Which brought us hither 君の行方
第83話 雪嶺 act.2-side story「陽はまた昇る」
沈黙は守るほうが無難だけれど、でも解らなくなることも多い。
そう告げたのは君だ。
そのままに今も電話きっと繋がらない、そんな現実が迫る。
「三月だからね、県警の山岳警備隊は遭難対応でアテに出来ないからウチが動く、っていうのは建前で極秘処理するためだよ?」
指示するテノールはいつも通り明るい、けれど硬質な緊張わだかまる。
その理由は「極秘」のせいだ、そんな現実を上司は隊員一同へ告げた。
「犯人は山岳ガイドの男で山小屋に立て籠もり中、人質は小屋主ほか3名。内1名は総務省官房審議官、犯人の要求は強盗殺人犯の無罪判決だよ、」
総務省官房審議官、
その肩書に肚底ぐわりこみ上げる。
そこにある「極秘処理」そして明方の夢が英二を引っ叩いた。
『約束したよね英二、必ず見せて…なにがあっても、』
君が言っていた「何」はこれのこと?
―籠城事件ならSATが出る、官僚の救助なら尚更だけど総務省だって?
なぜ「総務省」なのだろう?
考えだして記憶いくつも重なりだす、これは「何」かある。
もう蟠りだす予兆とさっきの記憶に先輩が挙手した。
「小隊長、1月に起きた強盗殺人の容疑者が起訴されたとニュースで聴きましたが、犯人が要求するのはこの件ですか?」
「アタリだよ、ソレの件で立て籠もられちゃったね、」
応えてくれるテノールは落着いて明るい。
それでも静かな緊迫感に上司は口開いた。
「もう解かってるだろうけどSATが出るからね、で、現場が雪山だからウチがサポートしろってワケ。県警も一部の人間しか今は知らないから口外禁止です、」
説明する雪白の顔の向こう、窓ふる雪は積もりだす。
あわく白く滲みゆくガラスに気温が解かる、まだ正午前の時計に上司は言った。
「全員に拳銃携行と防弾ベスト着用を命じます、15分に救助車で集合。黒木は装備点検お願いします、浦部と宮田は手伝いあるから残ってね、」
指示されて速やかに動きだす。
そして三人だけになった部屋、秀麗な雪白の顔は溜息と訊いた。
「あのさ…浦部も宮田も射撃は上級だね?」
ほら「何」か告げられる。
この答もう解かるまま英二はきれいに笑った。
「俺にやらせて下さい、山での発砲は俺のほうが経験あるはずです、」
きっとそういう事だろう?
その予測に先輩が呼吸ひとつ訊いた。
「小隊長、サポートって狙撃もあるんですか?SATが出るのに、」
「可能性はある、」
すぐ応えてくれる声は落着きながら硬い。
きっと苛立ち隠している、そんなトーンが続けた。
「射撃上級者で雪山に強いヤツを1名選んどけって指示がきてる、ウチでは浦部と宮田と、あとは俺だね、」
該当者は3名、そこにある意図は何か?
それくらい予測はつく、だからこそ英二は踏みこんだ。
「その3人なら俺が適任だと思います、国村小隊長は指揮官ですし浦部さんは今回ガイド役になりますよね?」
名前に肩書つけて呼びかけて、その相手が真直ぐこちら見る。
いま立場を利用させてほしい、そんな意図くらい解かる男はため息吐いた。
「宮田の言う通りです、浦部は長野に詳しいからって県警からもガイドに推薦されたね、浦部には遭対協にも伝手があるよってさ?」
推薦されて当然だろう、だって地元だ。
そこに知人も多い先輩は尋ねた。
「国村さん、そんな提案が県警からあったということは県警の山岳警備隊は誰も出ないということですか?」
「それが上からの命令だね、」
即答して真直ぐに見つめてくる。
この「上から」は大元どこなのか?もう解かるまま微笑んだ。
「では俺が就くことで決まりですね、」
他の誰でもない、自分だ。
そんな予兆は目覚める前に始まっている。
だから夢を超えて約束は告げられた、そんな確信が可能性を見てしまう。
今日、君に再会できるのかもしれない?
―きっとSATは周太が選ばれる、そのために俺は、
今日もし君が選ばれるのなら、そのために自分は今ここにいる。
その行く先は安全など遠いだろう、それでも自分は後悔など欠片もできない。
こんな本音に全てが符号あわさってゆく、そして意図「あの男」が望む結末を覆したい。
―総務省官房審議官が人質なんて見え透いてるな、でも本人は何も知らなくて、
人質、いま被害者にされている男は何も知らないだろう。
きっと「あの男」が巧妙に仕向けたことだ、そう解かるから決めた願いに言われた。
「宮田、話したい人がいるなら伝言を託してください。きっと無事にすむと信じてるけどね?」
覚悟しろ、でも信じている。
そう告げてくれる眼差しは緊張して、それでも透けるよう明るく温かい。
そこにあるリスクの可能性は解かっている、それでも信頼と願いへ笑ってうなずいた。
「必ず無事に任務は果たします、」
約束を笑って、そうして願いごとひとつ見つめてしまう。
この願いはリスクと背中合わせ、それでも渇くよう願っている。
きっと今日の涯は死線、けれど君の行方に寄添えるならそれでいい。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】
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英二24歳3月
第83話 雪嶺 act.2-side story「陽はまた昇る」
沈黙は守るほうが無難だけれど、でも解らなくなることも多い。
そう告げたのは君だ。
そのままに今も電話きっと繋がらない、そんな現実が迫る。
「三月だからね、県警の山岳警備隊は遭難対応でアテに出来ないからウチが動く、っていうのは建前で極秘処理するためだよ?」
指示するテノールはいつも通り明るい、けれど硬質な緊張わだかまる。
その理由は「極秘」のせいだ、そんな現実を上司は隊員一同へ告げた。
「犯人は山岳ガイドの男で山小屋に立て籠もり中、人質は小屋主ほか3名。内1名は総務省官房審議官、犯人の要求は強盗殺人犯の無罪判決だよ、」
総務省官房審議官、
その肩書に肚底ぐわりこみ上げる。
そこにある「極秘処理」そして明方の夢が英二を引っ叩いた。
『約束したよね英二、必ず見せて…なにがあっても、』
君が言っていた「何」はこれのこと?
―籠城事件ならSATが出る、官僚の救助なら尚更だけど総務省だって?
なぜ「総務省」なのだろう?
考えだして記憶いくつも重なりだす、これは「何」かある。
もう蟠りだす予兆とさっきの記憶に先輩が挙手した。
「小隊長、1月に起きた強盗殺人の容疑者が起訴されたとニュースで聴きましたが、犯人が要求するのはこの件ですか?」
「アタリだよ、ソレの件で立て籠もられちゃったね、」
応えてくれるテノールは落着いて明るい。
それでも静かな緊迫感に上司は口開いた。
「もう解かってるだろうけどSATが出るからね、で、現場が雪山だからウチがサポートしろってワケ。県警も一部の人間しか今は知らないから口外禁止です、」
説明する雪白の顔の向こう、窓ふる雪は積もりだす。
あわく白く滲みゆくガラスに気温が解かる、まだ正午前の時計に上司は言った。
「全員に拳銃携行と防弾ベスト着用を命じます、15分に救助車で集合。黒木は装備点検お願いします、浦部と宮田は手伝いあるから残ってね、」
指示されて速やかに動きだす。
そして三人だけになった部屋、秀麗な雪白の顔は溜息と訊いた。
「あのさ…浦部も宮田も射撃は上級だね?」
ほら「何」か告げられる。
この答もう解かるまま英二はきれいに笑った。
「俺にやらせて下さい、山での発砲は俺のほうが経験あるはずです、」
きっとそういう事だろう?
その予測に先輩が呼吸ひとつ訊いた。
「小隊長、サポートって狙撃もあるんですか?SATが出るのに、」
「可能性はある、」
すぐ応えてくれる声は落着きながら硬い。
きっと苛立ち隠している、そんなトーンが続けた。
「射撃上級者で雪山に強いヤツを1名選んどけって指示がきてる、ウチでは浦部と宮田と、あとは俺だね、」
該当者は3名、そこにある意図は何か?
それくらい予測はつく、だからこそ英二は踏みこんだ。
「その3人なら俺が適任だと思います、国村小隊長は指揮官ですし浦部さんは今回ガイド役になりますよね?」
名前に肩書つけて呼びかけて、その相手が真直ぐこちら見る。
いま立場を利用させてほしい、そんな意図くらい解かる男はため息吐いた。
「宮田の言う通りです、浦部は長野に詳しいからって県警からもガイドに推薦されたね、浦部には遭対協にも伝手があるよってさ?」
推薦されて当然だろう、だって地元だ。
そこに知人も多い先輩は尋ねた。
「国村さん、そんな提案が県警からあったということは県警の山岳警備隊は誰も出ないということですか?」
「それが上からの命令だね、」
即答して真直ぐに見つめてくる。
この「上から」は大元どこなのか?もう解かるまま微笑んだ。
「では俺が就くことで決まりですね、」
他の誰でもない、自分だ。
そんな予兆は目覚める前に始まっている。
だから夢を超えて約束は告げられた、そんな確信が可能性を見てしまう。
今日、君に再会できるのかもしれない?
―きっとSATは周太が選ばれる、そのために俺は、
今日もし君が選ばれるのなら、そのために自分は今ここにいる。
その行く先は安全など遠いだろう、それでも自分は後悔など欠片もできない。
こんな本音に全てが符号あわさってゆく、そして意図「あの男」が望む結末を覆したい。
―総務省官房審議官が人質なんて見え透いてるな、でも本人は何も知らなくて、
人質、いま被害者にされている男は何も知らないだろう。
きっと「あの男」が巧妙に仕向けたことだ、そう解かるから決めた願いに言われた。
「宮田、話したい人がいるなら伝言を託してください。きっと無事にすむと信じてるけどね?」
覚悟しろ、でも信じている。
そう告げてくれる眼差しは緊張して、それでも透けるよう明るく温かい。
そこにあるリスクの可能性は解かっている、それでも信頼と願いへ笑ってうなずいた。
「必ず無事に任務は果たします、」
約束を笑って、そうして願いごとひとつ見つめてしまう。
この願いはリスクと背中合わせ、それでも渇くよう願っている。
きっと今日の涯は死線、けれど君の行方に寄添えるならそれでいい。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】
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