Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/21(日)N響 Special Concert/森麻季が歌うオペラ・アリアの名曲とチャイコフスキーの交響曲第4番

2016年08月21日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
アットホーム presents N響 Special Concert

2016年8月21日(日)14:30〜 サントリーホール  S席 1階 1列 18番 7,000円
指 揮:ジョン・アクセルロッド
ソプラノ:森 麻季*
管弦楽:NHK交響楽団
【曲目】
グノー:歌劇『ファウスト』より「ワルツ」
グノー:歌劇『ロメオとジュリエット』よりジュリエットのワルツ「私は夢に生きたい」*
マスカーニ:歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より間奏曲
ベッリーニ:歌劇『カプレーティ家とモンテッキ家』より「おお、いくたびか」*
プッチーニ:菊の花
プッチーニ:歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」*
プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「私が町を歩くと(ムゼッタのワルツ)」*
チャイコフスキー:交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
《アンコール》
 レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲「シチリア舞曲」

 アットホーム株式会社の特別協賛によるNHK交響楽団のスペシャル・コンサート。夏休み期間中でコンサートがほとんどないこの時期に、N響の名曲演奏をサントリーホールで聴けるというのが最大の魅力である。何しろN響がサントリーホールで開催するB定期は2日公演であるにも関わらず定期会員でほぼいっぱいという状況で、しかも新たに定期会員になることや、席替えをするにも制約が多くて難しい。だから本日のような冠付きであっても主催公演には違いないし、会員優先ではあるが自由に席が選べるサントリーホールのコンサートはたいへん貴重なものなのある。しかもゲストが良い。昨年2015年はピアノのアリス=紗良・オットさんだったし、今年はソプラノの森麻季さんである。というわけで、昨年に引き続き、1階の最前列ソリスト正面で聴くことにした。

 プログラムは上記の通り、前半が麻季さんを中心にしたフランスとイタリアのオペラの傑作から、アリアの名曲と管弦楽曲を、後半がチャイコフスキーの交響曲第4番という、名曲コンサートには違いないが、主旨が曖昧に思える。指揮のジョン・アクセルロッドさんはアメリカ出身で、主にヨーロッパでオペラもシンフォニー・コンサートも幅広く手がけている人で、王立セビリア交響楽団の芸術・音楽監督と、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルデイ交響楽団の首席指揮者を務めている。中堅といったところだろう。N響にも何度か客演している。

 1曲目はグノーの歌劇『ファウスト』より「ワルツ」。コンサートの幕開けに相応しい、華やかな舞踏会のシーンが想起される名曲。オペラを観るよりは管弦楽曲として聴く機会の方が多いが、リストによるピアノ編曲版「ファウストのワルツ」の方が聴く機会は多いかもしれない。今日のN響の演奏は、以外にもカッチリとしたシンフォニックな印象が強く、クルクル回りながらワルツを踊るというよりは、行進曲のような推進力のある演奏。あくまでシンフォニー・コンサートのコンサート序曲だと言わんばかり。ちょっとお堅いイメージであった。

 2曲目は麻季さんが登場し、同じグノー歌劇『ロメオとジュリエット』から「私は夢に生きたい」。いつも華やかな麻季さんはそこにいるだけでパッと明るくなるスター性抜群の存在で、たとえN響といえども彼女の魅力の前には存在感が薄れてしまう・・・・。というよりは、N響はそもそもオペラをやらないので、歌手の伴奏には向いていないのだろう。麻季さんの方はお得意の曲であり、いつものように表情豊かに、コロラトゥーラの技巧も鮮やかに歌っているのに、N響の演奏はあくまで器楽的で、オペラというよりは協奏曲のような感じといったら分かってもらえるだろうか。

 3曲目は、マスカーニの歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』より間奏曲。管弦楽の小品としても名曲中の名曲。イタリアの音楽は、管弦楽であっても、器楽曲であっても、基本は「歌」なのだ。最前列で聴いていると、アクセルロッドさんの歌うような息遣いが聞こえてくる。N響の演奏は、演奏自体はとても緻密で厚みのアルアンサンブルを聴かせてくれるのだが、残念ながらやはり器楽的な印象が強く、あの切なくも美しい旋律があまり歌わないのである。

 4曲目は再び麻季さんが登場して、ベッリーニの歌劇『カプレーティ家とモンテッキ家』より「おお、いくたびか」。前奏をはじめとしてホルンがアリアとは別の旋律を大らかに歌い、ソプラノと美しい対比を作り出す。途中からハープが美しく分散和音を刻むと今度はフルートが歌手と競うように歌う。麻季さんは伸びやかな高音域が澄みきっていて、その清らかな情感は純真なジュリエッタそのもの。何度聴いても素敵だ。麻季さんのように経験も実績も豊富な歌手になると、物語性の表現や情感をたっぷりと込めるために緩急自在の歌い方をする。オペラでは何よりも歌手が第一でありそのの息遣いや歌唱を見ながら、指揮者も緩急自在に合わせていく。それにオーケストラが自発的に呼応していかないと、一体感が生まれないのである。麻季さんの歌唱はきわめてオペラ的な歌い方なのに、オーケストラがしっかりと拍子を刻むような演奏で・・・・あまり合っているとは思えなかった。

 5曲目は管弦楽のみで、プッチーニの「菊の花」。元は珍しい弦楽四重奏曲で、今日は弦楽合奏で演奏された。イタリアでは菊の花は悲しみを表すものなので、この曲もエレジー(悲歌)のように切なく悲しげ。アクセルロッドさんが半ば歌うように声にならない声を発して、オーケストラから悲しい情感を絞り出す。前半の曲目の中では、この曲が一番オーケストラが歌っていたように思う。

 再度麻季さんが登場して、お馴染みの、プッチーニの歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」。これはかなりゆったりしたテンポで、まったりとした歌い方だが情感はたっぷり。N響に伴奏をさせてサントリーホールで歌うとなれば、リサイタルのアンコールなどで気軽に歌うのとは訳が違うようで、優しさが込められてしっとりと聴かせる素敵な歌唱となった。

 前半の最後は、プッチーニの歌劇『ラ・ボエーム』より「私が町を歩くと(ムゼッタのワルツ)」。これもお馴染みの、麻季さんの十八番である。前奏が始まると、腰に手を当てたキメのポーズで、カルチエ・ラタンで派手に女の魅力を振りまくムゼッタのキャラクタに早変わり。先ほどのラウレッタの時とは瞳の輝きが違う。いつもにも増してノリが良く、まさに緩急自裁、自由奔放なムゼッタを歌わせたら、おそらく今の日本では麻季さん以上の人はいないと思う。麻季さんご自身のキャラクタとはもちろん全然違う訳だが、この短いアリアの中に押し込められている、ムゼッタの我が儘で奔放で男を振り回し、でもちょっぴり寂しがり屋で、本当はとても優しい・・・・そういった情感が見事に表現されている。美しい旋律と派手でドラマティックな曲の外面に囚われることのない素晴らしい解釈と表現である。Brava!!

 後半は、チャイコフスキーの「交響曲 第4番 ヘ短調 作品36」。やはり交響曲の演奏となれば、意気込みが違ってくるのか、音楽の濃度が一段と上がり、エネルギーが迸るようになる。さすがはN響・・・・といいたいところだが、聴いていてどうも感動が薄く感じてしまうのは何故だろう。もちろん演奏が悪いわけではないし、指揮者がダメということでもない。個人的な相性があまり良くないのであろう。
 チャイコフスキーの交響曲といえば、最近はこの4番ばかり聴いている巡り合わせ。とくに先月、チョン・ミョンフンさんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏を、「東京オペラシティ定期シリーズ」「フェスタサマーミューザKAWASAKI 2016」で2回続けて聴いたばかりなので、気持ちの上ではどうしても比較してしまうことになる。
 第1楽章は金管が吠え、荘厳な雰囲気で始まる。ソナタ形式の主部に入ると木管と弦楽がアンサンブルを重ねて行き、オーケストラ全体に広まり盛り上がって行く。私の席からだと第1ヴァイオリンがどうしても強く聞こえてしまうのは仕方のないところだ。アクセルロッドさんが全身で力みながら、懸命に熱くオーケストラを歌わせようとしているのがわかるのだが、N響側はけっこうクールな感じで、リズム感も旋律の歌わせ方も、これがスコア通りの演奏だと言われればその通りなのだろうが、指揮者の思惑とはちょっと違っているように見えた。
 第2楽章は緩徐楽章。息の長いメランコリックな主題をオーボエが、そして弦に引き継がれて綴られていく。まさに綴られていくといった感じで、淡々と粛々と流れていく。演奏が平板なわけではなく、スコア通りに正確なアンサンブルが積み上げられていくのだが、どうも旋律から情感が伝わってこない。「仏作って魂入れず」という印象なのだ。これがチョン・ミョンフンさん+東京フィルと違うところだ。
 第3楽章のピツィカートはなかなか素晴らしい。ダイナミックレンジが広く、メリハリがあって表情がとても豊か。一糸乱れぬアンサンブルは見事で、リズム感が高揚し推進力もある。やはりN響は上手い。かえって中間部の木管が少々まったりと間延びしているように感じてしまった。
 第4楽章はに入って、ようやく魂に火が付いたように、音楽に生命力が漲ってきた。この楽章のような熱狂的な音楽は、それ自体が演奏家をも高揚させるチカラを持っているのかもしれない。打楽器のリズム感なども前のめり気味になって、推進力を焚き付けていく。N響は基本的に演奏技術は超一流にいって良く、上手いことは間違いなく上手いので、後は指揮者が如何にオーケストラを乗せるかだろう。その意味では、今日の演奏は、第4楽章に至ってようやく目が覚めたようだった。しかしながら、終わり良ければすべて良し、というわけでもなかろう。どうしても聴いている私としては不完全燃焼気味になってしまう。やしり相性が悪いのだろうか。

 アンコールはレスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲『シチリア舞曲』」。初めて聴く曲なので、何ともいいようが亡ない。悲しげな曲想の弦楽合奏のようだった。

 今日のスペシャル・コンサートは、全体としては不完全燃焼で、あまり面白味が感じられなかった。やはりN響のノリが良くないのが原因であろう。あるいは私の相性が良くないだけなのか・・・・。森麻季さんの歌唱はいつも通りの出来映えだったと思うが、伴奏の方に歌心が感じられず、ちょっとピントがズレた感じ。N響バックにサントリーホールで歌ったのに、何だかもったいないような気がした。後半のチャイコフスキーは・・・・。演奏は上手いんだけどなぁ。

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