古物に息づくモノたち | レトロショップ成穂堂 (なるほどう)ケンの苦悩と爆笑の日々

古物に息づくモノたち

店の最寄り駅(と言っても3km近く離れている)から西側には閑静な邸宅街が広がっている。

ウィキによると、
「駅から西方、穏やかな坂を上ると・・・1930年(昭和5年)にジョルジュ・オスマンのパリ改造をモデルに開発された大美野田園都市が広がる。
噴水のあるラウンドアバウトからは放射状に8本の道路が伸びている。
東京の田園調布や洗足田園都市と同時期に開発された日本の田園都市の原型で、
豪邸や瀟洒な洋館が立ち並ぶ関西有数のお屋敷町である」
と、いうことらしい。

40万平方メートルという広大な開発だとも記載されているが、ピンとこない。

現在はお孫さんあたりが後をついでおり、土地は随分切り売りされてしまっているようだ。

年配の方は、「そら一昔前は見事な町並みやったで。今はあかん」と、仰る。

そうはいっても、今でも目を見張るような建物も多く残っている。

ところで、ここは来年公開の映画「嘘八百」のロケ地にもなっている。

二月に、古物商役の中井貴一さん、陶芸家役の佐々木蔵之介さんらが来られていたらしい。

さもありなん。

師匠によると、かつてこのお屋敷町には他府県から骨董商が頻繁に出入りしていたらしい。

 

実は、この映画の古物商のモデルは成穂堂である。









嘘である。ちょっと言ってみたかった。


うちの店はこのお屋敷町にへばりつくような場所にある。

謂わば、開発の線引きから惜しくもこぼれ落ちた地域である。

まあそんな加減でアンティーク品はお屋敷町と呼ばれる地域からやって来る事が多い。

やって来るといっても、殆どの場合こちらから伺う事になる。

そんな買取りの最中、僕は何度か気妙な感覚に見舞われている。

品物を運びし、車の荷台をゴソゴソ整理していると、僕の背後を何かがフワッと通りすぎた。

振り返るとそこには朽ち果てたお屋敷があるような気がする。

僕は、もののけの悪戯かと、荷台に置いたばかりの品を確める。

現のスイッチがカチッと音をたてて入る。

確かに品はある。

恐る恐る振り返ると、立派なお屋敷が木々の間に見える。  

突然、棲みかを揺り動かされて、転げ落ちた何者かが、慌てて元の居場所に潜り込むのだろう。

僕は「転げ落ちなさんなよ」と呟き、車に乗り込む。

そして、店に戻ってソファーにもたれかかった時、とても疲れている自分に気が付く。

本来、古物が持つエネルギーは穏やかなものだ。

誰でも寝床を揺り動かされれば驚き慌てる。

時折、そんな乱れたエネルギーに当てられる。

目には見えないし、何が起こる訳でもない。

だけど、そこには説明の付かない何かがある。  

誰もいない店内に気配を感じて、ぐるりと一周する事もある。

スピリチュアルな感覚は全く持ち合わせていない。

決して、何かに毒されている訳でもない。


古き時代の品々、彼らはここに貰われて来たのではなく、自分達の意思でやってくる。

そして、自分達の意思で次の居場所に向かう。

あたかも売り手買い手の意思で古物が動いているように見えるが、

彼らがうまく我々を誘導している。

人は目に見えるもの、科学的に説明できるものだけを信じがちだ。

だけど、人の理解を超えて存在するものは沢山ある。

見えるものだけが全てではない。

謙虚に生きるが宜しかろう。

僕はそう思っている。