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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/16(木)読響メトロポリタン/チャイコ・プロ/宮田大の明晰な「ロココ」とコバケン節炸裂の「交響曲第5番」

2015年04月22日 01時44分43秒 | クラシックコンサート
第15回 読響メトロポリタン・シリーズ

2015年4月16日(木)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 16番 4,312円(年間会員券)
指 揮: 小林研一郎
チェロ: 宮田 大*
管弦楽: 読売日本交響楽団
【曲目】
チャイコフスキー: 歌劇『エフゲニー・オネーギン』より「ポロネーズ」
チャイコフスキー: ロココ風の主題による変奏曲 イ長調 作品33*
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009 より第5曲「Bourree I-II」*
チャイコフスキー: 交響曲 第5番 ホ短調 作品64

 読売日本交響楽団の「読響メトロポリタン・シリーズ」も今回から3年目のシーズンを迎えた。今期(2015年4月~2016年3月)の8回の公演は、12月の「第九」を除くすべてに協奏曲がプログラムされていて、人気・実力ともに素晴らしいソリスト陣を予定しているので、ひとつとして休めそうもない。どうやら読響の2015/2016シーズンは芸劇が中心になりそうである。実際に、会場はほぼ満席。よく入っていた。
 その今期第1回(通算では第15回)は、ソリストにチェロの宮田 大さんを招いて、特別客演指揮者である巨匠・小林研一郎さんによるオール・チャイコフスキー・プログラム。題して「炎のチャイコフスキー」。チラシのデザインまでボーボーと炎が燃えさかっているが、よく考えたらチャイコフスキーの音楽は「燃える」ようなものではないのでは? まあ、コバケンさんの演奏ほど予想しやすいものはないので、言いたいことは分からないでもないが、「炎のチャイコフスキー」というのはどうも・・・・。

 1曲目は『エフゲニー・オネーギン』より「ポロネーズ」。お馴染みの曲だが、いきなりコバケン節が炸裂した。テンポはこの曲にしてはかなり遅い方で、オーケストラを十分に鳴らしての堂々たる行進曲風。金管が派手な音色で鳴らせば、弦楽は分厚いアンサンブルで応え、打楽器は地響きを立てる。タメをたっぷりととって、かなり大袈裟に盛り上げて行く。重々しくドラマティックな仕上がりだ。チャイコフスキーは自国のロシア以上にヨーロッパに憧れを抱いていて、だからこそ「ポロネーズ」なのだが、この演奏はコバケンさんならではの解釈によるロシア風。いややはりコバケン風いう方が正しいだろう。

 2曲目は「ロココ風の主題による変奏曲」。宮田さんの登場である。今日の席は最前列のソリスト正面。芸劇はステージが高くないので、本当に宮田さんの演奏をわずか3メートルくらいの真正面で聴くことになった。これはもう、最高の贅沢だといえる。
 小編成のオーケストラによる序奏に続いて、チェロが主題を提示する。何て明るく伸びやかな音色だろう。耳を澄ませば宮田さんの息遣いまで聞こえる距離感で、この美しくも豊かなチェロの音を真正面から受け止める。これほどの喜びがあるだろうか。
 変奏が続いていくと、宮田さんのチェロが一層豊かさを増して歌う。低音部もガリガリとした音は出さずに、潤いのある深い音を出し、中音域では明るく大らかな音色が素晴らしい。高音域や技巧的な部分も、正確な音程と均質な音質が保たれていて、抜群の安定感。そして微妙なニュアンスを込めた旋律の歌い回し、その解釈と表現の自然で豊かなこと。素晴らしい演奏である。同時にコバケンさんがオーケストラ側を抑え気味にコントロールして、うまくサポートしてくれているのもとても素敵だ。ここではコバケン節は影を潜め、あくまで宮田さんのチェロの魅力を前面に押し出した見事な演奏だったと思う。なお、今日演奏されたのは、第8変奏が削除された「フィッツェンハーゲン版」である。

 宮田さんのソロ・アンコールは、J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲 第3番から「ブーレ」。基本的な艶のある明るい音色の演奏で、この曲を春の宵に相応しい、暖かい演奏であった。

 後半はコバケンさんの十八番、チャイコフスキーの「交響曲第5番」である。もう何度も聴いているので、すっかり慣れているとはいえ、やはり濃厚なコバケン節で、今日は一段とノリが良かったようである。馬力があり、爆発的な音量をぶちかますことのできる読響での「チャイ5」は、コバケンさんにとっても最高に気分が良かったのではないだろうか。
 第1楽章、例の「運命の動機」を提示する序奏の部分から、遅めのテンポで波打つような濃厚なフレージング。主部に入り、第1主題提示から最初の盛り上がりで、すでにエンジン全開モードに。はやくもコバケンさんのうなり声が瞬発力のある読響の全合奏の最中にも聞こえてくる。これは最前列ならではのことだ。第2主題は弦楽のアンサンブルを美しく聴かせるが、のたうつような濃厚なロマンティシズムとうなり声が、何ともいえない独特の雰囲気を創り出している。全体的には遅めだが、その中でも刹那的に揺れるテンポと間合いの変化が、やり過ぎなくらいに濃厚なニュアンスを生み出している。まさにコバケン節全開である。読響の演奏も実に活き活きとしていて、豊潤な音色と音量、そしてかなりメリハリを効かせるダイナミックレンジの広さであった。
 第2楽章は緩徐楽章。序奏は弦楽を分厚く鳴らし、重々しく響かせる。そして、有名なホルンの主題は、今までの読響からは想像がつかないような、まろやかな弱音で、遠くから風に乗って聞こえてくる牧童の角笛のような佇まい。ホルンに新しい人が入ったようである。主題がオーケストラに広がっていっても、ここでも遅めのテンポで旋律を大きく歌わせ、劇的に仕上げて行くのは、コバケンさんの醍醐味である。1小節1小節、1音1音毎に、こまやかな表情で描かれていくのは、さすがに十八番。この解釈は奥が深い。
 第3楽章はワルツ。やはりヨーロッパへの憧れが込められたワルツではあるが、その意図とは別に、コバケンさんの手にかかると優雅さよりは、無骨で土臭いロシア風に戻されてしまう。ここでもテンポは遅め。間合いの深さも濃厚なロマンティシズムの表れといったところだ。
 第3楽章の終わりに現れる「運命の動機」が長調に転じる第4楽章。冒頭からうなり声も全開で、今日は本当にノッているようだ。もちろんここでもテンポは遅め。しかし間延びしたりだらけたりしないところがコバケンさんのスゴイところで、独特の緊張感ほ保ちながら、ゆっくり堂々と曲が進んでいくのである。そして展開部ではテンポを上げでグイグイと追い込むように盛り上げて行く。この辺の流れの上手さ、劇的な音楽創りはさすがのものである。再現部の追い込みも鋭い。そしてコーダ。「運命の動機」が高らかに鳴り響き、コバケンさんのうなり声も絶好調。指揮棒を点に向かって高く突き上げ、なかば客席の方を向いて天を仰ぎ、もはや動かない。それでも音楽は実に堂々としたフィナーレを形作っていくのである。ダ・ダ・ダ・ダーン、と最後の音が打ち鳴らされるや会場のあちこちからBravo!!の叫び声が飛んだ。かなりフライング気味だが今日は許せる。コバケンさんの音楽のノリは聴衆を熱狂させる気迫に満ちていて、喝采せずにはいられなくなるのだ。・・・・まあ、好き嫌いはあるだろうが。初めてコバケンさんの「チャイ5」を聴いたという友人はのけぞっていた・・・・。

 なお、今日のコンサートマスターは長原幸太さん、トップサイドは伝田正秀さん、第2ヴァイオリンの首席はテスト期間を経て1月から正式団員となった瀧村依里さん、と若手が並び、チェロの首席にはゲストの遠藤真理さんが乗っていた。また、ホルンの首席も4月から入団したばかりの日橋辰朗(にっぱしたつお)さんである。どうりで・・・・。馬力のある読響サウンドに、フレッシュな風が吹いて来たようであった。

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