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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/19(木)N響Bプロ定期/ロペス・コボスのレスピーギ特集/ダナイローヴァの「グレゴリオ風の協奏曲」

2017年01月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
NHK交響楽団 第1854回定期公演《Bプログラム 2日目》

2017年1月19日(木)19:00~ サントリーホール B席 2階 LA4列 18番 4,800円
指 揮:ヘスス・ロペス・コボス
ヴァイオリン:アルベナ・ダナイローヴァ*
管弦楽:NHK交響楽団
コンサートマスター:篠崎史紀
【曲目】
レスピーギ:グレゴリオ風の協奏曲*
《アンコール》 
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番より「ラルゴ」*
レスピーギ:交響的組曲「教会のステンドグラス」
レスピーギ:交響詩「ローマの祭り」

 久し振りにNHK交響楽団の「第1854回定期公演《Bプログラム 2日目》」を聴く。定期会員券を持っていながら、1年以上、間を開けてしまった。どうもこの「Bプロ」はあまり相性が良くないようで、「オーチャード定期」はけっこう聴きに行っているのだが、「Aプロ」と「Cプロ」は、NHKホールがあまり好きでなくほとんど行くことはない。
 というわけで、久し振りになってしまったN響Bプロ。今回の指揮者は、スペイン出身の名匠、ヘスス・ロペス・コボスさんである。スペイン国内に留まらず、ドイツやアメリカなどでも重要なポストを歴任している音楽界の重鎮の一人。とくにオペラの世界での活躍が著しく評価も高い。スペイン出身ではちょっと意外な感じもするが、ワーグナー指揮者としても相当な実績を残している人だ。そんなロペス・コボスさんが今回採り上げるのはレスピーギ。何と、オール・レスピーギ・プログラムという、あまり例のない特異なものだ(有名なローマ三部作だけのプログラムは時々見かけるが)。

 よくよく考えてみると、レスピーギという作曲家に関しては、あまりよく知られていないのではないだろうか。私もローマ三部作以外はほとんど聴いたことがないのが実情だ(あるいは聴いても覚えていないのかも)。以下、ちょっとおさらい。
 オットリーノ・レスピーギ(1879〜1936)はイタリアの作曲家、ヴァイオリニスト、ピアニスト、音楽学者、教育者という多面性で20世紀初頭のイタリア音楽界を支えた一人である。ボローニャで生まれ音楽教育を受け、ロシアやドイツにも学び、ヴァイオリンやピアノの演奏活動もしている。1913年にローマに移り、サンタ・チェチーリア音楽院作曲科教授となった。後に楽院長まで務め、晩年にはイタリア王国学士院の会員となった。
 作曲家として残した作品はかなりの数に上るが、少なくとも日本では現在、あまり演奏されることはないようである。イタリアの作曲家らしく、オペラ作品も多いし、声楽曲(カンタータ)も多い。他にも、バレエ音楽、管弦楽曲、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、弦楽四重奏などの室内楽、器楽曲(ヴァイオリン、ピアノ、ギター)など多岐にわたる。作風は、時代的にはロマン派後期から近代にかけてということになり、形式的には自由度が高くなっていても、概ね保守的で、改革的や前衛的な指向性は感じられない。オペラ作品は聴いたことがないが、ロマン派後期=プッチーニ、新しい潮流となったヴェリズモ・オペラと同時期、あるいはそれ以降の時代であり、イタリア・オペラも輝きを失った時代になるので、レスピーギの作品も消えゆく運命にあったのかもしれない。そうした中で「ローマ三部作」はオペラを離れた管弦楽曲として異彩を放っている。本日演奏される「ローマの祭り」は1928年に完成、翌年アルトゥーロ・トスカニーニの指揮でニューヨーク・フィルハーモニックによって初演されている。

 プログラムの前半は「グレゴリオ風の協奏曲」という曲で、実態はヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲である。カデンツァを含む3つの楽章を持ち、協奏曲の形式を踏襲しているが、主題が「グレゴリオ聖歌」風の旋律を用いていて、新古典主義的、あるいは古楽に傾倒した作風とみることもできる。1921年の作。
 独奏のヴァイオリンも古楽風の造形で、実際にはかなり技巧的だが、聴いた印象は意外に地味。オーケストラと融合していて、ロマン派の協奏曲のような派手さはない。ただ、さすがイタリアというべきで、古楽風であっても、主題も独奏ヴァイオリンも、オーケストラのパートも非常に美しい旋律に彩られている。息の長い主題がたっぷりと歌われるところは、あくまでイタリアだなァと感じさせ、全合奏で盛り上がる部分では、急に原色の色彩が乱れ飛ぶような、ロマン派の音楽が飛び出してくるのである。
 ソリストはアルベナ・ダナイローヴァさん。ブルガリアの出身で、1995年にドイツに移住、バイエルン国立歌劇場管弦楽団の第1コンサートマスター、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターを経て、2008年にウィーン国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスターに就任、2011年からはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターも務めている。
 演奏については、今日は2階のLAブロックで聴いていたので、ちょうど楽器が身体の影になってしまうためか聞こえづらい面があったので、論評は差し控えたい。楽曲自体が独奏ヴァイオリンは装飾的な音型でオーケストラに絡みつく感じなので、派手な協奏曲とは違ってあまり目立てないのも確か。N響のクオリティの高い木管群に比べると、私の席からだとどうしてもヴァイオリンの音量が小さくなってしまう。1階の正面で聴けばまたかなり違った感じになるだろうとは思う。
 曲自体はかなり珍しい部類に入ると思うが、聴いているととても美しく抒情的な曲であることも確かで、とても良い曲である。もっと頻繁に採り上げられるようになれば、人気の出る曲になると思う。

 ダナイローヴァさんのソロ・アンコールは、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番」より「ラルゴ」。聴き慣れた曲ならは、彼女の巧さも分かるというもの。ただし音量はやはり小さめに聞こえた。ソリストというよりはコンサートマスターのソロのイメージかもしれない。

 後半は、まず「交響的組曲『教会のステンドグラス』」という曲。4曲からなる組曲で、各曲には標題が与えられている。レスピーギが1919年に結婚した後、発表されたピアノのための「グレゴリオ聖歌による3つの前奏曲」という作品があり、これに1曲追加して管弦楽版に作り直したという経緯を持つ。従って、標題に記された世界を描いているのではなく、出来上がった曲の聴覚的な印象により後から標題が付けられたものだ。標題は第1曲から順に「エジプトへの逃亡」「大天使聖ミカエル」「聖クララの浅野祈り」「偉大なる聖グレゴリウス」とあるように、グレゴリオ聖歌の古楽的な旋律を近代的な管弦楽法で編み直した「ステンドグラス」のような色彩感を持つ曲である。初演は1927年、アメリカに3ヶ月半にわたるツアーを行い、その間にボストンで、クーセヴィツスキー指揮のボストン交響楽団によって行われた。
 ロペス・コボスさんの指揮は、極めて陽性で原色っはぽい色彩感の強い音をN響から引き出している。2階のLAブロックは、弦楽器よりも管楽器と打楽器が間近で明瞭に聞こえるので、より一層鮮やかな音色に感じられた。イタリアの管弦楽曲はあまり聴く機会が多くはないが、フランス音楽の持つ色彩感よりも濃厚で原色に近いイメージになる。実際には、ホルンやトランペットの突き抜けるような鮮やかさが、実に素晴らしい雰囲気を創り出していた。幾層にも重なる音が、まさにステンドグラスのようにクッキリと鮮やかな分離して聞こえ、それでいて絶妙のバランスで美しい和声を生み出していた。とくに第4曲で登場するパイプオルガンの荘厳な響きと続く金管のアンサンブルは見事であった。

 最後は交響詩「ローマの祭り」。ご存じ「ローマ三部作」の最後を飾る傑作とされている。こちらも4つの曲からなるが、交響詩となっているように明らかな標題音楽で、古代から20世紀までの4つの祭りを描いたものである。1913年以降はローマで活動していたレスピーギではあるが、1928年に完成されたこの曲を、翌年初演したのはトスカニーニの指揮するニューヨーク・フィルでカーネギーホールでのことだった。その後の録音なども含めて、レスピーギの「ローマ三部作」が世界的な人気曲になったのはトスカニーニのチカラによるところが大きいようである。
 演奏は、第1曲の冒頭からバンダのトランペット4本が、2階Pブロックのパイプオルガンの左側で、高らかにファンファーレを放ち、これがまた(近いせいもあるが)素晴らしく鮮やかな響き渡り、ホール全体を一気に古代ローマに誘う。そのあまりにも鮮やかな演奏に心をガッチリと掴まれた感じで、後は満艦飾が入り乱れるような色彩的な音の奔流に身を任せるだけ。第3曲に登場するマンドリンや繊細に奏でられる弱音から、全合奏の爆発的なエネルギーの放出に至るまで、ダイナミックレンジは相当に広い。かなりドラマティックな仕上がりだが、リズム感が流れるようで、その中には人々の息吹が活き活きと描き出されている。絵画的・映像的というよりは「動画的」とでも呼べば良さそうな躍動感と生命力に満ちた演奏であったと思う。
 正直な感想を言わせていただくと、N響でもこんなに鮮やかな色彩が描けるものかと・・・・(失礼)。いつもの緻密で冷静なN響とはひと味もふた味も違った印象で、ロペス・コボスさんの卓越したオーケストラ・ドライブによるものであろう。ちょうどタイミング良くスケジュールが空いてたので久し振りに聴きに来たN響Bプロであったが、今日は思わぬ広いものをしたなどと行ったらN響の皆さんに失礼になってしまいそうである。N響の潜在能力の高さを改めて感じさせてくれた、素晴らしい演奏だったと思う。

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