Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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R.I.P.(安らかに眠れ),FTDP-17

2018年02月15日 | その他の変性疾患
【FTDP-17とは】
Frontotemporal dementia with parkinsonism-17 (FTDP-17) は,1996年に開催された初めてのFTDPの会議で,遺伝性家族性前頭側頭型認知症・パーキンソニズムにつけられた名称である.原因遺伝子座が第17 番染色体に連鎖するため,名称に17がついた.常染色体優性遺伝形式で浸透率は高い.1998年,タウ(microtubule-associated protein tau:MAPT)遺伝子の変異が同定された.病理学的には脳内にタウ蛋白が異常に蓄積するタウオパチーであった.

【FTDP-17の概念の混乱】
しかし2006 年,FTDP-17の半数の家系は,MAPT遺伝子とは異なるprogranulin(PGRN)遺伝子に変異がみられることが明らかにされた.つまり偶然,17番染色体に存在する2つの原因遺伝子がFTDPを引き起こしていたということになる.臨床的には両者は似通っているが,病理学的には異なり,PGRN変異ではタウの異常蓄積はみられず,ユビキチン陽性,TDP-43陽性の封入体を認める(TDP-43 proteinopathy).さらにMAPT遺伝子変異を認めるものの,パーキンソニズムがみられない症例も報告され,FTDPとは言い難くなった.以上のように,FTDP-17という疾患概念に混乱が生じたが,その名称は20年にもわたり放置された.FTDP-17は,その名称を見て原因遺伝子が分からないだけでなく,蓄積する蛋白も何であるのか分からない.これに対し,孤発性ではFTLD-tauとかFTLD-TDPのように蓄積蛋白が分かり,さらにその下位の病理サブタイプもピック病(PiD),進行性核上性麻痺(PSP),大脳皮質基底核変性症(CBP),globular glial tauopathy(GGT)と分類されている.

【MAPT変異例は孤発性のタウオパチーと臨床的に対応するか?】
パーキンソン病やALS,痙性対麻痺,脊髄小脳変性症など多くの神経変性疾患では,遺伝子変異と臨床像の対応が詳しく議論され,原因遺伝子(産物)の検討が,孤発例の病態解明に有益であった.しかしタウオパチーにおいては,FTDP-17の存在のため,それができなかった.しかし一部のMAPT遺伝子変異例はFTLD-tauと病理学的に共通することが報告され,両者は関連する可能性があるが,多数例での検討はなかった.このため,オーストラリアと英国の共同研究チームは,ブレインバンク登録症例を用いた多数例で,MAPT変異例が特定の孤発性のタウ病理サブタイプと対応するかを検討した.

【方法】
Sydney and Cambridge Brain Banksに含まれていたMAPT遺伝子変異をもつ10例を病理学的に評価し,孤発性FTLD-tauの4つの病理サブタイプ(PiD,CBD,PSP,GGT:各N=4)と比較した(既報例とも比較した).MAPT遺伝子変異はK257T, S305S, P301L, IVS10+16, R406Wの5つで,それぞれがどの病理サブタイプに合致するかをAT8(リン酸化タウ),3Rタウ,4Rタウに対する抗体を用いて検討した.

【結果】
孤発例と比較すると,MAPT遺伝子変異例は,平均罹病期間は同程度であるが,発症年齢は若かった(55 ± 4 歳対70 ± 6 歳).つまりMAPT遺伝子変異は発症年齢に影響を及ぼすことが分かる.またMAPT変異を有する10例は,孤発性FTLD-tauの病理サブタイプと類似の所見,すなわちPick body, astrocytic plaque, tufted astrocyte, globular astrocytic inclusionを呈し,また重症度も類似していた.具体的には,K257Tは Pick病,S305S, IVS10+16, R406WはCBD,S305SはPSP,P301L, IVS10+16はGGTを呈した(図A).S305S変異が2つのタウオパチー(PSP/CBD)を呈したこと,またIVS10+16がバンク例で2つ(CBD,GGT),既報例を含めると3つのタウオパチー(CBD,GGT,PSP)を呈したことは,MAPT遺伝子以外に,さらなる修飾因子が存在する可能性が示唆された.

既報例の検討では,タウ・スプライシングを決定するエクソン10およびイントロン10の遺伝子変異で,複数の病理サブタイプを呈していることが分かる.つまりエクソン10とそれ以外の遺伝子変異ではかなり病態が異なるものと考えられた.
     
【考察】
本研究は,異なるMAPT遺伝子変異が,それぞれに対応する,異なる病理サブタイプを呈することを示した.このことは遺伝子変異の検討が孤発性FTLD-tauの異なる病型の病態機序にヒントを与える可能性を示唆している.つまり,MAPT変異例は,FTDP-17という独立した分類にするのではなく,孤発性FTLD-tauサブタイプの家族例として考えるべきである.今後,動物モデルや細胞モデルを用いて,各遺伝子変異が異なる孤発性病理サブタイプを生み出す病態機序について明らかにする必要がある.

【本研究の限界とタウPETによる検討】
本研究は,既報例を引用しているものの,症例数が10例と必ずしも多くないこと,蓄積したタウのタイプのバランスが分かりにくいという問題がある.すなわちタウにはアルツハイマー病(AD)でみられる3R/4Rタウや,PSP/CBDでみられる4Rタウ,PiDでみられる3Rタウがある.罹病期間の長いCBDでは3Rタウも蓄積するという報告もある.この問題に答える研究がごく最近のNeurology誌に報告されている. MAPT遺伝子変異例13例を含むタウPETの研究である.AD typeの3R/4R tauを認識するtau PETである18F-AV-1451 PETの検討である.

AD患者,コントロール,MAPT変異例でPETを行なうと,AD>エクソン10以外変異>エクソン10変異>コントロールの順にタウの蓄積が認められた(図B).上述のとおり,エクソン10はタウのスプライシングに関与し,3Rと4Rのバランスを決定している.つまり,エクソン10以外に変異がある症例では,3R/4R tau(AD type)が増え,エクソン10に変異があると4R tauが優位に増加する.このため,AV-1451 PETではエクソン10変異では4Rタウが主体になり,タウの集積は目立たない.つまりMAPT変異の種類により,蓄積するタウの種類が異なることがPETの検討から分かる.このようにMAPT遺伝子変異は蓄積するタウのタイプを変えることで,病理サブタイプ,ひいては臨床像を変えるものと考えられる.家族例の病態の理解が,孤発例の理解の近道になるのだろう.


Forrest SL et al. Retiring the term FTDP-17 as MAPT mutations are genetic forms of sporadic frontotemporal tauopathies. Brain. 2018 Feb 1;141(2):521-534. doi: 10.1093/brain/awx328.

Jones DT et al. In vivo 18F-AV-1451 tau-PET signal in MAPT mutation carriers varies by expected tau isoforms
Neurology 2018 on line(DOI: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000005117)






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