2014年04月21日

背景:
細菌や真菌などの微生物には、時にヒトに感染して重篤な症状を引き起こすものも存在する。これらの予防法や治療法の開発には深い理解が必要であるため、様々な遺伝的研究が行われている。

要約:
酵母の一種であるクリプトコッカス属(Cryptococcus)は空気中や土壌の至るところに分布し、動物にも植物にも感染する。通常は健康な人々に感染することはないが、AIDS患者や免疫抑制剤を服用している患者に日和見感染を起こし、クリプトコッカス症の原因となり、毎年100万人もの人々がクリプトコッカス症による肺炎や髄膜炎を罹患している。またクリプトコッカス症はとても致死率が高く、抗真菌剤なども効きにくい。

クリプトコッカス属の代表的な種であるクリプトコッカス・ネオフォーマンス(Cryptococcus neoformans)は、36年前にデューク大学のJohn Perfect博士によって分離・培養されH99と名づけられた。この度Perfect博士らによって、H99株の全ゲノムや生成されるRNA、培養されたH99株のゲノム上に起こる変異が解読された。

クリプトコッカス属については、分離されて以来H99株を利用して様々な研究が行われていた。しかし研究室で培養されるクリプトコッカス属は、ストレスに敏感になったり繁殖力や毒性が弱まり続けたりと、とても早く特徴が変化してしまっていた。クリプトコッカス属は、宿主の体内にいるときには特定の状態を保っているが、分離され研究室で培養されるようになると変異し始めてしまうようであった。

そこで、元のH99株と培養されたH99株の全ゲノムと生成されるRNAを比べたところ、二重鎖DNAの両方からRNAを合成するなど、RNA代謝に多くの特徴を持っていることが分かった。クリプトコッカス属は多様な環境に生息するため、多種のストレスに耐えなければならない。そこで複雑なRNA代謝などによって、環境の変化に素早く対応しているのだろうと考えられる。

しかし元のH99株と培養されたH99株の遺伝的な変異は驚くほど少なかった。そこでは2000万の塩基のうち、たった11塩基の変異と11ヵ所の挿入か削除しか見られなかった。論文著者の1人であるJoseph Heitman博士によると、彼らの成果はクリプトコッカス属やその感染症について理解を深めるための基礎となったという。今後は、具体的にどの遺伝子が感染力に関わっているのかなどを研究していくことになる。

元記事:
Deadly human pathogen Cryptococcus fully sequenced
http://www.sciencedaily.com/releases/2014/04/140417191618.htm

参照:
Guilhem Janbon, Kate L. Ormerod, Damien Paulet, Edmond J. Byrnes, Vikas Yadav, Gautam Chatterjee, Nandita Mullapudi, Chung-Chau Hon, R. Blake Billmyre, François Brunel, Yong-Sun Bahn, Weidong Chen, Yuan Chen, Eve W. L. Chow, Jean-Yves Coppée, Anna Floyd-Averette, Claude Gaillardin, Kimberly J. Gerik, Jonathan Goldberg, Sara Gonzalez-Hilarion, Sharvari Gujja, Joyce L. Hamlin, Yen-Ping Hsueh, Giuseppe Ianiri, Steven Jones, Chinnappa D. Kodira, Lukasz Kozubowski, Woei Lam, Marco Marra, Larry D. Mesner, Piotr A. Mieczkowski, Frédérique Moyrand, Kirsten Nielsen, Caroline Proux, Tristan Rossignol, Jacqueline E. Schein, Sheng Sun, Carolin Wollschlaeger, Ian A. Wood, Qiandong Zeng, Cécile Neuvéglise, Carol S. Newlon, John R. Perfect, Jennifer K. Lodge, Alexander Idnurm, Jason E. Stajich, James W. Kronstad, Kaustuv Sanyal, Joseph Heitman, James A. Fraser, Christina A. Cuomo, Fred S. Dietrich. Analysis of the Genome and Transcriptome of Cryptococcus neoformans var. grubii Reveals Complex RNA Expression and Microevolution Leading to Virulence Attenuation. PLoS Genetics, 2014; 10 (4): e1004261 DOI: 10.1371/journal.pgen.1004261

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