●島田荘司 『幻肢』 文藝春秋 | 新・駅から駅までウォーキング

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島田荘司 『幻肢』
         文藝春秋 2014.8.30発行 



幻肢/文藝春秋
¥1,728
Amazon.co.jp





★本の内容(Amazon.co.jpより)



医大生・糸永遥は交通事故で大怪我をし、一
過性全健忘により記憶を失った。
治療の結果、記憶は回復していくが、事故当
時の状況だけがどうしても思い出せない。
不安と焦燥で鬱病を発症し自殺未遂を起こし
た遥は、治療のためTMSを受けるが、治療
直後から恋人・雅人の幻を見るようになり…。



★ここだけの話



9月27日より公開される映画「幻肢」の原
作です。
映画とは違い主人公の男女の役割が逆転して
います。



今回とりあげられているTMS。
これは脳に電磁刺激を与え、脳の活動を活性
化する治療法です。
アメリカではうつ病患者に効果が実証されて
いいるそうです。



遥は交通事故を起こし、入院先の大学病院で
治療をしていきますが、事故直前の記憶だけ
がまったく消えています。
そうした不安の中からうつ病を発症しますが、
周囲の人々の薦めによりTMSの治療を受け
てみることになります。
するとうつ病の症状が改善し、恋人だった雅
人の姿が見えてくるようになります。
しかし雅人は事故の時、死亡したと思ってい
ますので、彼の幻を見ているのです。



数回の電磁波をあてる治療の末、交通事故の
全貌を思い出すことができます。
彼女にとっては大変ショックな出来事でした
が、結果的にはすべてが判明し彼(の幻)に
謝罪します。



タイトルの「幻肢」の意味は、手や足を失っ
た患者が存在しない手足が依然そこに存在す
るかのように感じることです。
遥は亡くなってしまった雅人の幻を、まるで
生きているかのように感じていたのです。



登場人物は極端に少ないです。
大事故に遭遇しながらも、青森の両親にも連
絡しないなど主眼をぶれさせないための書き
方をしています。



この本のうれしいところ。



まず、大好きな島田荘司作品であること。
現存するミステリ作家のなかで一番敬愛して
いる作家です。



遥の住まいも大学、大学病院なども吉祥寺に
あり、井の頭公園やパルコや飲食店が頻繁に
登場します。
島田荘司は以前井の頭公園の近くに住んでい
たからでしょうが、かなり細かく描写されて
いました。
吉祥寺の街は徒歩圏内ですので、親近感を覚
えます。



そしてTMSによる治療のあと、どうなって
しまうのか、途中はハラハラでしたが最後は
パッピーエンドでホッとしました。




もしかしたらこの作品の途中で、御手洗潔が
出てくるのではないかと期待しました。
「そういえばストックホルムの御手洗潔先生
も………」とか挿入されても不思議ではない
と思います。
ここだけちょっと残念な部分です。



ミステリ風に書かれたTMS治療の紹介。
それにプラスしてラブストーリーらしい結末。
脳に関する勉強にもなり、大変面白い作品

した。