おおきなおおきなとんぼ | 4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

アメリカ暮らし漫画と昔の日本での愛犬物語です。

 

 とくべつなことは、まだありました。

 

ある休日のこと、わたしとピピはうちの庭にいました。
長い庭を、東から西へふたりでぶらぶら歩いていって、家の角をぐるりと北へまわりこみます。

北側には、わたしの肩から上がのぞくくらいの高さに、コンクリートブロックの塀がずっと続き、その塀の下は側溝で、家の敷地を海岸道路から隔てています。
 

その、家と塀のあいだの、ひっそりした細い通路のなかほどで、わたしはなんとなく、立ちどまっていました。

 

すると、とんぼが一匹、とんできたのです。

 

(・・・・・おおきなとんぼだ)  
やけに静まりかえった気もちの中で、わたしはまず、そう思いました。

信じられないことですが、そのトンボのからだの長さは、ざっと三十センチほどもあったのです。

 

そして、かっちりした太い胸は、金属のかたまりのようにきらきらと緑いろに輝いていました。
なのに、その飛び方は、小さないととんぼのような、羽をすぼめた飛び方なのです。

 

しゃらしゃら しゃらしゃら ・・・
 

顔を右横に振り向けたわたしの、すぐ目の前、50センチもない距離で、わたしの顔とおなじ高さに、おおきな透明な長い羽がゆっくりとこすれていきます。

 

しゃらしゃら しゃらしゃら ・・・・

 

とんぼの羽音・・

とんぼの、羽音?

 

とんぼの羽の音を聞くことって、あるのでしょうか。
少なくとも、わたしには初めてのことでした。
それほどにおおきな、おおきなとんぼでした。

 

わたしがとんぼを見ているように、とんぼもわたしを見つめていました。
しゃらしゃら しゃらしゃら しゃらしゃら・・・
しずかな初夏の空気に、ふしぎで優雅な音色が、ガラスのようにひびきわたります。

 

それから、とんぼはゆっくりと浮かびあがり、東へ、そして南の方へと飛び去っていきました。
その時、しずまりかえった気もちのなかで、わたしはなぜか、こう思ったのです。


(これは、とくべつな夏なのだ・・・・)