私たち家族は、決して順風満帆な日々を辿って来たわけではない。

どこの家庭でも大なり小なり一緒だと思うが、むしろ、波乱万丈で悪戦苦闘してきたと言って良い。




結婚時の周囲の反対からはじまり、家を飛び出し一からはじめたアパートでの生活、一緒になったはいいが若い夫婦にありがちな価値観や習慣の違いによる葛藤や諍い、はたまた子育てにおける様々な悩み、思春期時代の娘達との関わり方、姑小姑の問題、そして何より、それら殆どの原因となる私の偏狭な性格。

目を瞑れば、ここまで歩いてきた道のりの情景が目に浮かぶ。










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それでも曲がりなりにもやって来られたのは、やはり心優しい妻子のおかげというしかない。




花見から帰ったあと、いつものように長女が手の不自由なおふくろをお風呂に入れてくれた。

ありがたいことに、デイサービスがある日以外、週に2、3回はそうしてくれている。




洗面所に手を洗いにゆくと、バスルームから彼女たちの明るい笑い声がもれていた。




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「じゃ、おやすみ」

着替えを済ませ、ベッドに寝かせたあとにおふくろの部屋のドアを閉めた長女の声が聞こえていた。

そのままキッチンに入ると、喉が渇いたのだろう、冷蔵庫を開け、ペットボトルの水をコップに入れると、美味しそうにそれを飲んだ。

そして、何をかすることもなく、ダイニングに座っていた私に振り向くと、にこやかに話しかけてきた。




「おばあちゃんが今日は楽しかったって。

花見に連れて行ってもらい、帰りは寿司もご馳走になり、帰ってきたら孫に風呂まで入れてもらい、こんな幸せなことはないって言ってた」




あぁ、いつのまにこんなに成長してくれたのだろう。

何一つ、まともなことを教えることなど出来なかったはずのダメ親父が望んでいたように、純粋で思いやりのある子に育ってくれた。

親バカだと言われそうだが、本当にそう思う。




そしてその時、私の脳裏には、今日行ったうぐい川の情景が一枚の美しい風景画のように思い浮かんでいた。

そこには娘たちやかみさんの笑顔があって、幸せそうに微笑むおふくろの姿があって、それを後ろから眺めながらほくそ笑む私がいて……。

だから、今年の花見は生涯忘れられない。




一瞬の季節はゆき、花は散れども、心には永遠の満開の桜が咲き誇ったままなのだ。




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