ある中学校の話です。


貧しい家の男の子が入学してきました。


両親が離婚。


母親と二人暮らしをしていました。


母親は病気がちで入退院を繰り返していました。


そんな中、無理をして夜の仕事をしていると聞きました。


どうやら借金があるらしく、生活は相当苦しいようでした。


小学校の校長先生から、入学前に中学校へ家庭の状況の報告がありました。


中学校では、できるだけ気配りをしたいと思い、一番面倒見の良い先生が担任するクラスに入れることにしました。


しかし、働き手の父親がいないこと。


さらに著しく貧しいことから、かなり素行が荒れていました。


乱暴まではしないものの、茶色に髪を染めて服装は乱れていました。


何より、毎日遅刻をするのです。


それも、登校するのは決まって四時間目の途中から。


そして、五時間目が始まると、サツサッと帰ってしまいます。


それは、なぜか。


そうです。


給食を食べに学校へ来ていたのです。


お母さんは、朝は寝ていて夜は出掛けるので、朝ご飯も夕ご飯も食べていない様子。


これは、けっして昭和三十年代の話ではありません。


現代でも、そういう家庭があることに先生方は驚きました。


この男の子にとっては、学校の給食が唯一のご馳走でした。


いや、それが生きるための術だったのです。


２年、３年と学年が上がるごとに、どんどん不良の度合いが進んでいきました。


学校の中にも、不良の仲間が何人かいました。


しかし、３年生も秋の頃になると、その不良仲間が急に大人しくなりました。


高校に進学するため、親や先生に説教されて、髪の色を元に戻して面接試験の練習を始めたのです。


すると、学校の中に友達は一人もいなくなりました。


仕方なく、他の中学の不良仲間と付き合うようになりました。


やはり、同じような家庭環境にある子供たちでした。


もちろん、高校へ進学する学力もお金もありません。


ある日のことでした。


その男の子が、他の中学の不良友達を自分の学校に連れてきました。


驚いたのは先生たちです。


騒ぎを起こすつもりなのか。


その男の子は、担任の先生のところへ行き、こっそりと言いました。


「この子にも食べさせてあげて」


そうなのです。


同じ境遇で、ほとんど何も食べていないというのです。


その不良の友達の通う中学は、行政区が異なり、昼の給食がありませんでした。


みんな家から弁当を持って来ていました。


先生は、急いで、その日、風邪か何かの理由で休んでいる生徒の給食をその友達のために手配しました。


もちろん、その子の通う学校には、電話でその旨の報告だけはしたそうです。


その後、卒業までの間に、何度か友達を連れて来て「この子にも食べさせてあげて」と頼んだそうです。


先生は、毎回、給食を用意してあげました。


やがて卒業の時期が近づきました。


担任の先生は、あちこちと走り回り、その子の就職先を探しました。


本来なら、出席日数が足りなくて卒業することはできません。


でも、先生方の計らいで、めでたく卒業し就職することができたそうです。


きっと。


きっと、、、きっと、それは、その子の友達思いの姿に、先生方が心打たれたからに違いありません。


この話を聞かせてくれた友人は言います。


「あの子は今頃、何をしているかなぁ。今も同じ会社で、無事に勤め上げていたらいいのだけれど」

※【いい話の広場】より