震える山と私の望みの話。 | 4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

アメリカ暮らし漫画と昔の日本での愛犬物語です。

 

 そばの係留杭につないでおいたピピが
「おおーーっ!! うおおおおーーっ!! おおおおーーーーっ!!」

 とつぜん、メガホン犬に変身したのです。


ピピが放った声は、竹がおいしげる南の山までびゅうっと飛び、その竹林の下のコンクリート壁を蹴って、こちらに跳ねかえってきました。
おおおお!!
おおおお!!
おおお おおお おう!!!!

 

なんと恐ろし気な、こだまのオーケストラ。
「おおピピ。やめて」
 わたしは慌てて制止します。

その、わたしの慌てふためく気持ちをまた感じ取るのか、ピピはますます興奮して
おごー!!!
ごごーー!!!
ごごご ごごご ごーーー!!!!

 

・・・ああもう、びりびり震撼する夏の魔の山・・・・
 

 

 そんな七月も、もう過ぎようとしていました。

じつをいうと、わたしの心は熱が出て、少しぐったりしていたのです。 
ピピ。
この頃のわたしが、どんな望みをいだいていたかわかるでしょうか?


わたしの望み。

 

それは、いつかできるだけ近い日に、ひとかどの人間になる。
そして、ピピを迎えに行く。
まるで、王子さまがあらゆる困難を越え、呪いを断ち切って、うつくしい姫を迎えに行くように。
 

はははは。

こんなこと、他の人が聞いたら、おかしくて噴き出してしまうでしょう?

 

でも、ピピ。
わたしは今でも、この希望を持っているのです。
わたしは最初に、ピピに報告するのです。
なんとか、ひとかどのにんげんになれたよと。

 

希望なしには生きてこれなかったし、これからも、生きてはいけません。