新・ヒット商品の発想&開発方法

ロングセラー商品やヒット商品のアイデア発想と開発方法を探り、未来のヒット商品を生み出す。

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2023年01月29日 | 人気ブログランキング
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ヒット商品⑦~ローソン「バスチー・バスク風チーズケーキ」

2019年11月08日 | ヒット商品
コンビニスイーツ最大のヒット商品になったのが、2019年3月に発売されたローソン「バスチー・バスク風チーズケーキ」である。
発売5日で100万個を売り上げた2009年発売の「プレミアムロールケーキ」の記録を発売3日で突破、5日で182万個を売り上げる驚異のロケットスタートを切った。期間限定品のプレミアムタイプを含めたシリーズ累計は2450万個(9月15日現在)を超えた。
フランス、イタリア、オーストリア、ドイツなどスイーツ美食大国ではない、スペインのバスク地方のローカルチーズケーキが昨年夏頃から専門店で売られているのに着想を得て、コンビニ向けプチサイズに独自開発した。百花繚乱のスイーツ洋菓子の中からヒットの予感を得る”気づき”がもたらしたヒット商品であるとともに、成熟カテゴリーにおいて進化形チーズケーキとして昇華させた商品でもある。
表面が焼きプリンを彷彿させる焦がしキャラメルの「黒い、焦げたチーズケーキ?」に見える外観と「レアでもベイクドでもないチーズケーキ」の新食感を、意表を突く「パッケージ」「商品名」「ロゴ」で戦略的に仕上げた。
斬新で目を引く黄色のパッケージに、中央に「BASCHEE(バスチー)」と表記し、意図的にシズル感を抑えた。パッケージ全体のイメージと「(良い意味で)裏切られた美味しい食感」とのギャップが強烈なインパクトを与え、コンビニ発スイーツ最大のブレイク商品になった。
購入者の7割が女性で、コンビニ来店喚起に繋がったこと、本体価格199円(税込215円)という価格設定はコンビニスイーツ200円台到来を予感させたことなどコンビニスイーツの魅力をパティスリー級に高めた功績は大きい。

閑話休題(Coffee Break)

2019年10月30日 | 閑話休題(Coffee Break)
日本経済新聞社「私の履歴書」2019年9月度は日本発の経営理論「知識創造理論」を世界に普及させた野中郁次郎・一橋大学名誉教授でした。
日本の優良企業のケーススタディをもとにチームでの知識創造・イノベーションの仕組みを理論化したことでも知られています。
「知識創造のプロセスは、ビジョン、対話、実践、場、知識資産、環境といった要素からなる。そのプロセスを実践できるのはフロネシス(賢慮、実践的知恵)を
備えたリーダーシップだ」(9月27日掲載)とあります。
そもそも”場”とは何でしょう。
場とは、「情報と知識をつなぐところで、この場を上手に展開することで単なる情報共有から知識共有と活用に結ぶつく」というとても重要かつ根本的な要素です。
この”場”を意識的に取り組んでいる企業の一つに産業用冷凍機器メーカーの前川製作所があります。筆者はかつて、同社前川正雄会長と野中先生の対談に同席した
ことがあります。経営者と経営学者の白熱した対談は大幅に予定時間をオーバーしました。転換期を迎えた日本企業を場の経営が革新する。良い理論は実践的である。
企業経営、組織、リーダーにとどまらず、個としても多くの示唆を与えてくれたとてもとても貴重な経験でした。

ロングセラー商品⑱~パスコ「超熟」

2015年09月19日 | ロングセラー商品
1998年秋、食パン史上最大のヒット商品と言われるPasco「超熟」が発売された。08年には「超熟」シリーズ全品でイーストフード・乳化剤不使用にするなど、安全安心、健康を意識した進化を遂げている。
敷島製パン(Pasco)は98年初頭、売れる食パンの新商品開発に本格着手。背景にあったのは、山崎製パン「新食感宣言」、フジパン「本仕込み」のヒットによる食パン部門の売上前年割れによる危機感だ。小麦粉本来の風味はもとより、もちっとした食感で毎日食べても飽きのこない「ごはん」のような食パンを目指した。
揺るぎない製品コンセプトに加え、生産工程、配合、コストの常識を覆した商品設計を貫いた。さらに商品名、ロゴ、パッケージ、販売・プロモーションと短期間に商品を昇華させ、前述の2商品の後発ながら、瞬く間に消費者の支持をかち取った。常識を非常識と捉え、開発、生産、販売が有機的に結び付いたことが大ヒットを生んだのだ。
大量生産には不向きとされた小麦粉の一部に熱湯をかけ捏ね上げる湯種製法の採用と、低温で長時間じっくり発酵することにより、もちもち感と小麦粉の自然の甘み味わいを引き出した。何としても量産化をしようとする開発者の強い思いに生産部門のパン職人魂が呼応し、温度設定・管理、時間管理などを独自技術で確立し「超熟製法」が完成した。
新製法を訴求する商品名「超熟」(縦書き)の強いメッセージ性、寒色のブルーを配したパッケージデザインなど既存商品にはない独自性が消費者の期待値を超え、発売2年半後には部門売上ナンバーワンを獲得した。以後も顧客ニーズを起点とするマーケットインを推し進め、超熟ブランドを強固なものにしている。

閑話休題(coffee break)

2014年04月23日 | 閑話休題(Coffee Break)
日本経済新聞「私の履歴書」に連載中の豊田章一郎氏の「レクサス」(本日2014年4月23日掲載)を是非、ご一読下さい。
同氏が社長在任中の1989年に発表した高級車「レクサス」の発売に至る経緯が熱く語られています。
従来のモノ造りの常識への挑戦は、経験則に頼りがちな私たちがともすれば失いがちな姿勢ではないでしょうか。
常識を常識と思わず、常に新たな視点でモノ・事象を見つめ、創造力をはたらかせ、困難にも果敢にチャレンジすることの大切さは、開発マンはもとより、多くの人々に示唆を与えてくれるものです。

ヒット商品⑥~東洋水産「マルちゃん 正麺」

2012年12月10日 | ヒット商品
即席袋麺市場でおよそ40年間、不動の首位だった「サッポロ一番」(サンヨー食品)を抑え、今年首位に躍り出るのが生麺に近い食感を出した東洋水産「マルちゃん正麺」だ。
2011年11月の発売以来、当初見込みの2倍の2億食、200億円を売り上げる大ヒットとなった。
国内の即席袋麺市場は軽食や保存食として一定の市場はあるものの、89年にカップ麺に逆転された後は縮小が進み、今やカップ麺とは2倍以上の差となっている。「サッポロ一番」、「チキンラーメン」(日清食品)、「明星チャルメラ」(明星食品)などの超ロングセラー商品に加え、大手小売りのPB商品や中小メーカー商品などがひしめき、カップ麺とともに特売目玉商品として常に消耗戦を繰り広げている。
ヒットの主因は「これぞ正しい麺、理想のラーメンの完成形」という麺へのこだわりをシンプルかつ分かりやすく伝えたネーミング、5年の開発期間を要した「生麺うまいまま製法」(特許出願中)と名付けた生麺を彷彿とさせる食感の実現だ。割高の価格設定だが、「しょせん即席袋麺だから」という消費者の袋麺に持つネガティブイメージを見事に覆し、想像を上回る即席麺を実現したことだろう。特筆すべきはネーミングの秀逸さだ。麺へのこだわりが強いほどそのことを訴求するために華美なネーミングにしてしまいがちだ。「正麺」とあえて抑えた表現にしたことがより消費者の注目を惹いたと言っていい。
5年の開発期間を要したという麺は、切り出した生の麺をそのまま熱風乾燥した。通常の製造工程にある蒸し工程を省くことでより生麺に近い食感・風味を可能にした。さらに調理時や食べるときにも消費者視点の心憎い一工夫を加えている。鍋に入れやすいように丸い形にしたこと、乾燥する前に一度麺をほぐすことで茹でた時のほぐれ易さを向上し調理時の利便性向上を図ったことだ。加えて女性や子供、高齢者にも食べやすい長さ(25~30cm)に麺をカットすることでより麺の美味しさを実感できるように配慮した。
ともすれば不毛の商品開発になりかねない即席袋麺市場の中で、袋麺の理想形を追い求めた開発者の熱い思いを見事に結実させた商品である。

ロングセラー商品⑰~カルピス「カルピスウォーター」

2012年03月18日 | ロングセラー商品
発売21周年を迎えた「カルピスウォーター」。
爽やかなカルピス菌の風味と”初恋の味”というキャッチフレーズで90年を超えて愛されているロングセラー商品「カルピス」をそのまま飲めるタイプとして発売したものだ。
夏は氷を浮かべてアイスで、冬はお湯でホットでという飲用シーンが定着し、また贈答用としても人気が高かったため、「カルピスウォーター」の発売にはカニ張りを懸念し慎重な意見が多かったのも事実で、難しい決断だった言える。いつでもどこでも飲めるタイプにしただけの商品だから、当然「カルピス」に影響を与えるのは必至だからだ。が発売するや否や、缶・PET・紙容器ともいずれも大ヒットした。しかも「カルピス」ブランドそのものがブラッシュアップし、より強固な支持を得ることにつながったのだ。
「カルピスウォーター」の大ヒットは、当時ライバルメーカーで飲料の開発をしていた筆者にとって衝撃な出来事で、その後の教訓にもなっている。低迷していても確実に売り上げが見込める場合、その看板商品の売上減が懸念される商品の発売は避けるという企業論理思考から脱却して考え、徹底的な顧客視点・起点で商品を作り込あげていくことの大切さを教わった。
ブランドの派生商品が、ブランド全体をより強固なものに変える。加えて、消費者の多様な心理・ライフスタイルを読み解くことの重要性を示唆してくれたロングセラー商品である。

ヒット商品⑤~ヤマサ醤油「鮮度の一滴 特選しょうゆ」

2011年08月07日 | ヒット商品
伝統調味料である醤油を”鮮度”を切り口に開発したのが2009年8月発売のヤマサ醤油「鮮度の一滴 特選しょうゆ」(500ml)である。
醤油の主流形態である1LのPET容器は使い終わるまでに平均1.5カ月程かかる。その間、徐々に酸化が進み、香味は劣化、色は黒色に変色する。開栓後に冷蔵するこだわり派はまだごく少数だ。技術陣には「いかに出来立ての香味のまま届けられるか」という至上命題がある。経時的な劣化を最小限に止め、いかに美味しさを保ったまま提供できるかを原材料、包装容器、充填・製造方法、物流・保管等の全工程においてチェック・改善を常に行っていくのである。
同社は鮮度維持についての研究を発売の7年前より着手しており、5年前に現在の容器の原型に出会った。これまでの概念を覆す商品開発というのは多くの年月を要すもの。容器開発も然りで、「鮮度の一滴」も社内外の英知とパッションの結集が商品化に結び付いたことは想像に難くない。逆止弁の役割を果たす特殊な薄いフィルムを注ぎ口に採用することで容器内に空気を入り込むのを抑えた。また、袋を2重構造にすることで残量が少なくなっても自立できるよう設計した。「常にフレッシュなしょう油が常温保存で味わえる」画期的な商品が誕生したのだ。斬新なデザインに加え、同サイズのPET容器の約1/3の減量化と使用後に小さくたたんで廃棄できるという省エネ・エコ容器も好評価を得た。
Webサイトを中核にした極め細かいマーケティング戦略も奏功した。発売に先立ち開設したWebコミュニティーサイトやバイヤー・MDの要チェック番組であるWBS「トレたま」コーナーでの紹介など効果的なブランディングを行った。また、同社初の新商品発表会の開催やTV‐CMと幅広いマーケティング活動を展開したことで、発売後1年で300万本、7億円を売り上げるヒット商品となった。成熟・縮小市場、しかも量販店特売商材の醤油において新風を巻き込んだ革新型商品である。

ロングセラー商品⑯~カルビー「サッポロポテト つぶつぶベジタブル」

2011年07月07日 | ロングセラー商品
「じゃがいもを丸ごと使った、じゃがいもの味がする商品を作りたい」というカルビー創業者:松尾孝氏の熱き思いを具現化した商品が1972年発売の「サッポロポテト」である。
同社は1969年に「かっぱえびせん」を発売、生のえびを小麦生地に練り込んだ画期的スナックとして「やめられない。とまらない~。」のCMソングと相まって大ヒットした。そして、じゃがいもを使った初めての商品として発売されたのが「サッポロポテト」だ。当初の原料は、小麦粉とじゃがいもを使用していたが、81年に”食べる野菜ジュース”というキャッチフレーズで野菜を配合した。2010年には従来の6種の野菜(ほうれん草、人参、玉葱、トマト、かぼちゃ、モロヘイヤ)に、新たに3種の野菜(赤ピーマン、レッドビート、パセリ)を配合した。
「じゃがいもの味がする商品」というコンセプト通り、飽きのこないあっさりとした塩味とやさしい口溶けがじゃがいもの風味を際立たせた。同社の商品に共通するシンプルな味付けは強烈なインパクトは残さないが、やさしいお袋の味付けを彷彿とさせる記憶に残る美味しさなのだ。ここに世代を超えた多くの人に支持される理由が隠されている。
そして時代の健康志向をいち早く取り入れたのが野菜の配合だった。「かっぱえびせん」のえびの練り込みと同様に見た目にも野菜入りを実感できる配合は秀逸である。赤(赤ピーマン、レッドビート)、オレンジ(人参、赤ピーマン)、緑(ほうれんそう、パセリ)の野菜の顆粒(つぶつぶ)が健康感をさりげなく訴求する。また野菜の千切りを思わせる形状は食べやすく、乳幼児のスナックとしても安心して与えられる。
味覚の評価として「パンチがある、ない」という表現が使われ、安易に刺激を追い求めることが記憶に残ると思いがちだが、同商品は素材を生かすこと、視覚的にアピールすること、時代のトレンドに合わせることをさりげなく問いかけることの大切さを教えてくれている。

ロングセラー商品⑮~アサヒ飲料「三ツ矢サイダー」

2011年04月30日 | ロングセラー商品
1884年発売の天然鉱泉水「三ツ矢平野水」をルーツに持つのがサイダーの代名詞であるアサヒ飲料「三ツ矢サイダー」だ。誰もが少年少女時代、その爽やかな喉越しに魅了された、言わずと知れた国民的飲料だが、1990年代半ばに入ると健康志向の高まりから、サイダーを含む炭酸飲料は”高カロリー”と敬遠され縮小していく。
時あたかも500mlPET容器の自主規制が緩和されて、容器の主流は缶からPET容器(小型・大型)にシフトした。商品カテゴリーも健康志向、リキャップでき携帯性に優れるというPET容器の優位性に適した、経時的に味覚変化の少ない茶系飲料が主役となっていく。そうした中、炭酸飲料で伸長していたのは、カロリーオフという新しい切り口で様々な高甘味料を使用することで製品の完成度を高めていたコーラ飲料だけである。
「三ツ矢サイダー」は120余年という年月とシンプルな商品設計ゆえ、斬新な展開ができず、乳性や果汁入りなどの小手先のトライに終わっていた。炭酸飲料にとって失われた10年だったと言っていいだろう。
長い歴史と伝統、ガリバー商品だった過去の成功体験が商品開発の本質を鈍らせることがある。自戒を込めて言うと、ベテラン開発マンほどこのことを肝に銘じなければならないのだ。そして再び世代を超えて心を掴むことになったのが「三ツ矢サイダーオールゼロ」であった。自然の甘みに近い高甘味料の開発により実現したと言えるが、顧客が求めていたのはコーラ飲料と同様に”カロリーゼロ・オフ”だった。”高カロリー”というネガティブイメージを払拭することをピンポイントで狙えば良かったのだ。「三ツ矢サイダー」は今や高甘味料を使用することで、その爽快感とカロリーオフで市場を牽引するばかりか、その長い年月で得た絶対的信頼感と安心感が再びブランド力を強固にし国民的飲料の地位を不動のものとしている。

ロングセラー商品⑭~山崎製パン「ランチパック」

2011年03月19日 | ロングセラー商品
手軽に持ち運べて、食べやすい元祖”携帯食”が1984年発売の山崎製パン「ランチパック」である。定番のジャムやクリームはもとより、惣菜に至るまでさまざまなフィリング(具材)をサンドした菓子&惣菜パンで、今やご当地(地域限定)商品を含めると約60アイテムに上り、約3億7000万個を売り上げるガリバー商品だ。
年間50アイテムを発売するが、発売以来変わらぬ人気No.1が「ピーナッツ」で、以下「たまご」「ツナマヨネーズ」とベーシックな商品が続く。ヒットの主因は、”中身の具材がこぼれにくい、適度な厚みで食べやすい、手を汚さずに食べられる”という利便性だ。加えて、中身はシンプルでもガッツリ系具材でも、サンドイッチ感覚でちょっとお洒落で小粋な食シーンを演出してくれる要素が女性からの支持を得た。「忙しくてゆっくり食事はできないが、ちゃんと栄養は補給し美容・健康を気遣っています」というメッセージがイケてる女性を醸し出すのだ。また、毎月ご当地商品を含めた新商品を絶えず投入することで話題性や次いで買いを促し、シリーズの陳腐化を防いでいる。商品コンセプトとマーケティング戦略は菓子パン市場随一で、進化するロングセラー商品の代表格と言っていい。
具材の水分・油分がパン生地に染み込むのを防ぐためのキメ細かい専用食パンの開発、食パンのスライスから個包装まで1分40秒間のフレッシュ製法、包装時にエアーを注入し型崩れを防ぐなど”美味しさ”を裏付ける品質設計も見逃せない。


ロングセラー商品⑬~江崎グリコ「ポッキー」

2011年02月19日 | ロングセラー商品
昭和41年に発売された江崎グリコの看板商品「ポッキー」。35年発売のスティック菓子「プリッツ」にビターチョコレートをコーティングした姉妹商品である。
ヒットの主因は、チョコレートを手を汚さずに指でつまんで食べられる手軽さ、「プリッツ」の香ばしさ・食感とチョコレートを同時に楽しめる絶妙のバランスにある。誰もが食べたことがある国民的菓子の代表格だが、商品設計(味覚)の完成度の高さは他を圧倒する。”商品力”が、数多のミート商品を寄せ付けないばかりか、逆に同商品の美味しさを際立たせガリバー商品としての不動の地位を築いたのである。その後、ムース系などのヒット商品を派生していることがそのことを裏付けている。
「プリッツ」の香ばしいロースト感に負けないチョコレート感を醸し出すためにカカオを深焙焼し、「プリッツ」の香ばしさと食感を失わないチョコレートのコーティング技術が、”ポキッ、ポキッ”という心地良い音感と程良い食感を生みだした。まさに五感を訴求した商品である。付言すると、”甘さは旨み”といわれる中、甘さ控えめのビターチョコレートは、素材の良さ所以であり、より幅広い顧客層に支持されることに結び付いたのだ。
百花繚乱の菓子市場、洗練された商品も上市され嬉しい限りだが、少子化によるパイの食い合いなどネガティブ発想があるのも事実。菓子類に限らず、ロングセラー商品が示唆しているのは、”付加価値とはあれもこれもと価値を加える(足す)ことではない”ということだ。シンプルに、研ぎ澄ますこと。「ポッキー」はそのことを教えてくれている。

ヒット商品④~キリンビバレッジ「午後の紅茶 エスプレッソティー」

2011年02月05日 | ヒット商品
「午後の紅茶」のプレミアム商品として2010年2月に発売されたのがキリンビバレッジ「午後の紅茶エスプレッソティー」である。
同シリーズは缶紅茶が主流だった1986年に1.5L容量のPETボトル「ストレートティー」で発売、以来4半世紀に渡り”午後ティー”の愛称で親しまれ、紅茶飲料において不動の地位を築いているロングセラーブランドだ。
PETボトルの製品化にあたっては、クリームダウン(紅茶の白濁)や澱の技術的問題をクリアアイスティー製法で解決、甘みを抑え茶葉本来の香味を大切にしたことで多くの支持を得た。以後、ミルクティーやレモンティーをラインナップしたが、ストレートティーが変わらぬ一番人気である。
とはいえ、あくまでも他の清涼飲料に比べると紅茶はニッチ市場。しかも他の茶系飲料のように健康志向は謳えない。バリエーションの手詰まり感にあえぐ中、08年9月に発売した「茶葉2倍ミルクティー」が割高にもかかわらずヒットした。同じ嗜好飲料のコーヒー飲料ではプレミアムタイプの190g缶やカップチルドがCVS等で活況だった。筆者もコーヒー・ココア・紅茶飲料の開発時、フレーバーティーなどに着手したが新機軸の商品アイデアはなかなか浮かばず苦労した。
同商品が秀逸なのは、コーヒーではごく当たり前ののエスプレッソ製法を茶葉に応用したことだ。開発者が陥るのが、歴史や伝統、産地や製法を学んでいくうちに俄か専門家になり発想の視野が狭まることだ。エスプレッソ製法は、良質なコーヒー豆でなくても高温・高圧の抽出方法により美味なコーヒーを抽出ことができるもので、「良質な茶葉を使えばエスプレッソ抽出など不要、よってこのアイデアは邪道」となりがちなのだ。
紅茶とエスプレッソ抽出のコラボが生む”味への期待やワクワク感”とTVCMの”茶葉の旨みがギューー、ミルクの旨みがジュワーー”といった強烈なインパクトと話題性が、新たなユーザーを缶紅茶に引き込んだ。加えてこれまでの缶コーヒーのヘビーユーザーも取り込んだことが大きく、当初の年間販売販売目標の100万c/sを2カ月半で達成、300万c/sに上方修正するヒット商品となった。自戒を込めて言うと、商品企画には”常に常識を捨てた柔軟な思考・発想が求められる”ということだ。

進化するブランド企業①~「日本ケンタッキー・フライド・チキン」

2010年07月02日 | 進化するブランド企業
「フライドチキン」という言葉や骨付きチキンを手で食べる風習もまだなかった1970年7月、三菱商事と米国KFCの折半出資で設立、同年11月に名古屋に1号店をオープンした。
今年で40周年を迎え、売上高986億円、チェーン数1137店に上る日本有数のFFチェーンとなったが、当初3年間は不振が続いた。売上低迷により1、3号店を閉店するなど、コンセプトの変更を余儀なくされた。車社会の米国に倣った大型の郊外立地型店舗を改め、日本の実情にあった繁華街立地型の店舗開発やコンパクトな厨房設備を開発を進めることで、100店舗を超えた4年目から軌道に乗った。
ただ成功の主因は、何より創業者のカーネル・サンダース(本名:ハーランド・サンダース)の「新鮮な素材を使って、心を込めた手作りの食事を提供する」という哲学を忠実に守ったことだろう。国内約320カ所のKFC登録飼育農場で飼育された生後40日目の「ハーブ鶏」、11種の秘伝のスパイス、100%植物油を使い、専用圧力釜で185℃・約15分の高温加圧調理する「オリジナルチキン」は、家庭では味わえないジューシーな美味しさが多くの消費者に受け入れられた。
さくさくクリスピーチキンをトルティーヤでくるりと巻いたツイスターやノンフライのローストチキンなどのチキン関連商品はもとより、”クリスマスはケンタッキー”というクリスマス需要を当て込んだパーティバーレルなどでパーティー需要を開拓したマーケティング戦略も奏功した。
また、店舗前で微笑みかける白いスーツ姿の「カーネルおじさん」の立像設置は、日本発であることも見逃せない。米国視察中に日本KFCの幹部が見つけ、原型を持ち帰り、現在の立像を制作したのだ。フライドチキンに馴染みの薄かった日本で「カーネルおじさん」のこだわりを訴求するのに多いに貢献したことは言うまでもない。
フレッシュチキンを独自のスパイス・調理法で提供する商品設計、日本型店舗開発・店舗設計により、今や105カ国・地域で15500店舗を超えるKFCの中で、日本は米国、中国に次ぐ店舗数にまで成長した。
3度来日した創業者カーネル・サンダースは「日本のKFCが一番気に入っている」と言った。「私の考えた通りのやり方を守り、かたちを受け継いでくれている」ことを評価した。フランチャイズビジネスはマニュアルに基づくシステムビジネスだ。それゆえ理念を忠実に実行し運営管理することが重要になってくる。理念は「FHH&H」(Fresh、Healthy、Handmade&Hospitality」、それを評価・改善する「CHAMPS」システム、1年毎に実技審査する調理ライセンスなどで具現化している。
他のFFとは一線を画した独自戦略は不変だろう。FF業界を越えたFR、スーパー、コンビニなどとの競合は必至である。創業者カーネル・サンダースの想いを大切に「おいしさ、しあわせ創造企業」として挑み続ける。


ロングセラー商品⑫~明治製菓「チェルシー」

2010年06月23日 | ロングセラー商品
「今までにない美味しいキャンディー」を探し求めて、英国スコットランドに古くから伝わるコクのある濃厚なスカッチキャンディーに着目したのが、発売39周年を迎えた明治製菓「チェルシー」である。
滑らかで飽きのこない濃厚な美味しさはもとより、「あなたにも分けてあげたい もひとつチェルシー」というCMソング、愛らしく英国風の高級感をもつネーミングとパッケージが「チェルシー」のもつ世界観を一体化した。「幸福感」が口の中に広がる”食の本質”を究めた商品であると言っていい。
特筆すべきは、練り合わせた原料をそのまま型に流し込む日本発の「流し込み」製法を採用したこと。これにより、滑らかさは向上し、バターの含有量を増やすことができた。また高級バターの代名詞である発酵バター(クリームを乳酸菌で発酵させたバター)を用い、芳香な香味を醸し出した。妥協せぬ品質設計と製法が、発売以来変わらぬ「バタースカッチ」「ヨーグルトスカッチ」の2つの味を生み、現在も世代を越えて愛されている。
黒を基調に可愛らしい花柄をあしらった窓開きのパッケージと、そこからから覗く、同じく花柄をあしらった紙包みも上質感があり秀逸だ。女性を意識した商品開発であるが、男性層にも幅広く支持されていることも見逃せない。