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年に二人ばかりいつの間にか通院を止めてしまう患者さんが居る。実際に通院しなくなる患者さんはもう少し多く六、七人居られると思う。それは引っ越したり何らかの理由で転院する患者さんで、多くは紹介状を所望される。
引っ越しや転院でなく通院しなくなる患者さんは、要するに医者通いを止めてしまった訳で軽い認知のある高齢者に多い。その多くは自覚症状がないから止めてしまうらしいのだが、中には経済的な理由や長い距離を歩くのが大変になったなどの理由もあるようだ。そうした患者さんは家族が居ても孤立しており、家族は通院を止めたことに気付いていないことが殆どだ。
そうした患者さんが半年、一年ぶりに家族に連れられてやって来ることがある。眩暈がして救急を受診したら血圧が200あったとか、この頃物忘れがひどくなったとかいう場合が多い。
慢性疾患で通院される患者さんには家族構成を聞き、自覚症状がなくても受診の度に現在の状態を説明しているのだが、取り敢えずまともな受け答えがあればそれ以上踏み込まないことが多く、返事だけで実際には良く理解できまなくなっている人を見逃すことがあるようだ。多少認知があっても人は誰しも自分の考えがあるので、通院を続けても意味がないと判断されるのだろう。
こうしたことが起きる一つ理由には、来る物は拒まず去る者は追わずを原則にしているので、急性憎悪が疑われるような場合でなければ、医院側からこの頃来られませんがと連絡することはしていないからだ。何らかの理由で他の医院に変わられたり(患者さんは変わりたくなくても家族の意向と言うこともある)、入院していたり、亡くなっていたりすることが多い。そうした訳で連絡しても、お互い厭な思いをすることもある。尤も、自覚症状がないからと通院を不十分な自己判断で止めて悪くなることもあるので、そういう患者さんには何らかの連絡を取った方が良いのかも知れない。この辺りの見極めは難しい。