「GINクン、元気?」。
jがGINクンにそう電話したのは、冬休み。
クリスマス前の夜だった。
「ねぇGINクン。静岡に帰ってきているんでしょ。久しぶりに会いたいな」。
いつものライブハウス。
後ろから、シンガーの歌声が聞こえる公衆電話からjはGINに電話した。
それはjにとって、一番心落ち着く場所だった。
「もちろん、喜んで」。GINクンはそう言った。
「jさんとまた会えるなんて。嬉しいよ」。そう付け加えた。それは、お世辞でなく本心から出た言葉だった。
「じゃぁ、待ち合わせ場所を言うね。伊勢丹の前。時間は12時。一緒にお昼ご飯を食べよう」。
jは相変わらずしっかりしていた。GINクンは、jの言葉をしっかりメモ帳に残した。
その日。
ライブハウスからの帰り道。
シンガーはjに尋ねた。「ねぇ、さっき、誰に電話してたの?」。
jはにこっと笑いながら、「ひみつ」と答えた。
「んんっ?ボクには教えられない人なのかな?」。
「バカね。あなたに知られたくない相手に、あなたがわかる場所から電話するわけないじゃない」。
「確かに」。シンガーは頷いた。
「それで、誰なんだい、電話の相手。電話のあと、君は本当にうれしそうだったよ」。
jははっとした。そうか私、態度に出ていたんだ。
久しぶりにGINクンとお話して、少しだけ心が弾んでしまった自分を反省した。
でも、GINクンと会おうとしたのにはちゃんと理由があった。
それは、GINクンにシンガーの歌を聴いてもらいたいって思ったから。
GIN クンは東京で、プロの空きステージを埋めるアマチュアシンガー。
本業は大学生だけど、頑張って音楽をしているGINクンに、シンガーの歌を聴かせたい。
静岡で。地方局が流す夜の情報番組のエンディングで歌うシンガーの演奏をGINクンに聴いてもらいたい。
「あなたに会わせたい人がいるの」。jがそう言うと、シンガーは笑顔で応えた。
「それは楽しみだ」。
部屋に戻るとjはシンガーに体を委ねた。
「今日は友達の家に泊まるって、両親に言ってきたの」。
二人の時間。
大切な時間の中でその日、二人はゆっくりと時間をかけて互いの心と身体をあたためあった。