【2018年名杙統治生誕祭】誕生日サプライズ大作戦②【便乗小話】 | あるひのきりはらさん。

【2018年名杙統治生誕祭】誕生日サプライズ大作戦②【便乗小話】

 前編はコチラ

 

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「……ああ、山本もいたのか」

 インターフォンを鳴らして、政宗の部屋に合流した統治が……室内で「まぁ」「そうだよな」と肩を落とす2人を発見し、ため息をつく。

 その手には、道の途中にあるスーパーの袋が握られていた。

 統治はフライパンの上の惨劇を確認した後、2人の前にある作業台にその袋を起く。その中に野菜や肉などの食材を確認したユカと政宗は、目を輝かせて彼を見上げた。

 2人から見つめられた彼は、マフラーを外しながら言葉を続ける。

「どうせ変なことをしているだろうと思って、材料は……買ってある」

「流石統治!!」

 声を綺麗にハモらせた2人は、即座にエプロンを脱ぎ捨てた。

 

 結局、エプロンをつけた統治が手早く食事を用意したことで、彼の誕生日にひもじい思いをすることはなくなった。

 その鮮やかな手際で生み出された食卓にかじりついたユカが、食べられる瞬間を今か今かと待っている後ろで……統治は洗った手を拭きながら、政宗に問いかける。

「佐藤、他に誰か呼んでいるのか?」

「ああ、透名さんを呼んでるんだが……」

 政宗はここで言葉をきると、壁にかけられた時計を見て顔をしかめた。

「時間は大分過ぎているのに来ないな……まぁ、何か病院の用事で駆り出されてるのかもしれないけど、冷めてしまうし、先にいただくか」

「わぁぁぁい!!」

 政宗の声を合図に、ユカが食卓に並ぶ唐揚げへダイブしようとしたが……政宗は彼女の首根っこをつかみ、笑顔で制止した。

「まずは乾杯が先だろうか。ケッカ、統治のために冷えたビールを持ってきてくれよ」

「自分で取りに行かんね酒バカ宗!!」

 

 そんなやり取りの後、3人が銘々に飲み物の入ったコップを持ち、目配せをする。

 思えば……3人だけで誰かの誕生日を祝うのは、初めてではなかろうか。

 2人から目線で訴えられた政宗が、コホンとわざとらしく咳払いをして、ひときわ高くグラスを掲げた。

「統治、誕生日おめでとう!! 乾杯!!」

 

 その後、それなりに飲み食いをして……皿の中身が大分減ってきた頃。

 テレビでは人気のアイドルが、男性メンバーの誕生日をドッキリで祝う様子が流れている。「マイペースがいいと思うよぉ」という声を聞き流し、さきイカをつまんでいた政宗は……画面から再び時計を見やり、眉をひそめた。

「透名さん、遅すぎるな……何かあったんじゃないか?」

 その言葉に、食器を片付けようとしていた統治が手を止める。政宗はそんな彼の反応に気付かないフリをしながら、椅子の上で幸せそうに頬を緩めるユカに目配せをした。

「ケッカ、携帯電話を確認してくれ。何か来てないか?」

「ええよ~」

 弛緩しきった声と手つきでスマートフォンを取り出したユカは、メッセージの着信があることに気がついて親指を動かし……何かに気付いて、その表情を引き締めた。

「統治、政宗、これ……」

 呼ばれた2人が彼女の持つスマートフォンの画面を覗き込むと、まるで暗号のような文字の羅列が表示されている。

 

 『ごmなさい。いk名いで酢』

 ――ごめんなさい、行けないです。

 

「何かあったんかな……」

 心配そうに言葉を紡ぐユカに、政宗は腕組みをして呟いた。

「詳しくは分からんが……探しに行った方がよさそうだな」

 その言葉に、統治が怪訝そうな顔で疑問を呈した。

「待ってくれ。どうして彼女がこのあたりにいると思うんだ?」

「どうして、って……透名さんの性格を考えると、家の用事があるなら、もっと早い時間に連絡をくれると思わないか? 気づかなかったとはいえ、このメールが届いたのは、俺達が食事を食べている時間帯だ。おそらく彼女はこの周辺まで来たけれど、何か理由があって来ることができないんじゃないか……ってな」

 政宗の言葉に統治が腕組みをしていると、焦った表情のユカが上着を探してワタワタし始めた。

「な、何かあったんやろうか……探しに行かんと――」

 

「――待ってくれ」

 

 そんな彼女の言葉を遮り、統治は上着を着てマフラーを巻いた。

「心当たりがある、2人はここで待っていてもらえないか」

「で……でも……!!」

「――ケッカ」

 ユカが反論しようとするが、上から降ってきた政宗の声に遮られる。

 彼女が恐る恐る政宗を見上げると、彼はいつも通りの自信満々な横顔で、力強く言ってのけた。

「大丈夫だ。統治に任せよう」

 その横顔には、確固たる自信。そんな顔を見せられたら……ユカはこれ以上、反論出来なくなる。

「……うん」

 ユカが素直に頷くのと、統治が冬の空の下へ飛び出していくのは、ほぼ同時だった。

 

「……って、政宗、統治に『場所』は言わんでよかったと?」

 統治の足音が遠ざかったことを確認したユカが、彼の衣服を引っ張って問いかける。

 その問いかけに、政宗は苦笑いを浮かべて肩をすくめるだけだ。

「まぁ、統治があれだけ確信を持ってたからなぁ……正直、これ以上ボロを出さないようにするので必死だったぞ」

「統治に突っ込まれた時はどうしようかと思ったけど、流石、口八丁宗」

「何だそれは褒めてるのか? とにかく、合流できなかったらどちらかから連絡が来るだろうから、俺達は食器でも片付けて待ってようぜ」

 そう言って、汚れた取り皿やコップを持つ政宗は……統治が出ていった玄関の方を見つめて、一度、息を吐いた。

 

 心当たりがあった。

 彼女がこの辺で1人になるとすれば、あそこしかない。

 あの時、彼女と話をした――そんな、思い出が残る場所。

 

 

 統治は県道沿いの歩道を、目的地を見据えて迷わずに歩く。

「素敵な1年になればいいと思う……」

「そうっすね嬢さん……しっかし寒すぎませんかね……」

「……脳筋なのに、寒いの?」

「脳筋と寒さは関係ないですよ!!」

 小柄な少女と気さくそうな男性が、何だかテンションの異なる会話をしていたり。

「そう……貴方は女心で遊んじゃダメよ」

 コンビニの前で電話をしていた綺麗な女性が、何やら自分の方を流し目で見て笑っていたような気がしたり。

「素敵な1年を過ごしたい? そうですねぇ……過ごせると、いいですね」

 神社へ続く鳥居の前で立ち話をしていた和装の女性が、笑顔で含みのあることを誰かに告げていたり。

 まだ学生は冬休みだし、社会人でも有給を駆使して正月休みを延長している人は多い。普段は見ない顔ぶれだな、と、内心で驚きつつ……統治は気持ちを切り替えて、目的を目指す。

 

 こんな寒い日に、彼女が『あの場所』にいるのか……正直、確信は持てなかったけれど。

 でも――

 

「――やはり、ここにいたか」

 背後から声をかけられ、河川敷に腰を下ろしていた櫻子はビクリと体をすくませた。

 恐る恐る振り向くと……マフラーを巻いている統治が、どこか呆れ顔で自分の方を見ているのに気づく。

「統治さん……どうしてここに……」

「前にここで話をしたからな」

 統治は更に彼女へ近づくと……家の明かりが光る対岸を見つめ、白い息を吐いた。

 

「俺の……昔の話を」

 

 それはまだ、2人が今よりもう少しだけ、距離が遠かった頃。

 とある偶然から2人で一緒に買物をして、この河川敷で夕焼けを見て、話をした――そんな、思い出。

 今はもう日が沈んでしまったので、あのときのような明るさは周囲にないけれど。

 でも、思い出すと心が暖かくなる……そんな、2人だけの思い出。

 

 統治は無言を貫く櫻子を見下ろして、彼女の行動の理由を推測する。

「遠慮しているのか? 俺たちに……」

 その言葉に、櫻子が目を軽く見開いたのが分かった。そして無言で視線をそらした櫻子は、再び前方の川を見つめて……ため息をつく。

「すいません。きっと3人でいるほうが楽しいと思って……今日は統治さんのお誕生日ですし、年末年始の忙しさも抜けて、久々のお三方を邪魔してはいけないと……直前になってお断りのメールを送ってしまってすいません」

 櫻子の言葉に、統治は内心「あれは断りのメールだったのか……」と、1人で納得していた。

 そして、1人で背中を丸める彼女を見つめて……人知れず、ため息をつく。

 

 どうして彼女は、こんなことに気を回すのだろうか。

 そんなこと――今更誰も、気にしていないのに。

 

 統治は足を踏み出して、彼女より一歩前に出た。

 そして顔を上げた彼女に背を向けた状態で空を見上げ、白い息と共に言葉を吐き出す。

「確かにあいつらは危なっかしくて……まったくもって放っておけない。でもそれは、君も同じだ」

「え……?」

 櫻子がハッと息を呑んだのが分かった。統治は空を見上げたまま、少し目を細めて……今日、出張先で会った人の言葉を思い出す。

 

 出張先で、『西日本良縁協会』から『東日本良縁協会』へ出向している男性と再会した。眼鏡をかけて、中肉中背の立ち姿。その軽妙な語り口とネタを拾ってくれる安心感は、宮城であまりお目にかかれないタイプでもある。

 統治はここ1年と数ヶ月の間に、何度か彼に会う機会があった。その度に彼はなぜか統治の現状を把握しており、色々と一歩踏み出すことが出来ない自分へアドバイスをくれたり、時に悩みを笑い飛ばしてくれたり……と、会う頻度は多くないけれど、いつも的確なアドバイスをくれる、そんな、何でも見透かしてしまう人物。

 昼休憩の際、統治がポロリと「櫻子との現状に悩んでいる」と呟いたときにも、彼は牛タン弁当を食べながら、関西のアクセントでこんなアドバイスをくれた。

 

「もしお前がちょっとでも櫻子さんのことを好きやねやったら、自分の気持ちに正直になれ。どんどんデートとか食事に誘え。もっと仲深めろ」

 それが出来れば苦労しないんだけどなーと、統治が内心で思っていると、盛岡支局に勤務しているハーフの女性が、どこからともなくチラシを差し出した。

 条件反射で受け取った統治が、2人にまとめて問いかける。

「あの、スイマセン……このチラシは、一体……?」

「プレゼントよ。これを期限内に『えさし藤原の郷』へ持っていくと、貸衣装と写真撮影が無料で体験出来るの」

 ちなみに『えさし藤原の郷』とは、岩手県奥州市にある、平安時代を体験出来るテーマパークである。

 統治が更に理由を探していると、その女性職員は口元に笑みを浮かべて統治を見つめ、優しく微笑んだ。

「2人とも、和服はとても似合うと思うの。是非、素敵な思い出を作ってきてね」

 

 櫻子がもしも、3人との思い出が少ないことに遠慮しているのであれば。

 それを今から増やしていけばいい、それだけのことだ。

 だって君は、既に――

 

「君もあいつらも、俺の大切な人たちの1人だ」

 

 統治の中では、こんな結論が出ているのだから。

 それこそ、誕生日は家族と一緒ではなく、コチラ側で過ごしたいと思ってしまう程度に。

 統治は櫻子の方を向いて、優しくその手を差し出した。

「だから行こう、あいつらも待ってるぞ」

「統治さん……」

 櫻子の声と指先に残る、ほんの少しの迷い。

 それに気付いた統治は……呼吸を整え、自分の気持ちに正直になることにした。

 年長者からのアドバイスを、無碍に扱うことなど出来るわけがないじゃないか。

「今度はまた、もう少し……君の昔話を聞かせてくれないか?俺だけだと……何だか不公平だからな」

 

 きっと彼女が経験してきたことは、自分とは全く異なって……きっと、色々なことが新鮮に思えるだろう。

 そんな思い出を共有して、二人分をゆっくり積み重ねることが出来れば……きっと、未来はもっと輝く。

 

「――はい」

 

 笑顔で返事をした櫻子が立ち上がると、彼の手の上に、そっと自分の手を重ねる。

 今度はきちんと手を繋いで、もう、手放さないように。

 過去の思い出も、未来への期待と不安も、全てを掴んで――離さないように。

 

 

 その後、政宗の部屋に戻った2人――というか統治へ向けて、ユカと政宗が「ドッキリ大成功!!」(作成者:伊達聖人)と書かれた立て札を見せると、統治の表情から穏やかさがログアウトした。

「――佐藤。一度じっくり話をした方がよさそうだな。俺の声は聞こえるか?」

「いだだだっ!! 聞こえる、聞こえてるから耳を引っ張るのはいでぇっ!!」

 苦痛で顔を歪める政宗を尻目に、特に助け舟を出すわけでもなく、ユカは櫻子へヒソヒソと問いかけた。

「そういえば櫻子さん……思ったより遅かったけど、統治とはどげな話をしたと?」

 ユカの問いかけに、櫻子は一度、統治の方を見てから……再びユカに向き直ると、いたずらっぽく笑った。

「フフッ……内緒です」

 

 と、4人が銘々の時間を過ごしていると、ワイングラスを片手に持った分町ママが、統治の真横に降りてきて苦笑いを浮かべた。

「統治君、政宗君も悪気があったわけではないから……今回はその辺にしてあげれば?」

「……分かりました」

 渋々手を離す統治の姿に、分町ママは目を細め、グラスを掲げる。

「統治君、お誕生日おめでとう。あんなに小さかった統治君が、いつの間にかすっかり大きくなっちゃって……ママは寂しいわ。まぁ、あまり詳しくは覚えていないんだけどね」

「そうでしょうね……でも、いつも名杙を支えてくれて、ありがとうございます」

 そう言って統治が軽く頭を下げると、ママは足を組み替えて楽しそうに笑った。

「それがママのお仕事だもの。報酬だってちゃんともらっているから問題ないわ。素敵な1年になるといいわね。そんな統治君から……これからの抱負はないのかしら?」

「抱負、ですか……」

 言われてしばし考えた統治は、何かに思い至って顔を上げた。

 今日は自分の誕生日、新しい1年が始まる日でもある。だからこそ、普段から自分を支えてくれている人たちへ、自分なりの感謝と決意を述べておこう。

 抱負、という言葉を聞いていたユカ達3人と分町ママが見守る中、統治は全体を見据え、改めて――新しい一歩を踏み出す。

「みなさん、沢山の祝福をありがとうございます。 豚バラ共々、より一層の精進を重ねて参る所存ですので、今後とも宜しくお願い申し上げます」

 

 その後、心愛からの留守番電話に気づかずに帰りが遅くなったことで彼女が盛大に腹を立てて「お兄様なんか大嫌い!!」って言われたり、統治が櫻子に声をかけて予定を調整し、岩手方面へのドライブと観光を楽しみ、最終的には二人して着替えて写真撮影なんかしたりもしたのだが……それらは全てまた、別の話である。

 

 

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■全編含めたネタ元一覧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頂いたネタはなるだけ入れました。心愛……最後の1行になってゴメン。

 いやー改めてジョンお兄様の人望が分かるエピソードになったと思います。もう、お祝いの、量が、多い!!

 皆さんからの統治を見たり聞いたりすることが出来て幸せでした……今年は彼の1年だと公言してますので、本編が負けないように頑張ります!!

 統治、改めて誕生日おめでとう!! これからも仙台支局の屋台骨として頑張っていこうぜー!!

 そしてジョンお兄様、セリフの関西弁翻訳、ありがとうございました!!