冬の落語 (地獄八景亡者戯) とうとう終わりまで | そろって浄土に弥次喜多道中膝栗毛

そろって浄土に弥次喜多道中膝栗毛

残り少ない人生、死ぬのは苦しいものか、どうも痴呆老人になって死んでいくようだ。お寺の坊さんに頼んでいるが。
残りの人生、東海道中膝栗毛の弥次喜多道中のように気楽に行けないものか。

とうとう最後まできてしまった 傑作な落語ですねえ   このような極楽 いや地獄めぐりなら
ば 大賛成ですよ ひとりで さいの河原を 杖を突いて  とぼとぼ歩くのではなく 賑やかに
団体旅行のように 閻魔さんのところにゆくのであれば 楽しいですよねえ 長いお話しでし

たが 最後まで聞きほれてしまいました 米朝師匠の「地獄八景亡者戯」でござりました (Yo
uTube 桂米朝 地獄八景亡者戯 nori yoshi 作成 参考)でございます  
さて 閻魔大王のお裁き あらかた 終わって どうやら 団体旅行の皆様 皆 極楽に行け

うですよ 閻魔さんのお情けあふれるお裁きを感謝いたしております 
しかるに 今日のお裁きの終わりそうな時に どうしたのことでしょうか 閻魔様が 特に 次
なる四人の亡者の名前を読み上げます なにごとなのでしょうか この中に  医師の山井よ

うせんなる医者はおらぬか それから 山伏の 法螺吹介(ほらのふっかい) 歯抜師の  松
井泉水(まついせんすい) 軽業師の悪竹野良一(わるたけののらいち)の四名の者じゃ  こ
の四名のほかは  極楽に通ってよろしい なんでわしらだけ 残されましたんじゃ   気色が


                       (幽霊に鑑札 から)

                 「定本 落語三百題」 武藤禎夫著 岩波書店 引用 以下同じ

悪い まあ 心配することはないと思うわ  閻魔の機嫌よろしいわ 閻魔が戻ってきたぜ 
四人の亡者 それに控えい  
医師の山井ようせん 貴様は 未熟なる医術を行い 助かる
病人まで殺してしもうた 極楽に通したやるわけには
いかん 地獄行きじゃ覚悟いたせ 

伏の 法螺吹介(ほらのふっかい) 貴様は加持祈祷をするなどと申して  怪しげなる詐術
を行い 金員を貪り取ったる罪 お前を地獄に落とす 
歯抜師の松井泉水(まついせんすい
) そのほう 居合い抜きをしたり コマをまわしたりして 庶民を集めて   虫歯を抜くなどと

申して
  丈夫な歯まで抜き取ったであろう その罪軽からず お前を地獄に落としてやる
軽業師の悪竹野良一(わるたけののらいち) お前は 庶民の頭の上にて はらはらする芸
をみせて 見る者の寿命をちじめる段 罪軽からず 無茶を言いなさんな わての商売です

がな   この四人の亡者を熱湯の釜に叩きこめえ はははあ~ さあ 入れ 怖ろしいなあ 

湯玉が走ってますがな  鬼さんが大きなフォークみたいなものでお尻つ突いていますがな
入れ  ここは わしに任せてもらおう  わしは 山伏じゃ 今まで山で修業したのじゃ い
  
まここで 水の印を結んだら こんなの日当水
になってします チチンプイプイ  もう ええ
をつけてみい ほんにこれは いい湯加減じゃ   入れ
 入りますがな ああ  いい湯加減
じゃ どっかで一風呂浴びたいと思っていたのじゃ  おお 鬼さん  石鹸と シャンプーとリ

ンスを頼みまさあ  けしからん亡者め 釜から引きずり出して   針の山に放り上げよ 
怖っそろしい所ですなあ 針がびっしり植わってますがな こんな所に足を置いたら 抜き
も刺しも できませんでえ ここは 
軽業師の わしの出番じゃ この上で  三番叟でも踊

っ てやるがな 三人ぐらい わしが 背中におどる乗してやるがな  おい 口上を言えよ
東西 東西   これより 四人の者 針の山に登ってまいる (と   米朝師匠 鐘 太鼓に
あわせ 身振り可笑しく 踊る仕草) 頂上に登りしからに 千尋の谷へ 獅子の蹴落とし

よろしく どどーと) 大王様   軽業師があの亡者と 針の山に登りし後      千尋の谷へ 
獅子の蹴落とし  大王様 針の山の針が    ぼきぼき折れましたがなあ    なんという亡
者じゃ 人呑鬼(にんどんき)を呼べ おっそろしい大きな鬼    大王様   お呼びでごんす

かい 人呑鬼よ この四人の亡者 お前にくれてやる 呑んでしまえ おう     これは娑婆
から来たてと見えるな 油が乗って美味そうじゃ  怖っろしいのが来ましたなあ と  
歯抜師 鬼さん あんた 虫歯がありますなあ 行き掛けに  その虫歯抜いておいてやろう

かい と   手拭を用意して虫歯を抜きます と そのときに 亡者四人  人呑鬼の口の中
から 腹に入り込みます  亡者ども 胃袋から外へ いろんなものがありますなあ  そこに
紐があるじゃろ それにぶら下がってみよ 鬼がくくしゃみするじゃろ ヘックシション そこ

に梃子みたいのがあるじゃろ アイタタ アイタタ そこに丸いものがあるじゃろ アッハハ
ッツハア  鬼が笑うとる その下に袋があるじゃろ   屁袋というのじゃ 押してみ  鬼が
屁をこくじゃろ ブッ ブッ ブッ うわ おもろいなあ   これいっぺんにやったら   どうなる


                (気楽な人生がいいなあ 夢の酒 から)

やろ えらいことになるぞ さあ いくぜ さあ これはどうじゃ うわ  これは 大変じゃ こ
りゃ敵わん こんな奴が腹にいたら 体が持たん 早いこと外に出してしまわんと さあ
 この機会に外に出てしまえ 下に明るい所がありませすぜ 肛門じゃ    開いたり凋んだ

りしていますぜ あそこに落ち込んだら大変じゃ しっかり捕まっておるのじゃ  
こうなった
ら意地でも腹のなかにしがみついているのじゃ   うーん 出てきやがれ うーん 
こいつ
ら出てきたら酷い目にあわせてやるから うーむ   なかなか出てきよらん うーん どうし

ても出よらんがな    もうし大王様 おお 人呑鬼 いかがいたした  もうこうなったらあ
んたを呑まなきゃ しょうがない  わしを呑んで何とする 大王飲んで下してしまおう  大
王は大黄(だいおう) 腹下しでござります という 落ちでござりました
 
長い長いお話しでござりましたなあ 地獄巡りがこんなに愉快なものであれば  楽しいこ
とでござりますがなあ
このようなお話し 米朝師匠の関西弁が似合いますねえ それにしても このような長丁

場 大変な努力でございましょう 頭が下がりますよ
「定本 落語三百題」武藤 禎夫著 岩波書店によれば    このような 「地獄巡りものは 
平賀源内の根南志具佐(ねなしぐさ)など 古くからある」(p198) といわれます 

(終わり)



(さくら さくら)

(新春邦楽演奏会から)