昨日の母は言いました。
他にはな~んにも、しょうらんだけぇ。
私が小学生だった頃 …
6年生の時に祖母が亡くなって
独りとなった祖父の家に引越しをするまでは
古い古い、かやぶき屋根の家に暮らしていました。
一晩で積もる大雪で、出入り口がふさがれないように
屋根から落ちた雪の流れで、窓のガラスが割れないように
雪囲いで覆われた家の中は、真昼でも薄暗いので
弟と二人で留守番する私を、いつも不安に
物悲しい気持ちにさせました。
おかあちゃん、早く帰ってこないかな~…
私だけが頼りの弟に、その不安を悟られてはいけないと
留守番の時間をどうやって過ごそうかと
子どもなりに一生懸命に考えました。
退屈そうな弟に、そうだ!スキーをしよう!と声をかけ
父や祖父が、竹やぶから切ってきた竹の先を火で炙り
丸めて作ってくれた手作りスキーと、
これもやっぱり竹を切って作ったストックを手に
自宅横の坂道に誘って出るものの …
( 画像はお借りしたものです )
こんな簡易な作りでは、バランスをとるのも難しく
最初は喜んだ弟も、すぐにまた泣きべそです。
それも無理はありません。
今のように暖かいブーツもなければ、防寒着だってない時代。
ペラペラのゴム長靴に綿の靴下、何度も編み直した毛糸の服に
薄っぺらいズボン姿では、すぐに体の芯まで冷え切って
手足の感覚なんてなくなるのです。
冷たいと泣く弟を、家の中に連れて戻って
豆炭ごたつに入れたって、すぐに涙は止まらない …。
あの頃の私は両手も両足も、しもやけだらけに
なったっけ …
ここ数日の厳しい寒さで、田舎は連日、吹雪となりました。
それが昨日やっと、雪が一日降らなかったのだと
電話の母の声が嬉しそう♪
雪かきが大変でしょ?
どうか無理だけはしないでねと頼んだら
母は娘の私に、こんな返事をしてくれました。
自分は仕事をしているわけでもないし、雪かき以外は、
他には、な~んにもしていないのだから、大丈夫!
ただ、普段が楽をして怠けてばかりきたから
ちょっとのことで筋肉痛になってしまって
情けない体になったものだと思うけど
サロンパスがよう効くけぇ
助かっとります
雪が降らなかったお陰で、新たに積もりはしなくても
雪囲いをしなくなった自宅は、すでに積もった雪で
屋根から落ちた雪が、また屋根に届くほどあり
一番高いところを測ったら、180cmもあったと
自分の身長よりもはるかに高い雪の山を前に
文句も言わずに、笑い話に変えた母。
今日の晴天のお陰で、その雪山を崩せたので
有り難かったと感謝した後
天気予報はまた明後日から、
( 雪 ) だるまマークだと言いました。
時々、雪が降る地方の人が他者に向かって
雪の苦労なんてしらないくせに!なんて
噛み付く言葉を口にしている姿を見ますが
来月には 84歳となる母が、痛む体にサロンパスを張って
黙々と黙々と、ただ黙々と雪をかいています。
冬の晴れ間に感謝して、文句も言わずに雪をかく。
いつからでしょうか。
私の手足が、しもやけにならなくなったのは。
今も暖かい部屋にいて、こうして気楽な時間をすごす時
なんともいえない、申し訳ない気持ちになりますが
それでも母は私に、楽をしているなんて言ったりしません。
母は自分が根を張った、今の暮らしを一生懸命
誇りを持って生きている。
誰かに、ここに縛られたんじゃない。
自分の意志でここにいて、自分らしく生きている。
できることを、できる限り、できる範囲で、精一杯
よし!今日の平穏に感謝して、空に向かって手を合わせましょう。
だるまさん!だるまさん!
母のところには、もう来ていただかなくても結構ですから
雪を待つ人がいる場所に
どうか行ってあげてくださいな!