Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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くも膜下出血を見逃さないために (第42回日本頭痛学会)

2014年11月15日 | 頭痛や痛み
第42回日本頭痛学会@下関に参加している.頭痛診療は非常に難しいが,その頭痛診療に関する知識をアップデートできる臨床に役立つ学会である.今年は国際頭痛分類第3版β版の日本語版が発表されたことや,抗CGRP抗体が予防薬として有望であることが報告されたことが大きなトピックスであった.いくつか興味深いシンポジウムがあったが,「頭痛診療のヒヤリハット(医療安全)」という特別企画はとくに関心を持って拝聴した.いくつかのトラブルになった事例が紹介されたが,頭痛診療においてしばしば診断が難しく,かつ患者さんの命にかかわる「くも膜下出血」が詳しく議論された.ここではそのエッセンスを紹介したい.

まず大事なことはクモ膜下出血について正しく知ることである.命にかかわる頭痛を見逃さないため,一般の方々も常識として「クモ膜下出血は,これまで経験したことのない突然の激しい頭痛で発症する」ことを知る必要がある.そして大至急,病院を受診し,これまで経験したことない頭痛であることを伝えなければならない.しかし例外もあることから,当然,医師はより詳しい知識が必要である.以下,診断のポイントを列挙する.

【1】これまで経験したことのない突然の激しい頭痛で,悪心・嘔吐を伴うことが多い.
【2】出血が少量の場合には,頭痛は軽度のこともありうる(20%程度が該当).突然発症でない症例もありうる
【3】発症当日に診断がつかない症例が30%程度ある.その原因は診断の遅れと,発症当日に受診していない患者もいるためである.病院に歩いて来院する患者もいる(先輩から,てくてく歩いてくる症例もあるという意味で「てくてくサブアラに注意!」と教わった).
【4】項部硬直を認める.しかし発症早期には認めないことがある.
【5】一過性の意識消失発作を伴う場合には積極的に疑う.
【6】視力障害を伴う頭痛では積極的に疑う(硝子体出血:Telson症候群という).
【7】頭部CTでは高吸収域として,MRI-FLAIR画像では高信号として検出される(FLAIRは冠状断が有用).CTは感度93% 特異度100%.しかし,発症から時間がたった症例では,感度,特異度は低下する.
【8】画像検査が正常であっても,症状から疑われる場合には,腰椎穿刺を行う.血性髄液やキサントクロミーで診断される.しかし,発症12時間以内はキサントクロミーにならない.
【9】一側の動眼神経麻痺は動脈瘤の切迫破裂を疑う.

さらに診療のトラブルを避けるための,過去の訴訟例についても検討が行われた.診療上重要なことを列挙する.
【1】問診をしっかり行い,かつカルテにきちんと記載する.とくに発症様式と性状が重要である.症状が非典型的(軽症)であった場合でも,カルテ記載が不十分な場合,訴訟になりうる.
【2】看護師がとった問診票にも十分目を通し,重要な点は自ら問診し直す.自身の問診結果が問診票と異なる場合にはその旨も記載する.
【3】陰性所見もカルテに記載する.
【4】鑑別診断に対しても問診,診察を行う.
【5】典型例や疑われる例に対しては画像検査をすみやかに行う.検査を勧めて断られた場合はその事実も記載する.
【6】髄液検査に関しても説明を記載する.

最後にクモ膜下出血をめぐる大阪地裁平成15年判決を紹介する.「患者は自らの抱えている問題点に関して,気づいていないことや,うまく表現できないことがあり,またくも膜下出血による頭痛の特徴が発症の突発性・持続性であることを認識していないこともありうるため,自己の症状を的確に表現できない可能性があるにも留意する必要がある」.多忙を極める外来でも,常にクモ膜下出血は念頭において診療する必要がある.
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