Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/16(土)東京ニューシティ管定期/ふたりのB、そして川久保賜紀の《繊細》コルンゴルトVn協奏曲

2015年05月16日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京ニューシティ管弦楽団/第99回定期演奏会
~ふたりのBシリーズ 第1回~


2015年5月16日(土)14:00~ 東京芸術劇場コンサートホール A席 1階 A列 19番 5,000円
指 揮: 曽我大介
チヴァイオリン: 川久保賜紀*
管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン: バレエ音楽「プロメテウスの創造物」作品43から
        1.序曲 2.嵐 3.パストラーレ 4.フィナーレ
コルンゴルト: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35*
《アンコール》
 マスネ: タイスの瞑想曲(ヴァイオリンとハープ版)*
ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 作品68

 今期から東京ニューシティ管弦楽団の定期会員になった。とはいっても定期演奏会は年間6回だけなのでそれほど負担になるわけではない。東京芸術劇場コンサートホール/奇数月開催/土曜日午後2時開演が基本的なスタイルとなっている。今期(2015/2016)はすべての公演がソリストを迎えてのもので面白そうだったし、最前列のセンター席が取れるというので、思い切って年間定期会員になってしまった。当然割り引きもあるので、懐にも優しい。このオーケストラの定期演奏会を聴いたのは今年2015年1月の公演が初めてだったのだが、その際の演奏が想像していたのより遥かに素晴らしかったので、年間を通して聴いてみるのも面白そうだと感じた次第である。それとは別の意味で本音を言ってしまえば、今日の公演には川久保賜紀さんがゲストで出演するので、最前列で聴くという以外の選択肢がなかった・・・・ということでもある。

 今日の定期演奏会(通算第99回なのだそうだ)は「ふたりのB」がテーマに掲げられている。ここでいうBとはベートーヴェンとブラームスのことで、今期6回のうち4回の公演で「ふたりのB」がシリーズ展開される。その主旨はベートーヴェンの序曲とブラームスの交響曲を組み合わせるというもので、間に挟む協奏曲は自由な選択となる。というわけで、第1回の今日は、ベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」から4曲とブラームスの交響曲第1番という組み合わせで、間に入る協奏曲がコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲。ソリストが賜紀さんというわけだ。
 日本のクラシック音楽界ではまだまだコルンゴルトの知名度は低く、コンサートで採り上げられる曲もごく少ないが、その中で最も知られ演奏頻度の高いのがヴァイオリン協奏曲である(というか他の曲が演奏されたのを聴いたことがない。昨年2014年3月に新国立劇場でオペラ『死の都』が上演されたが、あいにくと諸事情があって見に行くことができなかった)。ヴァイオリン好きの私にとっては、このヴァイオリン協奏曲はけっこう以前から好きな曲のひとつであったこともあり、聴く機会にも恵まれていたようである。2010年11月/読売日本交響楽団+ヴィヴィアン・ハーグナーさん2012年2月/東京交響楽団+神尾真由子さん2014年3月/読売日本交響楽団+パク・ヘユンさん2014年5月/日本フィルハーモニー交響楽団+小林美樹さん、などけっこう聴いているのである。

 演奏の前にオーケストラの配置についても触れておこう。どういう主旨かは不明だが、オーケストラ全体がかなりステージの奥まった位置に置かれていた。ステージ全面の端から指揮台までが5メートルくらいは奥にある。弦楽は第1ヴァイオリンの対向にヴィオラを置くものの、コントラバスを最後列に横一列に並べるタイプ。従ってティンパニは左奥となり、コルンゴルトで使用するハープは右奥に配置されていた。コンサートホールは今日はオルガンを使用しないため反響板を出してあるので、その効果を活かすための配置であろうか。その結果、最前列からも距離が離れているため木管も金管もよく聞こえる。その代わり、コントラバスとティンパニがちょっとこもったような音に感じられた。

 さて1曲目。一人目のBはベートーヴェン。バレエ音楽「プロメテウスの創造物である。この曲は序曲はしばしばコンサートで採り上げられるが、全曲を聴いたことなどもちろんない。今日のように4曲が採り上げられるというのも、かなり珍しいのではないだろうか。若き日のベートーヴェンの出世作だという。
 「序曲」が始まると、曽我大介さんの指揮は、東京ニューシティ管からかなり質感の高い演奏を引き出している。リズム感にキレがあり、弦楽も縦の線をキッチリ揃えて引き締まっているし、木管群も躍動的だ。最前列の弱みで、ティンパニの音が地響きのように大きめに聞こえて来舞うのはやむを得ないところだ。切れ目なく「嵐」に移行し、交響曲「田園」の第4楽章に似た曲想で、ティンパニが轟く。「パストラーレ」は文字通り「田園」に似た標題的な音楽。オーボエが牧歌的に美しく歌っていた。「フィナーレ」は交響曲「英雄」の第4楽章と同じ主題を扱っている。第1ヴァイオリンの奏でる主題が澄んだ音色で清冽なイメージを作っている。明るい音色のトランペットがリズムを刻み、古典的な佇まいを見せる。テンポの上がる終盤はドラマティックな盛り上がりを見せ、なかなか素晴らしい演奏だと思った。

 2曲目はコルンゴルト。賜紀さんのソロは譜面を見ながらの演奏であった。戦前のハリウッド映画の映画音楽の主題が使われているといっても、私たちの世代では実際には知る由もないが、何となく雰囲気は伝わって来る音楽である。
 第1楽章は自由なソナタ形式。いきなり主題をソロのヴァイオリンが艶めかしく歌わせて行く。賜紀さんのヴァイオリンは、協奏曲であっても強く我を主張するような弾き方ではなく、オーケストラに融合させるようなスタンスの置き方だが、音量は大きくなくても音質の鮮やかさでオーケストラから浮き上がってくる。弱音時のニュアンスなどは、白黒のメロドラマを思わせる。純音楽として捉えてみれば、これぞロマン派の生き残りといった雰囲気が濃厚で、ヴァイオリンのすすり泣くような歌わせ方や、訴えかけるような感情表現が見事だ。重音奏法を駆使した多声的なカデンツァは、技巧的な面を見せると同時に、伸びのある高音部がとくに色っぽく、エレガントさを失わないのはいつもの賜紀さん流であった。
 第2楽章は緩徐楽章の「ロマンス」。たっぶりと抒情的に、自由度の高い弾き方ででヴァイオリンが歌う。もうここでは技巧云々ではなく、息の長いロマンティックな主題が豊かな音楽性で描かれて行く。大きなコンサートホールの協奏曲でこれほど美しい弱音を聴かせていただくことはあまりないだろう。もっと強く弾けばより協奏曲風になるのだろうが、曽我さんもオーケストラをかなり抑制的にコントロールし、賜紀さんの弱音の繊細なニュアンスの表現が活きるようにサポートしていた。
 第3楽章は、自由な変奏曲形式またはロンド風。ソロのヴァイオリンがほとんど途切れることなく、主題も経過的なフレーズも続いていく。3つの楽章の中ではもっとも技巧的な演奏が要求される楽章だ。主題が変奏される毎に装飾的なパッセージが増えていく。終盤はパワーを増したオーケストラと競い合うようにソロ・ヴァイオリンも力感が増し、技巧的な面を見せてくれた。
 会場からは盛大なBravo!が飛んでいたし、演奏自体ももちろん素晴らしかった。何よりも賜紀さんのヴァイオリンが、ディテールまで非常に繊細なニュアンスを込めて描き出されていて、映画音楽が元になっているということを別にしても、抒情的な感情表現の細やかさが素晴らしかったといえる。
 この曲は名曲だとは思うがなかなか名演のない曲だ。そのまま演奏すれば数ある主題はみな美しいのでそれなりにキレイな曲に仕上がるが、どうしても「映画音楽だから」という色メガネを通して見られてしまう。純音楽として器楽的な解釈をするか、あくまで映画を意識して映像的・標題的に描くかは、演奏家にとっても難しいところだろう。今日の賜紀さんの演奏は、あくまで私見だが、楽曲を純音楽として捉え、スコアの中から、あるいはソロ・ヴァイオリンのパート譜の中から考え得る最良の音楽的な「美」を追求しているように思えた。間違いなく、これまで聴いた中でも最高の名演である(これも私見)。曽我さんのオーケストラ・ドライブも素晴らしかったし、東京ニューシティ管の演奏も上手い。

 賜紀さんのソロ・アンコールは、珍しいことにハープをステージ中央に移動してきた。ということは、「タイスの瞑想曲」である。目の前で演奏されるハープ(篠田恵里さん)の深みのある分散和音に乗せて、賜紀さんのヴァイオリンがたおやかに歌っていく。ここでも消え入るようなピアニッシモの美しさは格別で、彼女の繊細な表現力は余人には真似のできないものである。

 後半はブラームスの「交響曲第1番」。こちらの演奏もまたなかなか素晴らしいものだった。曽我さんの解釈はスタンダードなもので、目新しさは感じられないが、全体に落ち着きというか、風格があり、しかも豊かさが感じられる。テンポの採り方などにも硬さがなく、しなやかに旋律を歌わせるために剛直したイメージがない。楽曲の持つロマン主義的な自由な感情の発露を、ごく自然体で表現することができているようであった。
 第1楽章は、中庸よりやや遅めのテンポであろうか、堂々たる佇まいを見せる。オーケストラ側も実に素直な良い音を出していた。金管群が非常に安定しているし、木管群の質感の高い音色だ。弦楽の透明感も高い。一般的な意味で考えれば、オーケストラの演奏技術はかなり良い方に属すると思われる。曽我さんのスタンダードな指揮に対して素直に反応している。なお、主題提示部をスコア通りにリピートした。
 第2楽章は緩徐楽章。非常にロマンティックな曲想であり、表現力の難しい楽章であろう。弱音が続くため、弦楽はよいが管楽器の弱音演奏力が問われる形になるが、今日の東京ニューシティ管は、実にクオリティの高い演奏を聴かせてくれた。オーボエのソロやヴァイオリンのソロもしっとりとした音色で素晴らしい。終盤のホルンも安定して弱音を出していた。
 第3楽章は、クラリネットの牧歌的な音色が印象的。弦楽も透明度の高いアンサンブルを聴かせている。全体に力みがなく、とても素直で自然体の演奏だと思った。
 第4楽章は序奏部分からテンポを速めに採り、緊張感の高い演奏となった。アルペン・ホルンが鳴り響く部分は、ホルンが楽器本来の音をクリアに出していて艶やかで力感のある素晴らしい演奏を聴かせた。アルペン・ホルンのような牧歌的な雰囲気はあまりしなかったが、演奏自体はまったく問題はない。続く「歓喜の主題」は弦楽から管楽器、そして全体へと広がっていくプロセスでテンポが速まっていき、緊張感がグングン高まって行くあたりが素晴らしい。展開部から後は速めのテンポで緊張感を保ちつつ、剛直にならずにレガートを効かせたしなやかな展開が続いた。再現部からコーダにかけてもドラマティックに盛り上げながらも、早めのテンポによる推進力もあり、緊張感を高く保ち続けた素晴らしい演奏であった。
 会場に再びBravo!が飛び交った。確かに素晴らしい演奏だったと思う。この曲は、おそらくは東京の他の8つのオーケストラすべてで聴いているはずで、海外のオーケストラの公演でもよく演奏されるし、少々聴き飽きてもいるので今さら感動するというようなこともない。とはいうものの、今日の演奏は平均よりはかなり上の方に属すると感じた。曽我さんの解釈と指揮、東京ニューシティ管の演奏能力の高さがうまくマッチした結果だと思う。これなら会員になって引き続き聴きに行くのも楽しみである。

 4月末から来週にかけての1ヵ月間、とても忙しい日々が続いている。もちろん私生活や仕事の話ではなく、コンサートのスケジュールが詰まっているという意味だ。とにかくその最大の理由は、最優先アーティストである賜紀さんが来日中で、4月末から4回ものコンサートがある。同時期に優先順位第2位のアリス=紗良・オットさんも来日していて、こちらは2回コンサートがある。さらに優先順位第3位の小林沙羅さんも帰国していてコンサートあり、ラ・フォル・ジュルネに出演ありといった状況なのである。またその間に知り合いのコンサートもあり、新制作のオペラあり・・・・。しかもそのレビューのブログを書かなければならない。大好きなアーティストのレビューはどうしても長々と書くようになってしまい、時間もかかってしまう。さすがに毎日コンサートに行くわけにもいかないので、この1ヶ月はオーケストラの定期演奏会を全部キャンセルしてしまったという次第であった。

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