とても仲良しだった高校時代の友人から突きつけられた絶縁。
それは理由さえ告げられることのない、突然の別れであった。
その後に出会った大学時代のたった一人の友人も、理由も告げずに去っていく。
それから年月が流れ、一緒に居たいと思う年上の女から与えられた命題により、
過去に封印したはずの理由を探す為に巡礼の旅に出る。
- 村上春樹、故に、小説として色々な意味で考えつくされているのだと、
- 思って読み進む。
- 名前の付け方ひとつ、それぞれの容姿も含めたキャラクタ設定、
- 全編に醸し出されるエリート意識、リストのピアノ曲、
- 名古屋、東京、そして浜松、フィンランドという土地の意味。
- ひとつひとつ立ち止まり、 考えてみる。
時折ありえないような言い回しや、普通ではない感性にも出会うが、
とにかく読みやすいので、進みの遅い僕でも、
まっすぐ読めば3~4時間くらいで読破できそうなところを、1週間かけた。
ひとつにはタイトルにもある色彩ということ。
高校の友人たち一人一人についている色は、
青(男)、赤(男)、白(女)、黒(女)、
修羅の門の陸奥圓明流を持ち出すまでもなく、「四神」を表す色である。
なるほどそれならば強力なグループであったことだろうと思う。
東西南北、春夏秋冬、とバランス良くも見える。
主人公たる「多崎つくる」に色彩を持たないとしているが、
この四神が東西南北を司るならば、その真ん中には黄龍がいる。
黄
こうなると「たざき」の中に「き」があることは見逃せない。
むしろ必然なのだろう。
後に明らかになる、
多崎つくるがこの5人のグループの中心に居たことを、
ただその色だけでシッカリと表していたというわけだ。
大学時代の友人の灰田についても同様である。
グレーとういうクロとシロの中間色。
つくるが見る性夢には、高校時代の友人である、
共に魅力的なクロとシロが、いつも二人セットで登場した。
この二人の色が混ざり合った存在がグレー。
すなわち灰田ということになる。
そして灰田は、
モノの見事にその役割に相応しい行動をし、
そしてクロとシロと同じように、つくるのもとを去っていく。
小説の中で動く時間においては、
殆ど事件が起きないのだが、つくるの知らないところで、
シロを巡る、レイプ事件と殺人事件が起きている。
しかし、この二つの事件の犯人について、物語の中では全く言及されていない。
この犯人は、ある意味この小説を小説たるにしたキーマンといって違いない人物である。
その犯人を、村上春樹の小説が単なる通りすがりの犯行などというような、
なおざりの設定をするはずがないのだが、
それにはまるで興味がないかのように、誰もが素通りしてしまうのだ。
「お前じゃないとは思っていた」とは言うものの、
「あいつじゃないか」の一言もないのは、普通ではない。
ラストも大切な告白の前で終わってしまう。
とにかく大事なこところになると急激に淡泊になるのが、この小説である。
けれども、真実(小説の中の真実)は克明には明かされないが、
更に注意深く読めば、答えはきっと小説の中にあるのだろう。
そういう意味ではミステリーであり、エンターテイメントなのだろうと思うが、
正直な話、読後感はもの足りなさを覚える。
答え合わせの必要はないと、
多崎つくるも、村上春樹も言うのだろう。
それはそうだ。
その答え合せには、ひとカケラの希望もなく、
その未来には、
どうやらこれまで歩いてきた16年と同様の空虚で、
色彩のない景色しか見えてこないのだから。
そんな結末など、書かない方が良いに決まっているのだ。
つまり、中途半端に見える、ここで完成しているということなのだろう。
16年という数字も、つまり(いろ)である。
そういうことを探すのも、この小説の読み方なのだろう。
ミステリーと言ったが、ある意味パズルのような娯楽小説であった。
ただ、それだけのことでもあるのだが。
ただそれだけのことを、見事にやってのけることが、
村上春樹の村上春樹たる所以なのだろう。
げに、恐ろしや。
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