[総合誌読む 59-1] 「短歌研究」2013年12月号 短歌年鑑・年刊綜合歌集【前編】  ~光るとは歌ふことかも知れず、ほか{短歌の本読む 40} 「中東短歌3」を読む  ~自然と自己の統一、ほか

2014年11月23日

[総合誌読む 59-2] 「短歌研究」2013年12月号・短歌年鑑 年刊綜合歌集【後編】  ~人類なんて終わコンである、ほか

短歌研究2013年12月号「2014 短歌年鑑」の「2013年刊綜合歌集」を読みます。後編は「さ」からいきます。


体内で魚生まれてきみの声聞くたび水面から出たがれり/佐藤真美
→それが人を好きになるってことでしょうねえ。みずみずしいですね。でもオレは、水を出た魚に待っている運命を思わずにいられません。


バランスが上手くとれない妻といふ字の中の女時々転ぶ/佐藤モニカ


ゴレンジャーの候補となりし茶レンジャーのボツとなりゆくさまを思えり/笹公人


道端にポイ捨てされしタバコより純粋無垢の白立ち上る/澤辺元一


耳かきの綿毛がそつと耳の奥をすすみゆきたる春の昼なり/清水良郎

→季節って、野外の様子や気温から感じることが多いんですが、体内のごく狭いところをもってきたのが面白いポイントかと思います。耳かきに季節は関係ないんですが、なるほど春みたいな優しくやわらかい感触です。


解毒剤をつくり毒を練り毒靄をまき善悪の区別も知らず/島崎榮一


音声を消して見てゐる討論の政治家の口の形卑しも/田附昭二


ラッシュ時の電車の中の静寂にて人みな別の空白見をり/高野公彦


うますぎる弔辞聴きつつ覗き見る遺影の顔に眼鏡があらず/竹村公作

→生きている人にも亡くなった人にも違和を感じています。


新月の窓辺に江戸川乱歩読む子の目激しく上下しており/俵万智


蛸めしは皆で食いしにわれのみが蛸に抱かるる夢を見たりき/千々和久幸

→タコに抱かれるのってどんな感触なのか、それって気持ちいいのかが気になります。
蛸めしの恨みだとしたら気色悪い抱きかたかもしれませんね。


なつかしき人生ゲーム盤上に購いし家の窓はひらかず/辻聡之
→窓がひらかない家というのは牢屋みたいでいやですね。人生はゲーム、家庭は牢獄……。


熟れ柿が鴉の口よりころがりて屋根の下なるわれ年を取る/中野昭子


プライベートがなくなるくらい忙しく踏切で鳩サブレを食べた/永井祐

→鳩サブレはお土産感があります。そういうのはゆっくり食べたいですよねえ。
踏切で、ってことは目の前には走っている電車がいて、電車はゴウゴウ走るし遮断機はカンカン鳴っています。ただでさえ忙しいのに、立ち止まった(止まらされた)場所は気持ちの休まらない場所。
のんびり感と忙しさの対比が強いです。


眠るため生まれたのだと信じたりもう目を凝らすのに疲れたり/馬場めぐみ


テレビ画面に百人映れば百人が首を振ってるテニスの試合/浜田康敬


善光寺裏道を行く歩み行く面白いとか呟き言ひて/疋田和男

→場所は具体的なのに「面白いとか」が抽象的なのがよいです。「行く歩み行く」の変な念の押し方も。まるで変幻自在です。


わらう泣くわらう泣く怒る泣くわらう十八歳の日記は語る/文月郁葉
→喜怒哀楽がはっきりしていて、全力で生きてるなあと思います。無表情ということがない。
オレなんて、無表情か、曖昧な笑顔でいるかだからね。


抜けやすき雛の首かな不発弾処理に小さく地面の揺れつ/藤島秀憲
→つまり不発弾処理をしたら雛人形の首が抜けたということですね。
本当の爆発が起きたら本物の人間の首が吹っ飛びかねません。


雨なのか泣いてゐるのか受話器からひたひた夜を流し込む人/本多綾


一日の不毛をたれかのせゐにすれば少し安堵し枕を直す/槇弥生子


敗北は突然にきて妹に食べられちゃったプリンそっくり/松尾唯花

→冷蔵庫をあけたらプリンがなくなっていてショック→妹に食べられていたと知る→敗北感、という流れでしょうね。
それをプリン自体に似てるみたいな言い方にしているのがポイントかなあと。妹にプリンを食べられていたのを突然知ったその状況そっくり、と言えば平凡になります。
ツイッターでつぶやいた時の反響は今回はこれが一番大きかったです。


もう誰も救ひに来ないと知つたのち人の為すこと数へてみるも/松川洋子


絶筆にあれども読めぬ 麻痺の手に父が書きたる葉書一葉/三井修


コンクリートの裂け目にひしめく虫の息の人類なんて終わコンである/柳澤美晴

→死にそうなのを「虫の息」っていうんだけど、何かの裂け目にひしめいているというのは、ほんとの虫みたいです。
「終わコン」って言葉をこんなところで見ると思いませんでした。「終わったコンテンツ」の略です。人類をコンテンツとしてとらえています。コンクリート、ビルの隙間でうごめいている人間を見て「こいつら終わってるな」というわけです。


彼の人と同じ行動してみれば友達すごいいきおいで減る/山川藍
→一体何をすればそうなるんだか気にります。もっと読みたい作者のひとりです。

友達の着ていたような服着ればふいに未来は暗澹とせり/花山多佳子『樹の下の椅子』
も思い出します。


全身がゆびさきとなる指先はただストローを支えとる/吉岡太朗


まっとうな毎日送るひとの持つ強さが並ぶ朝のホームに/若草のみち

→オレはあんまりまっとうじゃないので、こういうのはほんとに強いなと思う。

というわけで「短歌研究年鑑 2013綜合年刊歌集」を終わります。








オレの歌もこの時に載ったのです。

在りし日の授業風景再現し人形向かい合った教室/工藤吉生
人形の女性教師が指導する生徒もみんな人形である/(同)
校長室 デスクの人形校長は半永久的残業時間/(同)

短歌研究詠草で準特選になったときのものからの抜粋です。とよま市の教育歴史資料館というところに行ったことを歌にしています。


「歌壇名簿」で住所を公開してから一年たちました。そういうことをするとどうなるのか心配もありましたが、一年で来たのは「現代短歌新聞」や「現代短歌」の見本など数冊だけでした。
来年はもう少し何かくると思います。新人賞候補になったり特集で顔を出したりしたので多少は知られたと思うんですよね。まあそのへんはよくわかりません。来年覚えていたら報告します。



んじゃまた。


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この記事へのコメント

1. Posted by おばさん   2014年11月23日 10:07
いろんな歌を読ませていただき、とても参考になりました。ありがとうございましたm(__)m おばさん、工藤さんの人形校長のお歌、すごく気にいってます。観察力と発想がいいですね! 今年は、大活躍でしたね! これからも頑張ってください!
2. Posted by 工藤吉生   2014年11月23日 10:09
コメントありがとうございます。おばさんにはいつも励ましていただいています。これからも頑張ります。

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[総合誌読む 59-1] 「短歌研究」2013年12月号 短歌年鑑・年刊綜合歌集【前編】  ~光るとは歌ふことかも知れず、ほか{短歌の本読む 40} 「中東短歌3」を読む  ~自然と自己の統一、ほか