静かな犬が変わる時 | 4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

アメリカ暮らし漫画と昔の日本での愛犬物語です。

でも、わたしは黙ってピピを眺めていました。
だって今日は、ピピがほんとうにひさしぶりに、わたしの部屋を訪問しているのです。

わたしが怒らないのを感じとると、ピピはひきつづき遠慮がちに、後ろ脚もまた片方ずつ、ゆっくり、そうっと、ベッドの上へのぼっていきました。 
それから
・・・ぱたんん・・・
あらまあ、その寝ころび方、足のそろえ方。ほんとうにおだやかでお上品でございますこと。

 

ここで、わたしは椅子から立ちあがり、ベッドの端に腰かけて、静かにピピを見おろしました。
今日は、静かな雨。
きょうは「しずか」がテーマのふたりなのです。

 

そして、わたしもぱたん・・・

ピピの正面に、横たわりました。
わたしたちはこうして、ベッドの上下(かみしも)を無視したさかさま斜めに、海のほうへ頭をむけて、お互いに向き合うかたちで横たわったのです。

そのとたん。

 

ばたばたばたばたっ!!

 

今日のテーマは、吹き飛びました。
ピピの手足がいきなりばたつき、からだをくねらせて大急ぎで起きあがってきます。
(わっ・・)
(わわっ)
 わたしも大急ぎで顔を伏せ、両腕で囲って我が頭部を守りました。
(きゃーー!!)
(きゃーー!!!!)
 後ろ頭に、ピピのぺろぺろ爆弾がさく裂します!!

 

「・・・・むーー・・・」

 それは、きみょうな、きみょうな感覚でした。

それはたとえば、こいぬが母犬にあたまをなめられる時、こんなかんじなのでしょうか。

「む、むーーーー・・・」
 わたしはいっしょうけんめい顔を隠したまま、くぐもった声で母犬ピピの熱愛に耐えました。

 

それにしても・・・・です。
ピピは、わたしの「頭」をなめました。
服におおわれたわたしの背中や、肩や首、腕や手。

そういったところではなく、髪の毛におおわれた頭をなめたのです。

ということは、髪の毛もわたしの体だということが、ピピにはわかっているのです。

そして、私の頭と髪の毛は、ちょうどビーグルの子犬の三びきか四ひきを集めたくらいの量なのでした。

 

母犬になれないからだになったピピのあのいきさつを思うと、とても悲しく、申しわけない・・

それでもピピは、こんなに気持ちがこまやかで、あたたかな愛に満ちたいぬに成長してくれたのでした。