でも、わたしは黙ってピピを眺めていました。
だって今日は、ピピがほんとうにひさしぶりに、わたしの部屋を訪問しているのです。
わたしが怒らないのを感じとると、ピピはひきつづき遠慮がちに、後ろ脚もまた片方ずつ、ゆっくり、そうっと、ベッドの上へのぼっていきました。
それから
・・・ぱたんん・・・
あらまあ、その寝ころび方、足のそろえ方。ほんとうにおだやかでお上品でございますこと。
ここで、わたしは椅子から立ちあがり、ベッドの端に腰かけて、静かにピピを見おろしました。
今日は、静かな雨。
きょうは「しずか」がテーマのふたりなのです。
そして、わたしもぱたん・・・
ピピの正面に、横たわりました。
わたしたちはこうして、ベッドの上下(かみしも)を無視したさかさま斜めに、海のほうへ頭をむけて、お互いに向き合うかたちで横たわったのです。
そのとたん。
ばたばたばたばたっ!!
今日のテーマは、吹き飛びました。
ピピの手足がいきなりばたつき、からだをくねらせて大急ぎで起きあがってきます。
(わっ・・)
(わわっ)
わたしも大急ぎで顔を伏せ、両腕で囲って我が頭部を守りました。
(きゃーー!!)
(きゃーー!!!!)
後ろ頭に、ピピのぺろぺろ爆弾がさく裂します!!
「・・・・むーー・・・」
それは、きみょうな、きみょうな感覚でした。
それはたとえば、こいぬが母犬にあたまをなめられる時、こんなかんじなのでしょうか。
「む、むーーーー・・・」
わたしはいっしょうけんめい顔を隠したまま、くぐもった声で母犬ピピの熱愛に耐えました。
それにしても・・・・です。
ピピは、わたしの「頭」をなめました。
服におおわれたわたしの背中や、肩や首、腕や手。
そういったところではなく、髪の毛におおわれた頭をなめたのです。
ということは、髪の毛もわたしの体だということが、ピピにはわかっているのです。
そして、私の頭と髪の毛は、ちょうどビーグルの子犬の三びきか四ひきを集めたくらいの量なのでした。
母犬になれないからだになったピピのあのいきさつを思うと、とても悲しく、申しわけない・・
それでもピピは、こんなに気持ちがこまやかで、あたたかな愛に満ちたいぬに成長してくれたのでした。