最高裁平成26年7月17日判決 DNA鑑定と親子関係不存在 | 弁護士吉成安友のブログ

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 先日,最高裁で,親子関係不存在確認の訴えについて,注目すべき判決が出ました。

 かつて私が扱った事案や受任予定の事案では問題にならない事項なのですが,一般にかなり影響の大きいものです。

 結論を簡単にいうと,DNA鑑定で父子関係の不存在が明らかになった場合でも,妊娠時に夫婦関係が既に破綻しており父が遠隔地に居住しているなど性的関係を持つことがあり得ない事情がない限り,子が父子関係を否定する訴えを起こすことはできないというものです。

 一応夫婦がともに生活をしている中で妻が不倫をして子を妊娠した場合,DNA鑑定で父子関係がないことが明らかになっても,子が訴えを起こすことができないのです。

 どういうことか?

 民法722条は婚姻中に妻が妊娠した子は,夫の子推定されます。

 これを嫡出推定と言います。

 ところで,民法上,この嫡出推定を否認できるのは,夫のみで,しかも,子の出生を知ってから1年以内に嫡出否認の訴えを裁判所に提起しなければならないとされています。

 子や妻などから親子関係を否定することはできないですし,夫も子の出生を知って1年が過ぎてしまえば,もはや親子関係を否定できないのが原則なのです。

 その1年というのは,あくまで子の出生を知ってからなので,子が大きくなって,なんか顔も性格も違うということで,妻に問い質したところ,実は当時不倫してましたなんてことになった場合には,父ももはや親子関係を否定できないということになります。

 ただし,判例上,妊娠時に夫が遠隔地に居住するなどしていて性的関係を持つことがあり得なかった場合は,嫡出否認以前に,嫡出推定が及ばないとして,いつでも,誰でも,「親子関係不存在確認の訴え」という方法により,親子関係を否定することが認められています。

 私が以前扱った事案や受任予定の事案で,今回の判決の事項が問題にならないというのは,もう一緒に生活していない状態で妊娠したものだったからです。

 ここで,問題なのは,近時,DNA鑑定により,ほぼ確実に親子関係の有無を明らかにすることができるようになったことです。

 費用も5万円ほどでできちゃうんです。

 このように血縁関係の有無をほぼ確実にそれも容易に判定できるようになったんで,血縁関係がないことが明らかになった場合も嫡出推定が及ばないとして,親子関係不存在確認の訴えの提起を認めるべきではないかという考えが有力になってきたのです。

 実際,1審,2審はこれを認めました。

 しかし,最高裁は,これを否定しました。

 とはいえ,5人の裁判官のうち2人が反対しています。

 多数意見は,民法が嫡出推定について,民法が法律上の父子関係と生物学上の父子関係に不一致が生じる子を容認していることを前提として,嫡出否認の限定が子の身分関係の安定を保持するためのものであることを重視しました。

 しかし,私は,これは硬直的に過ぎるように思います。

 無論,血縁が全てではないと思いますし,血縁関係がないというだけで全て父子関係の否定を許すべきとは思いません。

 問題なのは,外観的事情がない限り親子関係不存在確認の訴えを一切利用できないとして良いのかというところです。

 その意味で,下記の反対意見には頷けます。

 民法が,嫡出推定を受ける子について,原告適格及び提訴期間を厳しく制限した嫡出否認の訴えによるべきこととしている理由は,家庭内の秘密や平穏を保護するとともに,速やかに父子関係を確定して子の保護を図ることにあると解されている。そうすると,夫婦関係が破綻し,子の出生の秘密が露わになっている場合は,前者の保護法益は失われていることになるし,これに加え,子の父を確保するという観点からも親子関係不存在確認の訴えを許容してよいと考えられる状況にもあるならば,嫡出否認制度による厳格な制約を及ぼす実質的な理由は存在しないことになるであろう。

 私は,科学的証拠により生物学上の父子関係が否定された場合は,それだけで親子関係不存在確認の訴えを認めてよいとするものではなく,本件のように,夫婦関係が破綻して子の出生の秘密が露わになっており,かつ,生物学上の父との間で法律上の親子関係を確保できる状況にあるという要件を満たす場合に,これを認めようとするものである。嫡出推定・否認制度による父子関係の確定の機能はその分後退することにはなるが,同制度の立法趣旨に実質的に反しない場合に限って例外を認めようというものであって,これにより同制度が空洞化するわけではない。形式的には嫡出推定が及ぶ場合について,実質的な観点を導入することにより,嫡出否認制度の例外を認めるという点では,外観説と異なるものではない。

 身分法においては,何よりも法的安定性を重んずるべきであり,法の規定からの乖離はできるだけ避けるべきだという意見があることは十分理解できるが,事案の解決の具体的妥当性は裁判の生命であって,本件のようなケースについて,一般的,抽象的な法的安定性の維持を優先させることがよいとは思われない。


 「事案の解決の具体的妥当性は裁判の生命であって」ってかなり痺れる言葉です。

 これは解釈論の話ですが,そうしたところに限らず,まさにその生命のために,弁護士として仕事をしているという意識がありますし,今後もずっとそれは続けていきたいと思っています。
 

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