母親の死。

人生においてこれほど悲しい出来事はない。

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今年も会いに行けた瓦屋寺慈母菩薩の桜


小さな命にとって、自分を生んでくれ、孤独の魂を包み続け、ただそこにあるだけで安堵でき、この世が存在する意味と言ってもよく、依って立つ大地、まさにすべてであった。

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産まれてから、生まれる前からずっと続いていた命の鼓動が、そこでピタリと止まる。

その刹那、少年の心が、何も見えない奈落の底に突き落とされ、果てしなき荒野を永遠に彷徨う。

見果てぬ想いが乾ききった広大な砂漠の露となり、湿った木から火を出そうとすると遣らずの雨となって降りしきり、心湿らせるだけ。

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もし、母がここにいたら言うだろう。

「綺麗や、桜はほんまに綺麗や。

面白かった。

色々あったけど、何もかもに恵まれて幸せやった。

お前んらとも逢えたし。

みんな優しかった。

今度生まれて来たら、どんな人生を送ろうか。

クヨクヨするな」

あっけらかんとしたあの高笑いとともに、そんな声が聴こえてくる。

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箕作山頂上手前のヤマツツジの蕾


同じ人生は二度とない。

同じ桜はもう咲かない。

けれども必ずまた桜。

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瓦屋寺境内の老木桜


今年の花はこの雨風に舞い散っても、この世という大地や空間に溶け戻り、季節が巡りくれば新たな形となって咲き誇るだろう。

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箕作山頂上で春に舞う


悲しむな、嘆くな、永遠を求めるな。

一瞬は時のいたずら、百花繚乱の花模様。

立ち戻らぬ刹那の間隙を縫い天から垂れ下がったサガリバナ。

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沖縄や西表島で初夏に一夜だけ咲き夜明けに散る幻のサガリバナ

夢見るな、先を見るな、夢を今生きよ、桜の心。

散り際の潔さを今こそ踏み止めよ。