Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/3(日)ウィーン交響楽団/次世代を担うフィリップ・ジョルダン/快速「運命」とオペラ的性格のブラームス1番の妙技

2017年12月03日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ウィーン交響楽団 2017年 日本公演
Wiener Symphoniker Japan tour 2017


2017年12月3日(日)14:00〜 サントリーホール S席2階 RB9列 2番(夢倶楽部会員無料招待)
指 揮:フィリップ・ジョルダン
管弦楽:ウィーン交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
ブラームス:交響曲 第1番 ハ短調 作品68
《アンコール》
 ブラームス:ハンガリー舞曲 第5番
 J.シュトラウスⅡ:トリッチ・トラッチ・ポルカ

 ウィーン交響楽団の来日公演を聴く。今回のツアーを率いて来たのは2014年から首席指揮者を務めているフィリップ・ジョルダンさんである。今、ヨーロッパの音楽シーンで話題の中心になりつつある指揮者の1人で、10年後、20年後には世界の巨匠の1人に数えられるようになっているに違いないと目されている。ジョルダンさんは、日本ではまだあまり知られていない存在だが、ヨーロッパにおいてはすでに相当なキャリアを積んでいる。
 特徴的なのは、彼はヨーロッパの古い伝統のを継承するカタチで登場したということ。つまり、国際的な指揮者コンクールで優勝して、シンフォニー指揮者としてのキャリアをスタートさせるという最近のスタイルではなく、伝統的な歌劇場のスタッフから上がってきた人なのである。ウルム市立劇場のカペルマイスターを皮切りに、ベルリン国立歌劇場ではバレンボイムのアシスタントから首席客演指揮者まで務め、グラーツ歌劇場の首席指揮者、パリ・オペラ座の音楽監督などを歴任していて、2020年のシーズンからはウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任する。その間に世界中の主だった歌劇場や音楽祭に客演しており、2012年にはバイロイトにもデビュー、今年2017年のバイロイトでは新演出の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を成功させ話題となった(NHK-BSプレミアムで放送された)。このようにオペラ畑でのキャリアは相当なものだ。
 一方、同じ期間中に、並行してシンフォニー指揮者としてもキャリアを重ね、ベルリン・フィルやウィーン・フィルをはじめとして世界の主要なオーケストラにも客演している。かのカラヤン氏が言ったように「オペラとシンフォニーはクラシック音楽の両輪である」という考え方がヨーロッパには伝統的にあり、「両方やる」指揮者ではなく、「両方できる」指揮者が求められる。ウィーンの音楽関係者や聴衆の人々が、国立歌劇場の将来を託すに値する人物として、ジョルダンさんを選んだということなのだ。

 そのジョルダンさんがウィーン響を率いてやって来る。私も彼についてはほとんど知らなかった。2008年のロイヤル・オペラでの『サロメ』のDVDを持っていたくらいである。彼の経歴について知った時期が遅く、今回の来日公演はすでに発売されていて良い席の確保は難しかったので、半ば諦めていたのだが、招聘元であるJapan Artaの夢倶楽部会員なので、年に1階の無料招待枠で聴きに行くことにした。本来ならタダになるがそれだと席が選べないため、友人を誘って1枚は有料で連番の席選びができる特権を利用して、意外に良いRB9列のホール側の席を取ることができた。ここなら、天井が近いとはいえ、ステージからの距離感も適度で、しかもステージが完全に見渡せるので、直接音を遮るものはない。サントリーホールの豊かな音響の中で、ウィーン響独特の優雅な響きを堪能出来そうである。

 さて、演奏の方だが、プログラムは至ってシンプル。前半がベートーヴェンの「運命」、後半がブラームスの「交響曲 第1番」。楽曲の性格も似ているし、ともにハ短調である。
 「運命」は予想していた通りの、快速バージョンである。もっとも誰でも知っているこの曲を、誰もが思い描くように普通に演奏するのなら、たとえばウィーン響の演奏能力があれば指揮者は不要であろう。だからかえって指揮者の能力が問われることになる。ジョルダンさんの「運命」は、確かに速い。しかもリズム感には前のめり気味の疾走感がある。従って、タメとか間合いとかいった要素はほとんどなく、ひたすら前へ前へと突き進む。あたかも急いだ方が歓喜への道のりが近づくかのように。だがそこに漲る生命力が、第1楽章からヒシヒシと伝わって来る。
 第1楽章は高速なテンポで突き進む。ウィーン響の音は弦楽がマイルドなウィーン風に聞こえるが、ハ短調の「運命」ではあまり優雅には響かない。むしろティンパニの刻む激しいリズム感と金管にウィーンっぽい響きが感じられた。ダイナミックレンジが広く、抑揚が強いためか、速いテンポでも単調にはならず、非常に生き生きとした演奏だ。
 第2楽章は緩徐楽章だが、テンポとしてはかなり速い方になるだろう。だがそこには微妙にテンポを揺らせ、主題をしなやかに歌わせる独特の感性があるようだ。トランペットの晴れやかな歌わせ方などに、ナルホドね、と思わせる説得力がある。
 第3楽章はスケルツォ。ここも速い。運命動機を打ち出すホルンは割れ気味の音で優雅さを吹き飛ばす。中間部の低弦から始まるフガートはかなり高速だが音量は比較的抑制されていて、内面的な焦燥感を描いているような感じ。第4楽章へ向けての準備だろうか。
 弱音のスケルツォから一気にエネルギーが爆発するように続く第4楽章はハ長調。第1主題のトランペットの明るい音色が弾むようだ。弦楽が急に輝くような明るいアンサンブルに変化し、推進力と躍動感が漲るようになる。これはテンポが速く、ダイナミックレンジが広いため、実に生き生きと聞こえるのだ。主題提示部のリピートはなく、一気に展開部へなだれ込んでいった。再現部のトランペットはより一層輝きを増し、弦楽の明るい響きをトロンボーンが後押しする。第2主題は弾み返るように生命力に溢れる。コーダに入ると一層テンポ感が上がり、音楽自体にエネルギー漲り、明るく輝き出す。ドラマティックな演奏では決してなく、瑞々しい感性が一気に迸るような演奏。ナルホド、「運命」に新しい息吹を吹き込んだ、素晴らしい演奏だと思う。

 後半はブラームスの「交響曲第1番」。これまで何度聴いたか分からないくらいの名曲だが、今日は珍しい、ちょっと変わった演奏を聴かせてもらった。もちろん、良い意味であり、素晴らしい演奏だったのは間違いない。
 第1楽章。序奏はけっこうゆったりとしたテンポで始まり、劇的に盛り上げて行く。ソナタ形式の主部に入るとテンポは中庸、やや早めといったところか。そしてこの辺りからジョルダンさんの独特の節回しが始まる。二つの主題だけでなく、経過句にも様々な旋律が表れるが、そりらのフレージングがひとつひとつ丁寧に抑揚が付けられて歌われていく。流れがとてもしなやかで、どちらかといえばゴツゴツした印象の強いこの楽章が歌うようなイメージに仕上げられているのである。気が付くと再現部辺りではテンポが速くなっているようで、流れの作り方が巧みで、それでいて旋律をうまく歌わせる。本来器楽的であるはずの交響曲なのに、オペラの香りを感じるのは、フレージングのしなやかさに理由があるのだろう。
 第2楽章の緩徐楽章に入ると、その雰囲気は一層強くなる。非常に感傷的・抒情的で美しい主題の楽章だが、弦楽も木管もよく歌う。あたかも呼吸しながらオペラの合唱団がピアニッシモで歌うように、音楽に息遣いが感じられるのである。テンポ自体は早めなのに、歌うようなリズム感があるので、あたかもオペラを聴いているような情感・情景が描かれているような錯覚に陥るのである。
 第3楽章はスケルツォではなく、ブラームス独特の間奏曲風の作り。ここでもテンポはやや速めだが、旋律がよく歌う。器楽的な曲想の中に、歌謡的な息遣いが埋め込まれていて、聴いていても心にすーっと入って来る自然な趣がある。
 第4楽章。重々しい序奏もジョルダンさんの手にかかると、妙にフレッシュな感じがする。アルペンホルンの響きはさすがに山国オーストリアならではの優雅で穏やかなものだ。この辺りのオーケストラのサウンドは、日本のオーケストラも手本にしてみては如何だろうか。続いて主部に入り歓喜の主題が出てくると、ウィーン風の優雅な雰囲気はまるでシューベルトのよう。それがグンと盛り上がるとテンポも速めになり生命力が漲るようになる。一般的には、この楽章もブラームスであるが故、内省的・哲学的に、ドイツ的な渋めの演奏が好まれる傾向が強いと思われるが、今日の演奏はそうした価値観を一掃してしまう。ウィーン風の優雅なサウンドと、オペラ的な歌謡的表現。瑞々しく清新な情感。劇的ではあるけれど、大袈裟でわざとらしいものではなく、自然体で内側から滲み出てくるような音楽性といえば良いだろうか。こんなブラームスは初めて。もちろん、Bravo!!である。

 アンコールは2曲。まずは思いっきり定番の「ハンガリー舞曲第5番」。ブラームスつながりで選曲されたのだろう。こちらも速めのテンポ。あまりテンポを揺らしてロマの雰囲気を強調するような感じではなく、わりとサラリと流している。ウィーン風ということだろうか。
 2曲目はヨハン・シュトラウスⅡの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」。こちらはオーケストラの方が本領発揮というわけで、ジョルダンさんはあまりやることがなさそう。オーケストラが勝手に演奏すれば、いやでもウィーン風になる。優雅で、洒脱で、陽気である。さすが、お見事。

 終演後は、恒例のサイン会があった。会場ではジョルダンさんとウィーン響によるベートーヴェンの交響曲のCDが会場のみの先行発売されていた。本国ではツィクルスがライブ録音され、ウィーン響としては初のベートーヴェンの交響曲全集となるらしい。先行で発売されたのは日本ツアー仕様の2枚組で、ブックレットも何も付いていない。交響曲の1番、3番、4番、5番が収録されている。正式な発売は来年2018年の春になるらしい。とりあえずこのCDを購入したものの、サイン会にはかなり大勢の人が並んだため、サインは1人1点のみということになった。そこでCDではなく、プログラムのカラーページにサインをいただいた。
 ジョルダンさんは2020年からウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任する。彼はスイスの出身だが、オペラはドイツものとフランスものを得意としているそうだ。今度来日する時は、是非ともウィーン国立歌劇場の引っ越し公演を率いて来てほしい。ワーグナーは苦手だが、リヒャルト・シュトラウスなどを聴いてみたいものだ。



 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

【お勧めDVDのご紹介】
 本文で紹介したフィリップ・ジョルダン指揮/ウィーン交響楽団によるベートーヴェンの交響曲(全集)のCDはまだ発売の予定にもなっていないので、Amazonでも予約受付もできません。そこでジョルダンさんのベートーヴェンを聴くにはコチラ、パリ・オペラ座管弦楽団とのライブを収録した映像ものの「交響曲全集」をご紹介します。4枚組のBoxで、DVD版とブルーレイ版が発売されています。私はブルーレイ版を持っています。

ベートーヴェン:交響曲全集[DVD4枚組,日本語字幕]
フィリップ・ジョルダン,パリ・オペラ座管弦楽団
ARTHAUS



★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓







コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12/2(土)長谷川陽子・チェロの... | トップ | 12/4(月)読響アンサンブル・シ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事