いつもは病理診断の意義だの、病理のあり方、なんていう話をいつもしているが、たまには病理医らしく病理診断のことを。
といっても今日は余談の様なお話。
ある方の消化管組織の一部に、こんなものがあった。
うーん、なんだろう。
病理医は、これが何なのか、考える。
まず、人間(この場合、消化管由来)の組織ではなさそうだ。
なぜなら、人間では見ない構造だから。
〇〇だから人間のものではない、というのは難しい。
病理診断は人間にあるものか、ないものか、ということが重要だ。
では?
消化管の中から出てきたものだから、食物だろう。
無機物ではない。
食物ということは、消化されずに残った食物残渣。
肉眼的にはゴマ粒に見えたと、切り出しを担当した先生は言っていた。
内側には細胞壁のような構造が見られる。
植物、おそらく何かの種だろう。
それとも何かの茎の断面の可能性もあるが、内部構造が不明というか空洞になっているので違うだろう。
ということで、こういったことに詳しい知り合いの病理医に相談する。コンサルテーションだ。
残念ながら、その先生も見たことがないという。
パラフィンブロックからDNAを抽出して調べれば、これが何なのかわかるだろうけど、食中毒の患者さんではない、この種(らしきもの)がなんであっても主診断に影響を与えることはない。
こういうもの一粒に対しても調べるのが病理医の仕事だが、今回は、予後に影響を及ぼすことはないだろうと判断して、
「一部に種子様の組織が含まれています。」
と記載するにとどめ、報告書を完成させた。
喧々諤々でした