小雨そぼ降る丘陵の片隅に車を停めていた。


「雨の日は空が泣いてるのよ」


助手席の母親を知らない少女が雨雲を睨みながらポツリと呟いた。


臭い台詞言う奴だな。


父親を知らないひねた少年はそう思って聞いていた。


「小学校の時、放課後に雨が降っててさ。玄関の屋根の下で皆んな誰かが迎えに来るのを待ってたの。そしたら友達のお父さんがスカイラインでさーとやって来た。あれかっこよかったなあ」


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遠い南の国から集団就職でやってきた少女は、故郷の訛りではなくして関東弁と関西弁が入り混じった奇妙な言い回しで、深い悲しみを軒先から間断なく流れ落ちる雨水のようにさらりと流した。


「工場で一緒に働いている50代のおばちゃんがいてね。私と同じくらいの歳に戦争で恋人を亡くしたんだって。今でもずっと変わらず愛してるって言ってたわ。それって凄くない?」


昨夜からの雨が降り止まない今朝、そんなシーンをふと思い出した。


いや、なぜか時折何度も思い出している。


もう38年も前のことなのに。


当時のおばちゃんの歳にもう届いたはずの少女は今頃どうしているのだろう。


今も本当の自分の言葉を冷たい雨で流してはいやしないだろうか。


春を待つ雨はあまりにも身に染みる。


寒さに震えた者ほど太陽の暖かさを知るとは名言だ。


青空は、雨雲を突き抜けた先に太陽と共に常にある。


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追憶、夢、憧れ、心は自由にいつでも時空を駆け巡る。


また、夢で会えるかな?