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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/7(日)国際音楽祭NIPPON/諏訪内晶子+ドイツ・カンマーフィルで世界初演のヴァイオリン協奏曲に興奮

2014年12月12日 01時46分39秒 | クラシックコンサート
第3回 国際音楽祭NIPPON
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団


2014年12月7日(日)15:00~ 横浜みなとみらいホール S席 1階 C2列 16番 10,000円
指揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン: 諏訪内晶子*
管弦楽: ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン: 「プロメテウスの創造物」序曲 作品43
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
カロル・ベッファ: ヴァイオリン協奏曲「A Floating Woeld」(国際音楽祭NIPPON実行委員会委嘱/世界初演)*
ベートーヴェン: 交響曲 第1番 ハ長調 作品21
《アンコール》
 ブラームス: ハンガリー舞曲 第3番 ヘ長調
 シベリウス: 悲しきワルツ 作品44-1

 先週の日曜日(2014年11月30日)に続いて、「第3回 国際音楽祭NIPPON」のコンサートを聴く。今日はパーヴォ・ヤルヴィさんの率いるドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会で、音楽祭の芸術監督の諏訪内晶子さんはソリストとして出演、新旧2曲のヴァイオリン協奏曲を弾くという、豪華なプログラムだ。しかもそのうちの1曲は、作曲家のカロル・ベッファさんに、この音楽祭が委嘱した作品で、世界初演となるヴァイオリン協奏曲である。初演ものの好きな私にとっては、垂涎もののコンサートであり、何とか2列目のソリスト正面の席を確保しておくことができた。

 ドイツ・カンマー・フィルとヤルヴィさんについては、今さら説明する必要はないだろう。バロックから現代までの幅広いレパートリーを誇り、卓越した演奏技術と、小編成の室内オーケストラとは思えないほどのダイナミズムを発揮する。今日のプログラムの内、ベートーヴェンとメンデルスゾーンは、もっとも得意とする分野であろう。むしろ新作の現代音楽をどのように演奏するかの方が気になるところだ。彼らはこの後、東京オペラシティコンサートホールでのブラームス・ツィクルスが予定されているのである(12/10、12/11、12/13、12/14)。

 1曲目はベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲。何度聴いても驚かされるのが、この少人数オーケストラの生み出すエネルギッシュな演奏だ。弦楽の緻密でキレ味の鋭いアンサンブルや、ppからffまで一気にクレシェンドしていく力感などは、日本のオーケストラでは聴くことの出来ない、強烈な個性を打ち出している。弦楽と管楽器と打楽器が一体となって一気に沸騰する。そのダイナミックレンジの異様な広さは、聴く者を一気に虜にしてしまう魅力に満ちたものだ。活き活きと弾む、生命力の漲るベートーヴェンであった。

 2曲目はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。ソロはもちろん諏訪内さんだ。
 第1楽章は、やや速めのテンポで始まり、ソロ・ヴァイオリンにるよる主題の提示の後、カデンツァ風のパッセージ辺りから急速に緊張感が高まって行き、聴く者をグイグイと引き込んでいく。諏訪内さんのヴァイオリンも抒情性を排した硬質なイメージで、パンチ力のあるオーケストラに対峙してる。豊かな響きを持つストラディヴァリウスはいつものことだが、今日は一段と緊張感が高く、音にチカラが乗っているイメージ。高音部でも芯の強さを強調するような硬質な音色を保ち、オーケストラからクッキリと分離した音で聴かせる。低音部の豊かな鳴らせ方や中音域の厚みのある音色も素晴らしい。カデンツァは技巧的な聴かせ方で速めに通過し、そのテンポを保って再現部も速めだ。第2主題の回帰では一旦テンポを落とすが、コーダに入るとダイナミックで力感いっぱいになり、諏訪内さんとドイツ・カンマーフィルの丁々発止のやり取りが、時に緊張感を孕みつつ、親和性も保ちながら、実にスリリングに楽章を終えた。
 続けて演奏される第2楽章に入ると、やはりやや速めのテンポでロマンティックな主題に入っていくが、諏訪内さんのヴァイオリンは甘さを排した冷徹ささえ感じるような、ピリピリしたムードを漂わせる。オーケストラ側も負けていない。出るべきところは瞬発的な立ち上がりで、強烈なアクセントを付けていく。この緩徐楽章をこれほど緊張感高く演奏されたのを聴いたことがない。
 第3楽章は、接続句的な序奏の部分から緊張感が高く、主部が始まると、ソロ・ヴァイオリンが力感を前面に押し出しながらオーケストラをリードしていく。テンポはやはり速め。オーケストラとのやり取りにもキレ味鋭く突っ込んでいき、グイグイと引っ張って行く。コーダに入ってからの疾走感と、オーケストラを煽って突っ走っていく躍動感、その爽快感は、この古典的とも言うべき名曲に、新たな生命を吹き込んだような新鮮か響きをもたらしていたといえる。

 さて、後半は問題の世界初演曲。カロル・ベッファ作曲、ヴァイオリン協奏曲「A Floating World」である。国際音楽祭NIPPONからの委嘱作品であり、もちろん諏訪内さんが演奏することを前提に作曲が進められたようである。標題となっている「A Floating World」とは、カズオ・イシグロの小説『浮世の画家』を英訳で読んだベッファさんが触発され、そこから採られたもの。つまり「浮世」=「A Floating World」ということなのだが・・・・。楽曲は2つの楽章からなる。演奏時間は30分弱。さすがに世界初演の曲に対して、演奏が良いの悪いのと言ってもあまり意味がないと思われるので、楽曲中心にみていこうと思う。
 第1楽章は・・・・ヴァイオリン協奏曲として思い描いていた世界をあっさりといなされた感じで、何と静かなピツィカートから始まる。コントラバスのピツィカート(だったと思う)や他の管楽器も徐々に加わってくる。ヴァイオリンが弓で弾き始めると、音楽が徐々に厚みを増してくる。テンポはModeratoくらいか。ラヴェルの「ボレロ」のように曲全体が終盤に向かってクレシェンドしていく構成のようだ。曲想はもちろん現代音楽で、調性は曖昧だが不協和音ばかりというわけではない。全体のイメージは幻想的・夢幻的な浮遊感が漂っている。ソロ・ヴァイオリンの弾く主題は、抒情的な雰囲気から始まり、徐々に混沌としてきて、破壊的なイメージへと変わっていく。ソロ・ヴァイオリンはほとんど弾きっぱなしで、次第に変わっていく音楽の性格をリアルに体現しているようだ。クライマックスを過ぎると沈静化していき、楽章が終わる。
 第2楽章は、幻想的な雰囲気の漂うオーケストラの上に、やはり夢想的なソロ・ヴァイオリンが艶めかしく乗っかる。無調のようだが、和声は不協和音ばかりではなく、複雑な和音を重ねて幻想的な効果を出しているようだ。この曲想に占める浮遊感こそが「浮世」=「A Floating World」というイメージらしい。ただし小説の「浮世」はどちらかというと「憂き世」の方の意味に近いようなので、これは単なる言葉の上でのイメージなのかもしれない。第2楽章の後半は様相がガラリと変わり、調性も和声も、拍子もリズムも破壊的になり、カオスの世界が展開していくようである。ピアノも加わったりする。ソロ・ヴァイオリンは、オーケストラとは微妙な距離感を置きながら、旋律ともリズムいえるようなパッセージを繰り返していく。終盤はテンポが上がり、無窮動的なパッセージをソロ・ヴァイオリンが駆け巡らせながら、駆け抜けるように曲が終わった。第2楽章は15分くらいだが、緩-急-コーダという構成になっていて、単一楽章の曲のようにもなっている。
 2つの楽章を通じて、とくに前衛的というわけでもないので、非常に聴きやすい曲に仕上がっていると感じた。「A Floating World」を日本語の「浮世」ではなく、「浮かんでいる世界」だと捉えれば、標題の意味も、楽曲の構成も理解しやすいものだ。まあ、専門家ではないので詳しいことは判らないが、この曲がなぜヴァイオリン協奏曲である必要があったのかといえば、無限旋律的なヴァイオリンは「A Floating World」を一番表現しやすい楽器だったということではないだろうか。まったく初めて聴くのでは、演奏が上手いのかどうかなんて判りようもないが、豊かな響きを持つ諏訪内さんのヴァイオリンは、リズム感のしっかりしたオーケストラとの分離が良く、明瞭でクッキリした演奏だったと言うことができる。Braaava!!

 さて興奮も冷めやらず・・・・最後はベートーヴェンの「交響曲 第1番」。またけっこう地味な曲を持ってきたものだ。コチラの方は簡単に述べるに留めよう。ある意味では、ヤルヴィさんが「やっとオレの出番が来た」とばかりにドイツ・カンマー・フィルと息の合ったところを見せた、そんな演奏であった。冒頭にも書いたように、あらためてこのオーケストラの独特のダイナミズムに感心させられる。打楽器出身のヤルヴィさんのリズム感は抜群で、どこのオーケストラを指揮する時でも独特のキレの良さを発揮させるが、ドイツ・カンマー・フィルを振る時が、もっとも顕著に現れるようだ。
 第1楽章は、若き日のベートーヴェンの漲る生命力が乗り移ったような、素晴らしく躍動的な演奏であった。
 第2楽章の緩徐楽章もかなり速めのテンポでリズム感良く快適なペースで運んでいく。
 第3楽章のスケルツォも速めのテンポで推進力は止まらない。前のめりになって突っ込んで行くような活きの良さである。
 第4楽章は一転して重厚に序奏を聴かせ、主部に入るとこれもまた超快速で、息もつかせないほどの疾走感だ。それでも一糸乱れぬアンサンブルと、強弱のアクセントがハッキリしていて、とにかく聴いていて気分爽快になる、そんな演奏であった。
 やはりこの曲が一番、ヤルヴィさんの個性も、ドイツ・カンマー・フィルの素晴らしさを発揮していたといえそうだ。これだけキレ味の鋭い音楽を演奏する組み合わせは他にはない。まったく、恐るべき室内オーケストラである。

 アンコールは2曲。今回はちょっと珍しい、ブラームスの「ハンガリー舞曲 第3番」と、いつもお馴染みのシベリウスの「悲しきワルツ」であった。

 まあ、今日のコンサートは何と言っても諏訪内さんのヴァイオリン協奏曲2曲に尽きる。古典的なメンデルスゾーンは現代的な鋭い解釈で切り込み、ベッファさんの新曲は、意外に判りやすく聴きやすい曲で面白かった。こういう時こそ、テレビやFMなどでの放送をすべきだと思うのだが、その気配もなかったので、ちょっと惜しい気がした。
 いずれにしても、今日の演奏会、とくにベッファさんのヴァイオリン協奏曲「A Floating World」の世界初演は、成功だったと思う。叶うことであるなら、この曲が今後世界中で演奏される21世紀の名曲になってほしいものだ。そうなれば、その世界初演に立ち会うことができた私たちは、歴史の証言者になれる。何しろ、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲がライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団によって初演されたとき、彼自身は体調を崩して立ち会うこともできなかったそうである。世界初演の曲を演奏者に手の届きそうなくらいの目の前で聴くことが出来るなんて、これほど幸せなことはない。

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