Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/16(土)須関裕子ビアノ・リサイタル/小さなサロンで聴く者と「共感」する優しさ/「月光」「献呈」「ラ・カンパネッラ」など

2018年06月16日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
須関裕子 ピアノ・リサイタル

2018年6月16日(土)14:30〜 ソフィアザール・サロン 自由席 1列正面 3,000円(ご招待)
ピアノ:須関裕子
【曲目】
モーツァルト:ロンド ニ長調 K.485
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27-2「月光」
シューマン:ノヴェレッテ 第1番 ヘ長調
シューマン/リスト編:献呈
リスト:パガニーニの主題による大練習曲 第3番「ラ・カンパネッラ」
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 作品60
ドビュッシー:ベルガマスク組曲
      「前奏曲」「メヌエット」「月の光」「パスピエ」
ドビュッシー:前奏曲集 第1巻より「亜麻色の髪の乙女」
ドビュッシー:喜びの島
《アンコール》
 ドビュッシー:アラベスク 第1番 ホ長調

 最近多方面に活躍しているビアニスト、須関裕子さんのリサイタルを聴く。今回はいわゆるサロン・コンサートの形式で、会場は東京・駒込にあるソフィアザール・サロン。一般住宅の2階に設けられた50名で満杯となるサロンである。ここでのサロン・コンサート・シリーズでは、須関さんは何度も出演していて、すっかりお馴染みになっている。
 ご存じのように、須関さんは主に弦楽器奏者との共演においては今や絶対的とも言える信頼を得ているピアニストである。その分野ではすでにトップクラスの人気ぶりで、チェロ、ヴァイオリン、そしてヴィオラ奏者との共演や室内楽でのオファーも多い。もちろん他にも協奏曲でのオーケストラとの共演や、今回のようなソロ活動も続けている。
 そんな須関さんがソロのCDをリリースした(2018年2月24日付)ことをきっかけに、収録曲を含めたリサイタルを各地が行っているという次第である。本日のリサイタルも前々から予定表には書き込んであって、ご本人に申し込んだところ招待していただくことになってしまい大変恐縮している。この場でもお礼を申し上げたい。
 南の海から台風が近づいているとのことで、天候が心配であったが、何とか持ち直して雨も上がり、この季節にしてはまったく暑くない陽気の中、早めに行って自由席の列に並んだ。5番目くらいであったので、予定通りにピアノの正面の席を取ることができた。小さなサロンの場合、ピアノの目の前の席はかなり騒々しく感じられるのが普通だが、このソフィアザール・サロンは3階部分に吹き抜けの天井が高く、ピアノのサイズも適切でしかもキチンと調律されているので極めて音が良く聴きやすいのである。


 1曲目はモーツァルトの「ロンド ニ長調」。軽快で可愛らしい有名な曲。須関さんのピアノは、いつものようにとても素直で端正である。音の粒立ちが丸く、玉を転がすような軽快感が聴いていても清々しく感じられる。

 2曲目はベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ 第14番『月光』」。この曲は、もちろん誰でも知っているような人気の曲には違いないが、コンサートで演奏されることはあるようであまり多くない?? いや、1年に一度くらいは誰かの演奏で聴いているという程度だから、演奏機会は多いのかもしれない。ちょうど1年前にはモナ=飛鳥・オットさんのリサイタルで3年前には中島由紀さんのリサイタルで聴いた同じ年に須関さんご自身のリサイタルでも聴いている
 このサロンで聴くと、ピアノの音がスッキリしていて、あまり残響音もないので、造型がハッキリと明瞭に分かる。低音から高音まで音が澄んでいるので、不協和音を含む和声の構造が見えるようである。楽曲自体は明らかに純音楽であるが、第1楽章の「夜のさざ波に揺れる湖面に映る月の光」の絵画的なイメージがどうしてもつきまとう。澄んだ音色の分散和音は水の透明感にもつながり、澄んだ低音は夜の闇の深さを描き出す。第2楽章の間奏曲風のメヌエットは包み込むような優しさと優雅さの表現。このソナタのメインとなる第3楽章は、迸るエネルギーのごとき楽相だが、力強く叩き出される低音部やスフォルツァンドも音が澄んでいることで純音楽的な雰囲気が増す。実際にコンサートホールで聴くと残響音が混ざり合ってしまい、音が濁るのと同時にスフォルツァンドのキレが悪く聞こえてしまうのだが、今日の須関さんの演奏は、ひとつひとつの音がクリアで和音にも濁りがなく、造型の美しさも描き出されていた。素晴らしい演奏だったと思う。

 3曲目はシューマンの「ノヴェレッテ 第1番」。須関さんの演奏でこの曲を聴くのは初めてだと思う。主部の激しく情熱的な曲想と中間部の憧れがいっぱいの抒情的な旋律の対比が素敵だ。シューマンの描き出すロマンティシズムはどう聴いても恋愛感情のイメージになるので、女性的な優しさのある須関さんの音色とフレージングがよく似合っていた。

 4曲目はシューマン作曲・リスト編曲の「献呈」。この曲もシューマンの(歌詞がなくても)旋律の持つ抒情性が余りにも感情的で、それをリストが見事にピアノに置き換えている。誰が弾いても素敵な曲だと思うが、そこはやはりリスト編曲なので、超絶的な技巧を持っていればこその表現力が求められるところだ。豊かな情感の表現が聴いている私たちの心にシンクロすると、切なさが込み上げて来る。素敵な演奏の影には豊かな感受性と超絶的な表現技巧が隠されているのだろう。

 前半の最後は、リストの「ラ・カンパネッラ」。この曲は須関さんのCDのタイトル曲にもなっている。超絶技巧の代名詞のような曲であり、技巧を売り物にするピアニストにとっては速いテンポで弾くことが腕の見せ所みたいになる。ところが、須関さんの演奏はむしろ遅めのテンポで、丁寧にシッカリとした造型を描き出している。管弦楽で言えばリストが創造した「交響詩」のように、練習曲の体裁を取りながら標題性の強い曲であり、その点を重視する演奏をするなら、「鐘の音」のイメージを描くのにそれほど早いテンポは必要ないはず。そう考えると、理に適った演奏だったといえよう。

 後半はショパンの「舟歌 嬰ヘ長調」から。リサイタルでもしばしば演奏するし、CDにも収録されているくらいだから、須関さんのお気に入りの曲なのだろう。この曲はショパンの中でもとくに映像的な視覚的要素の強い曲だ。揺れる小舟から見た水面に反射する陽光の煌めきが目に浮かぶ。須関さんの演奏は美しい風景を見ているような透明感がある。流れるようなレガートも美しい。ただ、重音で構成される旋律や和音の組み立てなどがこの曲に限ってはもっと豊かな響きの、残響音の長いホールで演奏する方が、より美しく聞こえるに違いない。

 2曲目からはドビュッシーの曲が続く。今年はドビュッシーの没後100年の記念年に当たるので、とくにピアノに関してはドビュッシーを聴く機会が多くなりそうだ。
 「ベルガマスク組曲」は、後で聞いたところによると全曲演奏するのは初めてなのだという。ちょっと意外な感じもした。今年はドビュッシーの没後100年の記念年に当たるので、とくにピアノに関してはドビュッシーを聴く機会が多くなりそうだ。ドビュッシーの音楽は、私のような素人にはちょっと難しいところがある。ロマン派と違って基本的には聴く機会が少ないからだろうか。フランス音楽の独特の感性にあまり慣れていないのと、やはり崩壊しつつある和声や、和音の進行で旋律が構成されたりするところなど、近代音楽特有の難しさもある。まあ、あまり理屈っぽく聴かない方が良いと思うのだが・・・・。あくまで感覚的に、心を開いて感性を豊かにして聴けば、純粋に美しい曲ではあると思う。「前奏曲」「メヌエット」「月の光」「パスピエ」が続けて演奏された。「月の光」だけが夜の景色を描いた標題的な音楽で、むしろこの曲の中では異質の存在だ。ドビュッシーのような和声の美しいピアノ作品こそ、残響の少ないサロンで弾くことで、その本質的な部分が見えてくるような気がした。

 続いて「前奏曲集 第1巻」より「亜麻色の髪の乙女」。澄んだ音色のピアノが、美しく儚げな旋律と和音を紡いでいく。響きの薄いサロンで聴くと、曖昧さがなくなり、ドビュッシーの音楽の構造が見えてくるようだ。非常に丁寧に演奏されていたが、ナイーブな情感の表現も素敵だった。

 最後は「喜びの島」。この曲は1904年の作だというが、極めて現代的な曲である。複雑な造型の和声がキラキラと煌めくように進行して行き、主たる旋律も重音や和音で構成されているため、どこか明瞭でなく、抽象的な感覚が伴い、掴み所がないような浮遊感が全体を占めている。須関さんの演奏は端正で緻密な構成力があるため、感覚的な世界の中からある意味で分かりやすい造型を描き出してくる。フランスの感性が理解しにくくても、日本の感性に置き換えてくれれば、分かりやすくなる。そんな印象の演奏であった。

 アンコールは、引き続きドビュッシーで「アラベスク 第1番」。上下運動をする音階が分散和音のように澄んだ音を重ねて行き旋律を創り出す。どことなく、夕日のイメージほ感じさせる演奏だった。

 こうしてリサイタルを聴き終えてみると、須関さんのピアノにははっきりとした個性(=人格)が表れているといえる。演奏家の個性というものは、自我を強く押し出し、他人と違うことを主張するものと思われがちで、つまりアクの強い、押し出しの強い演奏する人を「個性的」と評価することが多い。それはそれでもちろん正しいし、その意味で「個性的」な演奏はやはり聴いていても面白いものだ。
 ところが、須関さんの個性はちょっとタイプが異なる。特段変わった解釈をするわけでもないし、超絶技巧派でもないし、押し出しが強いわけでもない。全体的に端正で丁寧。造型がシッカリしているのにエッジが丸く優しく感じられる。音の粒立ちが均質で、音色は透明度が高い。あまり派手さはないが、聴く者をふわりと包み込むような優しさがある。これもまた「個性」なのだと思う。ピリピリとした緊張感や痺れるような感動を与えてくれるような演奏のタイプではなく、聴く者の感性に共鳴し共感を呼ぶ演奏。だから聴いている間は常に心地よく、曲が終わればもっと聴き続けていたいと感じてしまう。だからこそ他の演奏家からも共感を得ることが多くなり、弦楽器奏者や室内楽奏者からの評価が高くなるわけだ。それこそが須関さんのピアノの魅力なのであろう。

 終演後は、いつものように室内の椅子を片付けて懇親会場に早変わり。50名規模のサロン・コンサートであれば、須関さんクラスのプロの演奏家なら来場者は顔見知りばかりだろう。CDを購入してサインしてもらう人もいれば、一緒に記念写真を撮る人なども多数、またあちこちで音楽談議に花が咲く。サロン側からワインなども配られて、ゆるゆると楽しい時が流れていた。
 須関さんはこの後、6月28日にも東京・千代田区の「紀尾井町サロンホール」でリサイタルが予定されている。こちらは80席規模の会場だが、サロンというよりは小さな音楽ホールというイメージの形状だ。スタインウェイのフルコンサートピアノがあり、音量も音質も響きも違うから、また楽しみである。



会場に聴きに来られていたヴァイオリニストの泉 里沙さんと。

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【お勧めCDのご紹介】
 須関裕子さんのデビューCDアルバム「LA CAMPANELLA」をご紹介します。本日演奏された曲目としては、タイトルにもなっているリストの「ラ・カンパネッラ」とシューマン/リスト編の「献呈」、そしてショパンの「舟歌」が収録されています。他には、シューマンの「アラベスク」や、ショパンの「英雄ポロネーズ」、「ワルツ第7番」、「バラード第3番」、「スケルツォ第2番」、そしてリストの「愛の夢第3番」と、名曲づくしのとても聴きやすいアルバムになっています。

ラ・カンパネッラ
須関裕子,リスト,シューマン,ショパン
マイスター・ミュージック



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