そばの係留杭につないでおいたピピが
「おおーーっ!! うおおおおーーっ!! おおおおーーーーっ!!」
とつぜん、メガホン犬に変身したのです。
ピピが放った声は、竹がおいしげる南の山までびゅうっと飛び、その竹林の下のコンクリート壁を蹴って、こちらに跳ねかえってきました。
おおおお!!
おおおお!!
おおお おおお おう!!!!
なんと恐ろし気な、こだまのオーケストラ。
「おおピピ。やめて」
わたしは慌てて制止します。
その、わたしの慌てふためく気持ちをまた感じ取るのか、ピピはますます興奮して
おごー!!!
ごごーー!!!
ごごご ごごご ごーーー!!!!
・・・ああもう、びりびり震撼する夏の魔の山・・・・
そんな七月も、もう過ぎようとしていました。
じつをいうと、わたしの心は熱が出て、少しぐったりしていたのです。
ピピ。
この頃のわたしが、どんな望みをいだいていたかわかるでしょうか?
わたしの望み。
それは、いつかできるだけ近い日に、ひとかどの人間になる。
そして、ピピを迎えに行く。
まるで、王子さまがあらゆる困難を越え、呪いを断ち切って、うつくしい姫を迎えに行くように。
はははは。
こんなこと、他の人が聞いたら、おかしくて噴き出してしまうでしょう?
でも、ピピ。
わたしは今でも、この希望を持っているのです。
わたしは最初に、ピピに報告するのです。
なんとか、ひとかどのにんげんになれたよと。
希望なしには生きてこれなかったし、これからも、生きてはいけません。