【オピニオン】ニュートリノが光速超え?アインシュタインは否定される?

 
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ミチオ・カク

  • 2011年 9月 27日  19:17 JST

 アインシュタインが間違っている?そんなバカな!

 先週、アインシュタインの相対性理論が間違いかもしれないというスイスの研究所の実験結果を聞いたとき、世界の物理学者はこう思った。1905年、アイン シュタインが宇宙で光より速いものはないと発表して以来、この理論は現代物理学の礎石となった。多くの最新の研究結果も、これに基づいている。

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CERN

ニュートリノの実験装置の一部

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 もちろん、否定する輩(やから)も多かった。筆者はアインシュタインが間違っているという学者の論文を何箱分も持っている。1930年代には、ナチスが、「相対性理論を否定する100人の専門家」という本を出版した。アインシュタインは、理論を否定するのに100人もいらない、1個の単純な事実があればいいと皮肉った。

 その単純な事実が、スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究所(CERN)が最近発表した世界最大の粒子加速器による実験結果なのかもしれない。

 物理学者のチームは、CERNから454マイル(約730キロメートル)離れたイタリアの研究所に向け、ニュートリノ線を発射した。ニュートリノとは、オバケのような粒子で、どんな密度の高い物質でも透過することができる。彼ら自身も驚いたことに、1万5000のニュートリノの速度を分析したところ、光よりも速かったというのだ。

 光速の壁を破るということは、アインシュタインの主張が根本から覆えることになる。相対性理論では、光速に近づくと、時間の進み方が遅くなり、質量が増大し、平べったくなる(すべて実験室で測られている)。しかし光速を超えると、あり得ないことが起きる。時間が逆戻りし、重量がゼロ以下になり、幅がマイナスになる。こんなことは、ばかげているから、光速を超えることはできないのだと、アインシュタインは言った。

 だからCERNの発表によって、電撃ショックが走った。一部の物理学者は大喜び。新たな物理学の研究の余地、そしてノーベル賞の可能性も広がるからだ。この実験結果を証明する大胆な理論が構築されなければならない。それ以外の学者たちは、現代物理学の基礎を根本から築き直さなければならないと思い、冷や汗を流した。全ての教科書は書き直さなければならず、実験はやり直さなければならない。

 宇宙論、つまり宇宙とは何かをめぐる学問は、今までとは全く違ったものになるだろう。星と星の距離、星雲と星雲の距離、宇宙の年齢(約137億年)は、疑わしくなる。宇宙が膨張しているという「ビッグバン」理論やブラックホールについての理論も計算し直さなければならない。

 さらに、原子物理学についての知見もすべて再検証が必要になる。子どもでも知っているアインシュタインの有名な公式「E=MC2」。これは光速Cの2乗が非常に大きな数値であるため、少量の物質Mが巨大なエネルギーEを作り出すことを示した公式だ。この公式も核兵器や核医療も、放射線を使った年代測定も影響を受ける。すべての核反応はアインシュタインの物質とエネルギーに関する理論に基づいているからだ。

 それどころではない、物理の根本原理が間違っていることになる。現代物理学は2つの原理に基づいている。相対性理論と量子論である。その片方が新たな理論に置き換えられなければならないのだ。わたしの専門の弦理論(粒子をゼロ次元の点ではなく1次元の弦として扱う理論)も例外ではない。弦理論は相対性理論に基づいているのだから、全てが書き換えられる必要がある。

 この驚くべき実験結果は、どのような影響を及ぼすだろうか。米国の天文学者カール・セーガンはかつて「素晴らしい発見は、素晴らしい証明を必要とする」と言った。シカゴ郊外の大型加速器のある米フェルミ国立加速器研究所など世界中の研究所がCERNと同じ実験を試みるだろう。

 筆者の直感に従えば、この実験結果は間違いだ。数十年にわたり、相対性理論を否定する研究は数限りなくあったが、すべて誤りだったことが明らかになっている。1960年代、物理学者は光線に対する重力の影響を測定していた。ある研究では、光の速度は、時間帯によって変わるという実験結果が出た。日中は速くなり夜は遅くなるというのだった。だが、この実験は設備が屋外にあったため、センサーが温度の影響を受けていたことが判明した。

 この実験に対する評価は、これから大きく変動するだろう。しかし最後には、科学が勝つ。石に刻めるような不変の理論などない。科学はある意味、無慈悲だ。宗教や政治と違い、究極的に科学は実験によって決まる。100人の専門家の意見など何の意味もない。実験がすべてだ。

(Michio Kaku<加來 道雄>氏は、ニューヨーク市立大の理論物理学の教授で日系3世。新著に「Physics of the Future: How Science Will Shape Human Destiny and Our Daily Lives by the Year 2100」<ダブルデイ、 2011>がある)

 
 
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