Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/16(月)ベルリン放送交響楽団/ツィンマーマンの燃えるシベリウスVn協/ヤノフスキの激走するブラームス1番

2015年03月16日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ベルリン放送交響楽団 2015年 日本公演
Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin / Japan Tour 2015


2015年3月16日(月)19:00~ サントリーホール B席 2階 LA1列 19番 9,000円
指 揮: マレク・ヤノフスキ
ヴァイオリン: フランク・ペーター・ツィンマーマン*
管弦楽: ベルリン放送交響楽団
【曲目】
ウェーバー: 歌劇『オベロン』序曲
シベリウス: ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47*
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 から「アレグロ」*
ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 作品68
《アンコール》
 ブラームス: 交響曲 第3番 ヘ長調 作品90 から「第3楽章」

 マレク・ヤノフスキさん率いるベルリン放送交響楽団の来日公演を聴く。2011年10月の来日公演以来、およそ3年半ぶりである。前回の来日時は、Japan Arts主催の横浜みなとみらいホール東京オペラシティコンサートホールNHK音楽祭のNHKホールでの3公演すべてを聴いた。その時はベートーヴェンとブラームス中心のプログラム構成であった。今回の来日ツアーでは、ブラームスの交響曲全曲とブルックナーの交響曲第8番を持って来ていて、3/15福井、3/16東京・サントリーホール、3/18東京・サントリーホール、3/20静岡、3/21西宮、3/22周南、3/23・24東京・武蔵野と、全国で合わせて8公演を行う。武蔵野の2日間はブラームスの交響曲ツィクルスという豪華版だ。そして今日のサントリーホールでの公演だけが唯一協奏曲を含むプログラムで、フランク・ペーター・ツィンマーマンさんをゲストに迎えてのシベリウスのヴァイオリン協奏曲と、小品として歌劇『オペロン』序曲が用意された。
 武蔵野のブラームス・ツィクルスも大いに興味をそそられるところだが、平日夜公演の武蔵野はさすがに無理なので諦め、そうなるとサントリーホールで協奏曲を含むプログラムしかなくなってしまう(ブルックナーは長いので苦手だから)。とはいっても、今年は2月から3月にかけて、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、そしてフィルハーモニア管弦楽団と大物の来日ラッシュが続き、完全に資金難に陥ってしまっているので、ヤノフスキさんには申し訳ないが、協奏曲があるにもかかわらず、2階のLAブロック、Bランクの席で我慢することにした。ただし、LA1列19番は、ドレスデン国立管の時と同じ席である

 さて1曲目は、ウェーバーの歌劇『オベロン』序曲。このオペラは日本ではほとんど上演されることもなく、従って観たことはない。ウェーバーといえば『魔弾の射手』に名を残すものの他の作品は現在、ほとんど顧みられることはないようである。ドイツ・ロマン派初期の作曲家と位置付けられ、モーツァルト晩年のドイツ語によるオペラを継承し、ドイツ・ロマン派のオペラを確立したとされている。1786年の生まれでベートーヴェンよりは16歳若いが、ベートーヴェンよりも1年早く没しているので、活躍した時期はほぼ同じなのである。『オペロン』の序曲を聴いても、いかにもロマン派という旋律ではあるが様式は古典的だ。
 演奏は、冒頭のホルンが森に響く角笛のようであり、フルートが小鳥のさえずりのように歌う。この雰囲気はさすがにドイツのオーケストラだ。この地味な音、渋い音色は他の国にはないものだ。主部が始まると、急にヤノフスキ節全開となる。キレの良い早いインテンポで、グイグイと押していく。リズミカルでメリハリが効いていて、ダイナミックレンジも広い。第2主題はグッとテンポを落としてこれでもかというほどにロマンティックに歌う。快調で、ロマン的で、ワクワク感も満載の演奏で、コンサート序曲としてもその後の期待感を煽る素晴らしい演奏であった。ヤノフスキさんはシレッとした表情でニコリともせず、職人気質のイメージだが、彼の音楽はシャープで引き締まっていて、緊張感が高い。

 2曲目は、ツィンマーマンさんによるシベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」。考えてみれば、ヤノフスキさんの指揮でドイツもの以外の音楽を聴くのは初めてである。シベリウスでもヤノフスキ節になるのだろうか。また、ツィンマーマンさんを聴くのも初めてなのであるが、予算をケチってLAブロックにしたため、やはりヴァイオリン協奏曲には適さなかったようだ。距離がいささか離れているというだけでなく、演奏家本人の身体で楽器が隠れてしまい、どうにも直接音が来ない。音が遠くを回ってくる感じで、もどかしかった。
 第1楽章は、やはり全体的には速めのテンポであった。ツィンマーマンさんのソロはなかなか緊張感の高い演奏をしているようであったが、明瞭に聞こえていないので、正直言ってよく分からない。一方、オーケストラの方はダイナミックに鳴らしてして、オケだけの部分などは早いテンポで快調に飛ばしていく。重厚にシベリウスではなく、突撃型である。やはりヤノフスキ節になっているようであった。カデンツァなどでも聞こえ方は良くなかったが、ツィンマーマンさんも早いテンポで技巧的な面を惜しげもなく見せているようであった。
 第2楽章は緩徐楽章。それでもやはりテンポは速めの方に入るだろう。ツィンマーマンさんのヴァイオリンは、キリリと尖っていて、先鋭的な印象を受ける。それが速めのテンポで押してくるから、抒情性はあまり感じられない緩徐楽章であった。ドイツ生まれの技巧派ヴァイオリニストとドイツの職人的指揮者と伝統的なオーケストラが織りなすシベリウスは・・・・北欧風の凛とした透明感とはほど遠く感じた。頑ななドイツ的なサウンドである。
 第3楽章もまたかなり速い。ツィンマーマンさんのヴァイオリンが限界っぽくキリキリと回っていく。オーケストラ側は一切淀みなく、グイグイと進められていく。これほど速いテンポのこの曲し初めてだ。もちろんツィンマーマンさんの技巧は冴え渡り、速いテンポだろうがお構いなしに快調に飛ばしていく。LA1列なのでオーケストラからは至近距離のため、ダイナミックレンジが広く、爆発的な音量も出ていたが、何だかあまりに速いので、あっという間に終わってしまったという印象であった。
 3つの楽章を通じて速いテンポで押しまくるというちょっと珍しいシベリウスのヴァイオリン協奏曲であったが、これはこれで面白い。いつも何か仕掛けを考えて、手抜きをしないヤノフスキさんらしいアプローチだったのかもしれない。

 ここでひとつ苦言を。曲が終わった瞬間に、すぐ近くのLAブロック内にブラボーを叫んだバカがいた。まだ残響音がホールを満たしている間のことである。まったく不愉快きわまりない。今日の公演は録音されているようだったので、おそらく後日NHK-FMあたりで放送されるのではないかと思うのだが、編集でも消せないタイミングでブラボーを飛ばすヤツは確信犯で、録音に自分の声を残して自慢したがる大バカである。コンサートわぶちこわしにしてしまう可能性もあるので、こういうヤツは音楽を愉しみに来ている聴衆の敵、コンサートの妨害者である。こんなヤツはお金を払ったとしてもコンサートを聴く資格はない。もし私の隣にいたら、絶対に叩き出してやる。事実、どなたかが主催者側に注意を促したみたいで、後半の始まる前の館内放送では「指揮者のタクトが下ろされるまで拍手を控えるように」という「お願い」があった(正確には「拍手」ではなく「ブラボー」である)。外来オーケストラの休憩時の放送では異例のことだ。

 ツィンマーマンさんのソロ・アンコールはJ.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」から「Allegro」。こちらも快速演奏で、超絶技巧を遺憾なく発揮していた。

 さて気を取り直して、後半はブラームスの「交響曲 第1番」である。
 第1楽章。案の定というか、期待していた通りに、序奏から速めのテンポでグイグイと押してくる。しかもティンパニがかなり強く打ち出してくるため、強音時はかなりの音量となっていた。ソナタ形式の主部に入っても、速いテンポは変わらず、前のめり気味に突っ込んで行くために、緊張感が高い。第2主題できテンポが落ちるがホルンが早めに入ってきて、やはり緊張感を高く保っている。もうヤノフスキ節全開である。そしてちょっと珍しく、提示部をリピートした。オーケストラの音はいかにもドイツ的な濁りというか渋みのあるもので、それはそれで雰囲気抜群なのだが、ヤノフスキさんの快速演奏ははフレッシュな躍動感に満ちている。そのギャップがとても面白い。
 第2楽章も緩徐楽章としては早めのテンポである。よく聴いてみると、速いテンポの中で微妙なニュアンスを付けて旋律を歌わせている。細やかな職人芸的なところを見せるヤノフスキさんである。ベルリン放送響の演奏能力も高く、オーボエやクラリネットなどは速いテンポの中で味わい深く質感の高い演奏を確保しているあたりはさすがだ。オーケストラ激戦区のベルリンで鍛えられているなァ、といった印象である。終盤に出てくるコンサートマスターによるヴァイオリンのソロはよく聞こえた。
 第3楽章も・・・・やはり速めであった。この間奏曲風の楽章では、快走するイメージで、なかなか軽快である。来る第4楽章への橋渡しか。
 間をおかずに一気に第4楽章へなだれ込んだ。この序奏はなかなかドラマティックだ。速めといえば速めだが、キレ味が鋭く、緊張感も高い。ティンパニの爆音に続いてアルペンホルンが朗々と鳴り響く序奏の第2部が期待感を煽っていく。主部に入ると歓喜の主題がやはり速めのインテンポで、余分な思い入れもなく、グングンと進んでいき、クライマックスを形成する頃にはかなりのハイ・テンポになっていた。主題の切れ目などにもほとんど間合いを取らずに、前のめり気味に進んでいく。しかし何故これほど速く演奏するのだろう。その趣旨も不明なまま、ここまで来るとすっかり慣れてしまい、まんまとヤノフスキさんのペースに巻き込まれてしまっていたようだ。このスピード感と高い緊張感、そして強烈なダイナミズム。室内オーケストラのような軽快感とリズム感でありながら、弦楽16型のフルサイズのオーケストラをブン回している感じ。ちょっと他にはない演奏である。これはこれでBravo!!

 アンコールは、ブラームスの「交響曲 第3番」から「第3楽章」。アンコール・ピースではなく、しっかりと仕上げてきた本番のプログラムからの抜粋である。この映画で有名になった名旋律も・・・・速かった。

 今回のベルリン放送交響楽団の来日ツアーは、結局こり1回しか聴けないので全体像は計り知れないが、今日聴く限りでは、ヤノフスキ節全開で、改めて驚きを含む演奏を聴かせてくれる。音楽的な個性からみれば、聴く側にとっては好き嫌いが分かれるところだろうが、この演奏が一級品であることは間違いない。先月聴いたクリスティアン・ティーレマンさんの指揮するドレスデン国立歌劇場管弦楽団もドイツ音楽らしさいっぱいで保守本流といったイメージであったが、同じドイツっぽさそのものの音でありながら、真逆の演奏を展開するヤノフスキさんとベルリン放送響である。私はこういう個性豊かな演奏が大好きだ。音楽は奥が深い。その分だけ聴く度に新しい発見もあり、だからこそ面白いのである。

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