そして、時は今、春の三月。
とある晩のことです。
わたしたちは、竹林の手前にある「古墳」台地の公園を降り、福祉センターの駐車場にやってきたところでした。
まだ新しくなめらかなアスファルトを、ピピが急ぎ足で歩きます。
すると、ピピのたくさんの爪が
「ちりちりちりちり ちりちりちりちり」
ちいさな楽器をつまびくように、響きます。
やがて、駐車場にも、東の竹林にも、そのまた奥の山にも、おおきなくろい夜の幕が
(じわり・・・・)
と降りました。
すると、とつぜん、遠い東の山のその向こうで、なにかが
「がやがや がやがや」
と、騒ぎだしたのです。
いいえ、「がやがや」と書きましたが、それはほんとうは、まったく音はしないのです。
音をたてない、なにかおおぜいのものたちが、山の裏側で、ふしぎなおおきな祭りを始めた。
「いったい、なにをおおさわぎしているのだろう・・・・」
わたしは驚きながら、じっとそのあたりを見つめました。
すると、くろい山の輪郭に、光の糸が
「きらり」
と走りました。
その白い光の糸は、やがて鋭いナイフになり、巨大なコップのかけらになり、そして、すべてが現れました。
そうです。
おおきな輝く満月が、長い、ながい衣の裾をひき、女王のように傲然と、くろい地上に立ちあがったのです。