さて、この部屋には電気ストーブがありますが、今、スイッチは切ってありました。
こいぬの頃、ピピは一直線にこのストーブの前に行って「席」を占めたものです。
でも、今日のストーブは温かくないことがわかり、ピピはそこに座るのはやめたようでした。
それで、ピピがどうしたかというと、くるりと振り向いて、わたしのベッドへ鼻先を向けたのです。
ベッドには、わたしが買ったばかりのミルクティーいろの毛布が、ふかふかと厚い羽ぶとんの上にのっていました。
毎晩ふとんをかけて眠るピピ、こいぬの頃この部屋で寝ていたピピは、これがわたしの寝床だとわかっています。
それに、毛布のウールの羊のにおいや、羽ぶとんの鳥のにおいは、人間にはわからないけれど犬にはわかるのかもしれません。
だとしたら、この毛布やふとんは、ピピにはとても魅力的に映るのでしょうか・・
以前、ピピが無遠慮にも勢いよくわたしのベッドに飛び乗り、ニカニカ笑顔で
「ぱふっ!!」
と豪快に寝ころんで見せたとき、わたしはわざと大げさに怒りくるってみせました。
そして、力ずくでピピをベッドから降ろしたのです。
その「きびしい」記憶があるせいか、今のピピは、慎重です・・・
まず、ピピはベッドに鼻を近づけ、そうっとにおいを嗅ぎました。
それから
(べつに、なんの理由もつもりもないし、ほんとうになんでもないんだけど、なぜだか、どうしてだか)
・・長くなりましたが、つまり
「ふと」
というかんじで、ふとんのはじっこに、静かにあごを乗せました。
そして、前足を一本、そっとのせました。
もういっぽん、また、しずかにのせました。
こんなことを、ひとつひとつ静かにすすめていくあいだ、ピピの背中にぴんとアンテナが立ち、わたしの反応を注意深くうかがっているのがわかります。
もし、わたしが怒ったら、ピピはすぐさまこのベッド上陸作戦を中止して、ただちに撤収(てっしゅう)するつもりなのです。