白色の霧の包まれたようなイメージ。大萩さんの演奏もクールな音色で、内面的な心象風景を客観的に視覚化したようで素晴らしい。私もギターは多少演奏できるので、この演奏を聴いて、この曲に挑戦してみたくなった(ま、ムリだとは思うが)。
 再び林さんが登場して、ここからは武満さんの歌曲が続く。5曲の歌曲はオリジナルとは違って、今日はもちろんギター伴奏となるわけだが、すべての曲の編曲者が違うのである(上記の曲目一覧の通り)。大萩さんによれば、編曲をされた方々の武満さんに対する敬意が表れまくっていて、かなり凝った編曲になっているので、弾く方は大変だとか。武満さんの歌曲はPOPS系といっても良いくらいに親しみやすいメロディが書かれているが、伴奏のギター編曲の方が武満風の現代調になっているのがとても面白く、やはり当代の一流の作曲家の皆さんもそれぞれに素晴らしい才能を見せている。
 「小さな空(編曲:野平一郎)」は伴奏に含まれる美妙な不協和音が子供の頃の記憶を思い出すという、曖昧さのある情感を描き出している。歌唱の方は林さんの得意とするレパートリーだけあって、ピアノ伴奏の時よりはしっとりとした情感を感じさせる。
 「小さな部屋で(編曲:北爪道夫)」はゆったりと歌われる旋律に対してギターがフレーズの隙間を埋めるように、軽快に品良く演奏していく。
 「○と△の歌(編曲:鈴木一郎)」は、前奏の部分はまったく違う曲かと思うほどに異質な世界から入って来る。歌唱部分に入ると、メロディが本来持っている和声(コード進行)から離れた不協和音を含む和音でフォービートを刻んだりと、なかなか凝っている。歌う方も音程をしっかりしないと難解な和音に惑わされそうだ。
 「うたうだけ(編曲:武満 徹)」は1音毎に異なる和音を充てるなど、さすがご本人というところ。
 「翼(編曲:福田進一)」は、大萩さんの師匠にあたるギタリストの福田進一さんによる編曲。テンポをゆったりと歌わせ、ギターが美しい装飾的なフレーズで彩っている。ロマンティックな雰囲気に包まれ、歌唱もしっとりとした情感が込められていた。


 後半はまず大萩さんのギター・ソロを2曲。三善 晃の「エピターズ」は1975年に作曲されたギター独奏曲。非常に張り詰めた緊張感の中で、音の造型が鋭く突きつけられてくる。難解ではあるが、音楽的な魅力が詰まっている感じがする。
 続いてもギター・ソロで、ブローウェルの「11月のある日」。ブローウェル(1939~ )はキューバのギター奏者・作曲家で、現代音楽・前衛音楽に傾倒した時期もあったが、1980年代頃からは調性音楽に戻り、映画音楽なども手がけるようになったという。「11月のある日」も映画音楽まひとつ。ラテン系の哀愁を帯びたメランコリックな旋律が美しい静かな曲である。
 林さんが再度登場して、日本の歌曲の世界に戻ることになる。今度は誰でも知っている童謡の名曲たちが加藤昌則さんの編曲によるメドレーで歌われる。単純に4曲をつなげたわけではなく、各曲が混ざっているのが面白い。しかもギター伴奏というわけだから、かなり珍しいものになったと言える。「この道」「里の秋」「小さい秋」「赤とんぼ」を歌う林さんのメゾ・ソプラノは優しくて温かい。日常的な自然な声域の童謡は子供でなくても心に染み入ってくる。加藤さんの編曲もとても優しい。
 曲の後、客席に来ていらした加藤さんがステージに呼び上げられ、作曲の方法や次に演奏される曲目について、楽しいお話しを聞かせてくれた。
 加藤さん作曲による「旅のこころ」は、いつもはピアノ伴奏で聴いているが、今日のためにギター用に編曲されたのだという。このちょっと切ない心情を歌った曲には、ギターの柔らかいアルペジオがとても似合っている。
 最後は加藤さんの作曲で「木馬」。作詞は「旅のこころ」と同じ高田敏子さん。今回のリサイタルのために書かれた新作で、本日が初演である。歌詞も素敵、曲も素敵、ギターの伴奏も優しさがいっぱいで素敵であった。

 アンコールは武満さんの歌曲で「めぐり逢い」。編曲はジャズ・ギタリストの渡辺香津美さんとのこと。やはり和音(コード)の使い方がクラシック音楽とはちょっと違っていて響きに新鮮なものを感じた。歌唱の方もギター伴奏だとやや抑えめになり、それがかえってしっとりとした情感を表すのに適しているようだ。

 今日はいつものように林さんの歌唱を聴きに来たわけで、大らかで優しくて温かい彼女の歌には心安らぐものを感じさせてくれる。「感動」ではなくて「癒し」の方の比率が高いような気がするが、それが彼女の持ち味なのだから、それで良いのだと思う。いつも難しい顔をして聴くばかりがクラシック音楽ではないのだから。
 それとは別に、今日は大萩さんのギターに魅せられた。だから勢い、ギターに関する記述が多くなってしまった。「ギター=スペイン=情熱的」というステレオタイプの発想ではなく、むしろ無国籍でコンテンポラリーな感覚のギターはし、新鮮な発見であった。もちろん、ギターによる現代曲を初めて聴いたわけでも何でもないのだが、やはり大萩さんの演奏が良かったからなのだろう。大いに啓発され刺激を受けた。簡単に言えば「いいなぁ」というレベルなのだが、ギターだと「何となく」練習すれば自分でも演奏できるような気がしてしまうのであるが、これは勝手な思い込みに過ぎない。

 終演後は恒例のサイン会があったので、おふたりにプログラムにサインをいただき、しっかりと握手も。林さんの手は温かく、大萩さんの手は繊細であった。

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【お勧めCDのご紹介】
 林美智子さんによる武満徹さんの歌曲集「地球はマルイぜ~武満徹:SONGS」です。2008年のリリース。気がついてみればもう7年も経ってしまいました。林さんとの付き合いも長くなっています。
地球はマルイぜ~武満徹:SONGS~
武満徹,武満徹,谷川俊太郎,井沢満,五木寛之,永田文夫,秋山邦晴,荒木一郎,川路明,岩淵達治,野平一郎
ビクターエンタテインメント



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