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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

ドリームガール

2017-04-16 19:00:55 | 読んだ本
ロバート・B・パーカー/加賀山卓朗訳 2010年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
年明けぐらいに買って、ついこのあいだ飛行機での移動の時間とかで読んだ、スペンサー・シリーズの34作目。
原題は「Hundred-Dollar Baby」、巻末の解説によればイギリス版では「Dream Girl」なんだそうで、日本版はそっちにあわせたということか。
その〈ドリームガール〉ってのが何のことかっていうと、「ブティックみたいな娼館を全国に広げるという。(略)パートタイムで。主婦、スチュワーデス、女子大生、教師、そういう類の。」(p.314)っていう、とんでもない事業計画のことを指している。
そんなことやりだすのは誰かというと、かつて第9作の「儀式」と第13作「海馬を馴らす」でスペンサーに助けられたエイプリル・カイルという女性。
スペンサーいわく「破滅的な売春の生活から救い出して、品位ある私娼の生活へと導いたのだ」(p.29)ということになるのだが、ふつうそういう解決手段をとろうとはしないよ、私立探偵。
「私が知っている大切なことは、ほとんどすべてあなたが教えてくれた」(p.9)とエイプリルは言うんで、やっぱ恩人なんだろうけど。
それに対し、「そうむずかしいことではないな。大切なことはさして多くないから」と答えるスペンサーはカッコいいが。
さて、みたび現れたエイプリルの依頼は、自分はニューヨークの女主人からこっちに支店を開くことをまかされているんだが、最近売り上げの一部をよこせという脅迫が始まったから、助けてくれというもの。
暴力的な脅しにきた、使いっぱのごろつきを叩き出すくらいのことは、スペンサーにとっては朝飯前なんだが、相手もそれなりの組織のワルなんで、相棒のホークに援護を依頼する。
ホークいわく報酬はいつものとおり「おまえが受け取るものの半分だ」(p.46)だそうだが、ホークのいいところは、そこでスペンサーが「無料奉仕(プロ・ボノ)になるかもしれん」と言ったとしても、「かまわんさ、おれたちで分け合うなら」と平気で受けるあたりである。
それでも、ホークだけでは背後の守りや尾行に行って留守のときの護衛が足りないので、もうひとりガンマンを呼ぶことにした。
おなじみヴィニイ・モリスやチョヨが他の仕事で忙しいので、白羽の矢が立てられたのはジョージア州のテディ・サップ。
電話を受けた彼は「凍える寒さで、雪が降っていて、撃たれるかもしれず、報酬は未定」(p.73)とスペンサーの人使いの荒さを皮肉りはするけど、ちゃんと承知して次の日にはやってくる。
彼には得意の腕前を十分に発揮するほどの活躍の場面はないんだが、ゲイだっていう属性が、エイプリルの性格と対比されることで登場の役割を果たす。
さて、脅迫してくる連中の根っこを断とうと、事件の背景をスペンサーは探っていこうとするんだが、うまくいかない、誰もが本当のことを言わない。
それはいつものことなんだけど、肝心な依頼人のエイプリルも困った現状に至った事情を決して明かそうとはしない。
そうこうしているうちに、例によって死体が転がることになる、今回は至近距離から頭を撃たれたやつ。
地元ボストンでも、ニューヨークでも、スペンサーは警察の知りあいの最大限の協力を得て、売春関係の捜査には極力見て見ないふりをしてもらってるんだけど、殺人事件の犯人は挙げなきゃいけない。
はたして、スペンサーはみたびエイプリルを救えるのか。終盤で事件関係者に「彼女を救おうとしている」(p.335)と宣言はするんだけど、「何から?」と問われると「わからない」と言わざるをえないような困った状況になってるのに。
どうでもいいけど、スペンサーがスーザンに過去を告白して、
>二十二歳かそこらだったころ、おれはふたりの仲間と一時休暇で日本に行った。巣鴨の近くのホテルに泊まって、一週間、女の子たちを借りきった。(p.63)
って言うところがあるんだけど、これって『愛と名誉のために』の主人公と一緒じゃん、って私はわりと近ごろ読み返したばかりだったので憶えてた。
あまりリアルを追及すると、朝鮮戦争のとき二十二歳だったら21世紀のいまは何歳になってんだよスペンサー? って言いたくなっちゃうけど。

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