Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/15(月)ゴーティエ・カプソン&ユジャ・ワン/溌剌にして優美、瑞々しい色彩感溢れるラフマニノフ

2014年12月18日 14時42分04秒 | クラシックコンサート
ゴーティエ・カプソン&ユジャ・ワン《第1夜》

2014年12月15日(月)19:00~ トッパンホール S席 A列 14番 8,000円
チェロ: ゴーティエ・カプソン
ピアノ: ユジャ・ワン
【曲目】
ドビュッシー: チェロ・ソナタ
プロコフィエフ: チェロ・ソナタ ハ長調 作品119
ラフマニノフ: チェロ・ソナタ ト短調 作品19
《アンコール》
 ラフマニノフ: ヴォカリース

 昨年は聴き逃してしまったゴーティエ・カプソンさんとユジャ・ワンさんのデュオ。今年は2夜連続に拡大された。もちろん2夜とも曲目はまったく違う。昨年はコンサートが終わるとすぐに聴きに行った友人たちから「良かった!」「素晴らしい!!」などのメールが届き、非常に悔しい思いをしたものであった。トッパンホールの人気公演はチケットを取るだけでも大変なのだが、会員になっている友人のKさんにお願いして、取っていただいた最前列センター。ちょうどピアノの正面の位置なので、二人の演奏家が重なることなく見え(ユジャさんの足元も遮るものなく見える!)、音響的にもチェロとピアノのナマの音がダイレクトに、しかも均等に聞こえる、まさにプラチナ・チケットなのである。Kさんには感謝・感謝である。

 二人の演奏家については多くを語る必要はないだろう。チェロのゴーティエさんはヴァイオリンのルノー・カプソンさんの弟で、1981年生まれの33歳。ソリストとして世界中でリサイタルを成功させ、著名な音楽祭に呼ばれ、世界各国の一流オーケストラと共演するなど、誰もが知っている一級のチェリストである。そしてまた、憎たらしいくらいカッコイイ超イケメンで、絵になる人だ。一方のユジャさんは1987年生まれの27歳。圧倒的な超絶技巧による高い音楽性と過激な衣装で世界中のクラシック音楽ファンを魅了し続けている超売れっ子のピアニストだ。そんな二人がガチンコで組むデュオは、1+1が3にも4にもなる可能性があり、またどんな化学反応が起こるのか、興味は尽きない。

 1曲目はドビュッシーの「チェロ・ソナタ」。あまり馴染みのない曲だ。正直に言えば、チェロの音楽についてはあまり詳しい方ではないので、この曲も滅多に聴くことはない。おそらくナマで聴くのは初めてかもしれない。曲は3楽章構成だが、全体でも10分強と短く、各楽章も形式の割りには自由度の高い、近代フランスものの感性に溢れている。
 曲の冒頭、ピアノの序奏に続いてチェロが鳴り出すと、これは! 何と鮮やかな音楽なのだろうか。ゴーティエさんのチェロは、バリトンというよりはテノールのような華やかさと、極めて色彩感の豊かな、多彩な音色を持ちつつ、ピリッと引き締まっていて、隙がない。再弱音の繊細さも見事なら、強奏時もガツンと来る力感は漲っているのに荒々しさがない。洗練されているのにアグレッシブ。とにかくカッコイイ演奏で、見た目の印象そのままだ。
 一方、ユジャさんのピアノは、もちろん彼女としては明らかに抑制的であり、あくまで室内楽の領域にギリギリ留まってはいるが、そのひとつひとつの音に輝きがあり、跳ね回るような音がキラキラと飛びだしてくる。超絶技巧を生み出す指先のタッチの鋭さが、彼女特有の輝きのある音色を創り出すのであろう。チェロとの掛け合いも、出たり引いたり目まぐるしく変化する。あたかも即興演奏であるかのような、ヒラメキと自由度を感じさせる、そんなタイプの演奏なのである。

 2曲目はプロコフィエフの「チェロ・ソナタ ハ長調」。こちらも3楽章構成だが、古典的な構成とはやや違い、第1楽章がソナタ形式の緩徐楽章(?)、第2楽章はスケルツォで、第3楽章がアレグロのフィナーレとなっている。全体で25分ほどの大曲である。プロコフィエフの晩年に当たる1949年の作。初演したのがムスティスラフ・ロストロポーヴィチとスヴャトスラフ・リヒテルということなので、彼らの演奏を知っている世代の音楽ファンにとってはかなり身近に感じる時代の作品ということになる。
 第1楽章はチェロのソロで重厚に始まり、ピアノが絡んでくると抒情的な主題に移っていく。ゴーティエさんのチェロは重くなりすぎずに、基本的に明瞭な音質が不思議な色彩感を描き出す。第2主題はよりロマンテッィクな美しい旋律だが、チェロとピアノが交互に歌う。テンポが速くなっていく展開部に入ると、二人の描き出す音楽は、瑞々しさを増し、活き活きとした生命力を感じさせる。ゆっくりと表情豊かに歌うチェロと、抑制的だがキラキラと煌めくピアノが対照的でもあり、よく溶け合ってもいて、抒情的な音楽を描き出していた。
 第2楽章はスケルツォだがModeratoなので、実際に踊り出せそうな躍動感に満ちている。基本的に陽性なゴーティエさんのチェロと、ハギレ良く弾むユジャさんのピアノが、軽快にステップを踏むように踊る。トリオ部の美しくも感傷的な主題は、主にチェロの高音部が多用され、明るめの色彩感がより一層抒情性をかき立てているようだ。
 第3楽章はソナタ形式のフィナーレで、軽やかな第1主題をチェロが提示すると、ピアノが弾むような軽快なタッチでフォローしていく。展開部には緩徐楽章のような抒情的な部分が挿入されていて、三部形式のような様相にもなっている。再現部は大きなうねりのような盛り上がりを創り出し、チェロもピアノも縦横に駆け巡る。ゴーティエさんのチェロは終始鮮やかな色彩感を見せ、表情は多彩で実に豊かである。それに対するユジャさんのピアノは抜群のリズム感で絡み合い、絶妙の距離感で、協奏しているようであった。

 後半はいよいよチェロ・ソナタの最高傑作ともいうべきラフマニノフ。この曲の最大の魅力は、ピアノ・パートが何よりも充実していることだろう。何しろ、ラフマニノフが自身で演奏して初演しているくらいだから、高度な技量がふんだんに盛り込まれた煌びやかなものであるし、また一層豊かな表現力が求められることになる。だから、優秀なチェリストが演奏曲目に選ぶと、ピアニストの力量が問われることになってしまうのである。ゴーティエさんにしてみれば、ユジャさんほど頼もしい存在は他にはいないだろう。楽曲は急-舞-緩-急の4楽章構成で、演奏時間は35分ほどの大作である。
 第1楽章は序奏に続いて、ソナタ形式の主部に入るとチェロが息の長い第1主題を抒情的な表情を付けて演奏していくのに対して、ピアノが鋭いタッチの和音の連打で追い込んでいく。その流れは緊迫感がありスリリングだ。ピアノにバトンタッチしての第2主題はユジャさんの微妙な弱音のニュアンスが素敵だ。展開部に入るとチェロとピアノが対等に渡り合い、確かに主役がどちらか判らないほどにピアノが技巧的に活躍する。ユジャさんのピアノは力強い重低音から煌めくような高音部まで、実に豊かな表情を見せ、しかもドラマティックに盛り上げていく。クライマックスのまま第1主題が回帰し、すぐに第2主題が再現され、そのまま第1主題のリズムをヒアノが叩き出しながらコーダへ。この辺りの展開は丁々発止のやりとりとなり、リズムで追い込んでいくピアノとあくまで旋律を歌わせようとするチェロが鮮やかな対比を見せつつ、ピタリとアンサンブルを合わせていた。
 第2楽章はスケルツォ。このスケルツォ主題の楽想は鋭く、強烈なリズムをチェロとピアノが刻む。キリッと立ち上がるピアノのアクセントが光彩を放つよう。一方のチェロは低音をゴリゴリと押し出す。中間部に訪れる優美で抒情的な主題はチェロが大らかに歌い、ピアノがいかにもラフマニノフという甘い分散和音で支えていく。ユジャさんが女性的な優しい音色を聴かせるのもちょっと意外だ。スケルツォ主題が戻ってくれば、色彩感が鮮やかに転換する。その辺りの対比が見事で、このような表現力の幅広さもお二人の超絶技巧のなせる技だろう。
 第3楽章は緩徐楽章。まずピアノが感傷的な主題を透明感のある音色で歌わせると、チェロが穏やかに歌い出す。ある種のけだるさを漂わせる甘美な音楽はラフマニノフの真骨頂だが、ストイックともいえるほど極めて抑制的に、ユジャさんのヒアノが感情を内に秘めたように、美しく紡いでいく。本当はそうではないのかもしれないが、この楽章はあたかもチェロ(男性)とピアノ(女性)の濃密な対話のようであった。甘美な余韻が漂っているようだ。
 第4楽章はフィナーレ。躍動的な第1主題はあたかもチェロ協奏曲といった雰囲気で、ピアノがオーケストラのように多彩で厚みがある。二人の重みが対等で、スケール大きな音楽を創り出していく。そして浪漫的な息の長い第2主題はチェロを主役にピアノが伴奏のようにさっと引いていくがキラキラした輝きは失わない。展開部はピアノとチェロが技巧と表現力を駆使して、丁々発止とやり合うように対話していく。そこでは実に多彩な色彩感と魂の躍動のようなダイナミックな音楽が展開した。そのまま再現部では第1主題がダイナミックな躍動感を伴って、第2主題が抒情性たっぷりに再現されていくが、ユジャさんのピアノが一段と力感を増して、光り輝いていたように思う。テンポを上げたコーダは、駆け抜けるような劇的な仕上がり。素晴らしい演奏であった。
 このラフマニノフのソナタは、ゴーティエさんとユジャさんの良いところだけが存分に発揮された素晴らしい名演だったと思う。ラフマニノフのロシア的な憂愁とロマンティシズムだとか、土臭い野太さだとか、そういった既成概念で判断すればまた違った評価も生まれてくるかもしれないが、今日の演奏はそのような要素を払拭してしまうくらいの、掛け値なしの素晴らしい演奏。若さと生命力に溢れ、若いが故の浪漫性や憧れといったものが、瑞々しく、迷いがなく描き出されていて、この二人にしかできない、色鮮やかな演奏であったことは確かで、間違いなくBravi!!であった。
 
 アンコールは1曲。ラフマニノフの「ヴォカリース」。立った今聴いたソナタの興奮を沈静化させるようなしっとりした演奏・・・・・には違いないが、やや速めのテンポで、美しくも清々しい「ヴォカリース」であった。

 終演後には恒例のサイン会があったが、あっという間にできた長い列を見て断念。早々に引き上げることにした。それにしても今日の演奏は素晴らしいもので、屈指の名演だったといえる。とくに、今考え得るに最高の若手奏者二人によるラフマニノフのソナタはトップ・グレードだ。歴史的な名演だといったら大袈裟かもしれないが、トッパンホール408名空席なしのこの会場で聴くことができた人は幸せだ。今回はテレビ収録も、おそらくFM等の録音もさせていないと思われるので、音楽の1回性が貴重な生み出す貴重な時間に立ち会うことができて、本当に良かったと思った。

 ところで、これまで敢えて触れなかったのだが、ユジャさんといえば、その「過激な衣装」も欠かせない話題。最後に衣装についてまとめておこう。
 前半は黒の上下セパレーツ・ドレス。さすがにヘソ出しまではいかなかったが、お腹は丸出しで、キュッと引き締まったウェストに、腹筋がキレイに割れているアスリート体型。下はロングスカートには違いないが、いつものミニのラインから下は黒のレースになっていて、美脚が透けて見えるのである。その裾から覗くのは、10cm以上はあろうかというピン・ヒール。
 後半は明るい紺色のロング・ドレス。胸元は深くV字に切れ込み、スカートの右側には太腿までの深いスリット入り。これが演奏しているうちにだんだんめくれて来て・・・・。いやいや、セクシーなことこの上ない。右足はペダルに固定されているが、時折左足を後ろに引くときがあり、・・・うぅ。最前列では視線が釘付けになってしまう。
 こんな破天荒ぶりのユジャさんだが、あっけらかんとしたキャラとは別に音楽に取り組む姿勢は超一級の本物で、演奏している時の表情は真剣そのもの。鋭い視線で楽譜を睨み、自ら口ずさみながら超絶技巧をサラリとこなす。いやいや、たいしたものである。

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【お勧めCDのご紹介】
 今日の演奏とは直接関係はありませんが、ユジャ・ワンさんがラフマニノフとプロコフィエフのピアノ協奏曲を演奏しているライブ録音のCDです。グルベローヴァターボ・ドゥダメルさんの指揮、ベネズエラのシモン・ボリバル交響楽団の演奏です。若い二人の天才が出会った驚異的なコンチェルト。聴く価値は絶対にあります。
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番
ワン(ユジャ),ラフマニノフ,プロコフィエフ,ドゥダメル(グスターボ),シモン・ボリバル交響楽団
ユニバーサル ミュージック


 一方コチラはゴーティエ・カプソンさんがチェロを弾き、ピアノをガブリエラ・モンテーロさんが弾いているCDアルバムで、今日演奏されたラフマニノフとプロコフィエフのチェロ・ソナタと、「ヴォカリース」も収録されています。
ラプソディ: ラフマニノフ&プロコフィエフ-チェロ・ソナタ
ラフマニノフ,プロコフィエフ,ゴーティエ・カピュソン,ガブリエラ・モンテーロ
EMIミュージック・ジャパン


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