自民党の改憲案と言えば、憲法9条改悪や緊急事態条項の創設の危険性について主に書いて来たのですが、本日2018年2月17日に自民党で了承されたという、参議院の「合区解消」を大義名分とする選挙区制度に関する自民党改憲案がひどすぎて、目を疑いました。
合区とは、たとえば、島根県と鳥取県の人口が少ないのでこれを合わせて一つの選挙区として、一人しか議員が出ないような状態を言います。
もちろん、それぞれの都道府県から国会議員が出る方が望ましいとは言えますが、全国民一人一人の一票の価値の格差がないという投票価値の平等の方がはるかに重要なのは明らかであり、人口の少ない自治体を合区することもやむを得ないところです。
とりあえず、自民党の憲法47条「改正」案を見てみましょう。
これまでの憲法47条は
1 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又(また)は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも一人を選挙すべきものとすることができる。
2 前項に定めるもののほか、(選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
となっています。1項の後半に書いてあるのが、いわゆる合区解消ですね。
さて、これのどこがひどいかというとですね、選挙区を設ける時に、人口比以外に、
1 行政区画
2 地域的な一体性
3 地勢
等を総合的に勘案するとしているので、有権者一人一人の一票の価値が平等=議員一人当たりの有権者の人口が平等、であるという投票価値の平等が大きく後退していることなんですね。
むしろ、合区禁止が憲法上の要請となるのに、投票価値の平等は憲法上の要請とは言えなくなってしまっています。
最近、やっと投票価値の平等を求める運動の成果で、たとえば衆議院選挙なら1対2以上の投票価値の格差があると、1人が2票を持っているも同然ですから、違憲ないし違憲状態という判決が出るようになってきました。
2012年12月の衆議院総選挙に関する高裁判決
ところが、上記の自民党案のような改憲がなされてしまうと、人口以外の要素が憲法上議員定数を決めるにあたって考慮できるという言い訳がまかり通りますので、もう厳密に有権者の人口比で選挙区割りをしなくていいということになってしまいます。
したがって、二度と、議員定数不均衡、投票価値の不平等ということで違憲判決なんて出ないことになります。
自民党の狙いはまさにそれで、これからは選挙区割りを決める時に、人口比なんて二の次に出来るようにしようというのがみえみえです。
そもそも、投票価値の平等は、法の下の平等以前に、憲法13条の個人の尊厳を根拠にしています。つまり、人はそれぞれ最高の価値を持っているので、おのおのが有する選挙権の価値もまた平等でなければならないという思想が、投票価値の平等の背景にはあるのです。
自民党の合区解消を名目とする改憲案は、自分たちの選挙の都合を優先して、主権者の個人の尊厳を踏みにじるものとなっているのです。
これは、9条改悪や緊急事態条項創設に匹敵する大改悪と言えるでしょう。
もう一つ言うと、憲法43条は国会議員を、「全国民の代表」としています。
選挙区割りはあっても、選ばれたからには国会議員は全国民の代表であって、都道府県の代表ではないのです。
合区解消を優先して各都道府県から必ず議員を出すという自民党の合区解消優先改憲案は、まさにこの全国民の代表であるという国会議員の性格に真っ向から反します。ちゃんと憲法を勉強していないことがはっきりわかる改憲案です。
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自民党は十六日、党憲法改正推進本部の全体会合で、参院選「合区」解消のための改憲条文案を了承した。九条への自衛隊明記など改憲四項目のうち、具体的な条文案で意見集約に至ったのは初めて。年内の国会発議を目指し、四項目の議論を加速させたい考えだが、現段階で他党の理解は広がっていない。この日了承された条文案も、憲法一四条に基づく「一票の平等」などとの矛盾が指摘されている。(中根政人)
条文案は、「選挙に関する事項は、法律で定める」とした現行の四七条を加筆する形。国政選挙で選挙区の定数を決める際、人口以外の要素も勘案する規定や、参院選で「広域の地方公共団体」を選挙区とする場合「各選挙区において少なくとも一人を選挙」できるとの規定を追加。九二条も見直し、「広域の地方公共団体」が都道府県と読めるようにする。
これにより、都道府県ごとの選挙区で「一票の格差」が拡大しても、「違憲」や「違憲状態」と判断されにくくなることを期待している。全体会合では大きな異論はなく、条文案を了承。最終的な文言調整を含め、今後の対応を細田博之本部長に一任した。
合区解消は、改憲四項目の中でも党内で異論が少ない。まとめやすいテーマから先に進め、意見集約が順調に進んでいると印象づける狙いがあるとみられる。三月二十五日の党大会をめどに、四項目について党の改憲案を示したい考え。
◆公明は疑問視
自民党憲法改正推進本部が了承した参院選「合区」解消のための条文案は、人口に基づいて国政選挙の「一票の格差」を是正してきた従来の原則を転換する狙いがある。投票価値の平等を求める憲法一四条や、国会議員は「全国民を代表」する存在とした四三条との矛盾を指摘する声がある。
条文案では、地方の声を国政により反映させるとの理由で、参院選挙区を事実上、都道府県単位とする。格差拡大につながりかねないが、一票の平等を求める一四条は維持される。岡田直樹・同本部事務局長は「(一票の平等の)適用除外のような形」と説明する。
だが、公明党の北側一雄憲法調査会長は十六日、「(国政選挙に関する事項を定めた)四七条を触るだけで『各都道府県から議員を出していい』というのはどうなのか」と疑問視。積極的に賛成する声は他党から聞こえてこない。法改正で対応可能との意見も強い。
参院議員を各都道府県から一人以上選べば「地域代表」の性格を帯びる。だが四三条は見直さない。ここは参院の権限縮小ともかかわるデリケートな論点で、議論を避けたといえる。岡田氏は「全国民の代表であることは紛れもない事実」とするが、生煮えのままで条文化した感は否めない。
自民党が強い地方の参院選挙区で、定数を増やすための「党利党略」との批判もある。 (生島章弘)
<憲法14条> すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。(2項、3項略)
<憲法43条> 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。(2項略)
毎日新聞2018年2月17日 東京朝刊
参院選の「合区解消」のために自民党憲法改正推進本部が16日にまとめた改憲条文案には、人口だけを基準とする衆参の選挙区の区割り方法を変更する狙いが鮮明だ。地方の民意を「1票の格差」是正より優先する姿勢で、「国民は、法の下に平等」と定める憲法14条から導かれた「投票価値の平等」が揺らぎかねない。公明党でさえ冷ややかで、実現性は薄い。
推進本部の全体会合で、細田博之本部長は「合区した参院は大変な苦労があった。それを何とか変える根拠を作っていく」と条文案の趣旨を説明した。出席議員からも「現行の選挙制度では、都市部だけ定数が増えていく」などと支持する意見が相次ぎ、異論がほぼないまま会合は終わった。
自民党には2016年参院選から導入された合区への不満が強い。同党の支持基盤が強い改選数1の「1人区」の減少に直結するためだ。地元の鳥取県が合区対象となっている石破茂元幹事長も自衛隊明記を巡る項目などと違って執行部の方針を評価。「投票価値の平等は人口比だけで決まるものだろうか。森林や原野があり、国土保全上極めて重要だとか、平等と言うときに人口だけでは決めきれない」と記者団に語った。
だが、今回は党内の要請に応えることを急ぐあまり、多くの課題に目をつぶったとの指摘を免れない。14条に基づく「投票価値の平等」との整合性のほか、国会議員を「全国民の代表」と規定した43条と、参院議員が「都道府県代表」の色彩を帯びる条文案の整合性も問われることになる。
条文案は、衆院の区割りへの適用も意識している。衆院選挙区の区割りは、格差「2倍未満」を維持するためにたびたび変更されている。長年付き合ってきた支持者や自身の自宅が選挙区外になったりする区割り変更の頻繁さへの不満は、自民党以外の衆院議員や、変更対象選挙区の有権者にも強い。この項目によって、他党を議論に巻き込む思惑もありそうだ。
他党の賛成皆無
ただ、他党の賛成は皆無だ。公明党の井上義久幹事長は16日の記者会見で「1票の価値の平等が最も重要な、選挙制度の基本ではないか」と疑問を呈した。共産党の笠井亮政策委員長は「民意を切り捨てる定数削減を強行する一方で、合区ができたら憲法に手を付ける。党利党略以外の何物でもない」と批判した。【小田中大、水脇友輔】
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ものものしい文言並べ立ててさも自分たちは建設的に憲法をよくしたいとアピールしている。
選挙の度に伊藤塾の先生たちにやられる『一票の格差』訴訟等がいやでいやで仕方ないのかもしれない(笑)。
ろくでもない現行制度とはいえ小選挙区の区割・投票格差を正す線引きを徹底的にやりもしないで今度は憲法でご都合主義を固定化か?
底抜けな厚かましさとはこのことだ。
しかしながら、ここで教科書的に選挙制度は比例代表制度中心がよい等と主張したところで現行制度で勝ち進んできた圧倒的多数派の国会議員どもが言うことに耳を傾ける筈がない(笑)。
だからまずは月並みだが、奴らが怠けていることから批判するのがある意味で『感情論』としても有効かもしれない。
自民党の手口は安倍もそうだが、理屈や道理よりもロマンだの感情に訴えるのがお馴染みでアホらしくなるが、だからといってこれを軽んじるのは賢くはないかも。
合区に対する選挙民感情に訴えつつ、さも自分たちは頑張って具体的案を明示したと演じているのが自民党だ。情に訴え改革を演じ、批判をすれば守旧派・非生産的と印象操作をメディアも絡めて責め立てる。さて、どうするか?
私は今回の更新で軽く紹介された現行憲法条文をシンプルに唱えつつ、一票の格差を正確に正す不断の努力をやれ!と自民党にぐさりと釘を打つのが護憲派の策だと思う。
眼前に在る一票の格差問題ひとつすら圧倒的多数派を形成しておてお茶を濁すオマエラこそ、
守旧派であるとある意味で逆手に取るのも策だろうか。もっとも比例代表制度ならそんな格差でひどい苦労はないだろうけど(笑)。
以上、小選挙区なんて民意を歪める旧世紀というか『制限選挙時代の遺物と因習』でしかないと思っている私の雑論でした。
多数派形成しておて
➡形成しておいて
ですね。
オマケ
最近コンビニでマジンガーZの漫画を見かけてたが、背表紙のDr.ヘルを見た瞬間、つい篭池主人を連想してしまった。
『我々には帰るところがない』と悲壮な最期を遂げたヘルさんと自宅を競売にかけられた篭池の旦那がかぶってしまった。
滅びるのはいいけどさ、感情論として『も』やっぱりおかしいよな。螳螂之斧、侮る勿れ。
確定申告が安倍政権の斜陽の始まりとなるかどうか、かな?
アホの頭でも、新聞で読みブログで読むと印象に残りますね。
他党の賛成皆無、ねぇ・・・
どうせ公明と維新のはポーズじゃろうて。交渉するふりをして容認に転じるのさ。
こうやってゲス下郎どもがどんどん壊憲壊国を進めていく。
まあ労働法改正の本丸が高プロより裁量労働制の適用拡大だったのと同じく(もちろん両方成立させられれば濡れ手に粟だ)、改憲の本丸も9条や合区解消より緊急事態条項だろうと思っています。
もちろん、全部成立させられれば望外ですけど。
辺野古でも使ったじゃないですか。
“ 争点隠し ”
そう!
それよ!!
緊急事態条項のことは、「触れない」「書かない」「語らない」なのでは?
成立すれば私権制限やり放題、生涯議員、法律自分らで作り放題だもんね ♡
やだア!!!!!!
知ってる事を自分の将来に置き換えて
真剣に考えよう。
あの放送も何処か自民よりな放送だったが
国民投票の危険さとか専門家でも無い国民の多数決だけで改憲を考えて良いのか?みたいなことを言っていたが…
自衛隊の明記や緊急事態条項、教育改革、そして、この記事の選挙問題
全て自分達の延命しか考えてないし、自分達の良いように人作り?道徳?銃剣道?
戦争に参加できる国?
この政権は芯から壊さなければならないから!
日本国民は、日本国の何処に住もうと平等に幸せに成る権利が在る筈です!
合区に成れば、空恐ろしい広い地域に国会議員は一人しか居なく成り、その地域に住んでいる国民の抱える問題は中々国会議員に汲み取って貰えなくなる!
貴方は、地方に住んでいる国民に対して、物凄く冷酷な物言いをしている事に気付いて居ないのではないのでしょうか?
それとも、幸せに成る資格の在る国民とは、都会に住んでいる国民のみで、田舎に住んでいる国民は幸せに成るなる資格は無いのでしょうか?
なんか、中国みたいで、人間扱いされるのは、都市戸籍を持っている住民で、農村戸籍を持っている住民は人間扱いされて無いのとそっくりです。
都会人の事しか考えない、一部の弁護士は異常だと思います。
それに比べれば、自民党議員は、凄くまともです!
と、記事に書いてありますでしょ。
田舎で選ばれた国会議員であっても、都会も含め全国の問題を考えるのが仕事です。